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「小蓮(シャオリェン)の恋人 新日本人としての残留孤児二世」井田真木子

2013年10月19日 22時33分11秒 | 読書(ノンフィクション)

『小蓮の恋人』の表紙画像
「小蓮(シャオリェン)の恋人 新日本人としての残留孤児二世」井田真木子

講談社ノンフィクション賞受賞作品。
中国残留孤児がテーマ。
中国の田舎の農村から東京に来た彼ら。
どのようの問題に直面したのか?
どう生きて来たのか?
今年読んだノンフィクションの中で一番良かった。
いくつか文章を紹介する。

P29
「私の中には、二人の違う人間がいるの。
一人は11歳のとき日本にやってきて、去年成人式をむかえた日本人の真理子です。そしてもう1人は、11歳のときに故郷を出てそのまま大人になるのをやめてしまった、中国人の喜蓮です。私の中には二人がいるの。中国人と日本人。私の中には、だから、ふたつのコドバがあるの。中国語と日本語よ。ふたつの違うコトバよ。(後略)」

P91
三百元ですけど、この意味がわかりますか?
とても大きなお金ということですね。そう答えると、小蓮は目に見えてホットした。中国の農村部で、一家族が一ヶ月暮らす生活費が百元あまりと言われる。

P108
蓮というのは、小蓮の幼名の通称だ。小蓮(シャオリエン)というのが、普通の呼び方だが、親しくなると蓮、または蓮々と呼ぶ。会話の中で呼びかけるときには、蓮也(リェンイエ)とも言う。

P133
正子と長興は、彼らの人生の中で農作業のパートナーだったことはあっても、より精神的な人生の伴走者として生きてはこなかった。
正子と長興は日常生活のいたるところでトラブルに直面する。たとえば、寮の規則を理解することができない。たとえば、ほかの残留孤児家族との共同生活にきしみが生じる。たとえば、スーパーマーケットでの買い物の方法がわからない。日本の社会が中国と異なっている点は、おしなべてトラブルの原因になった。

P142
恋愛は個人と個人の関係であると同時に、社会構造のひとつの指標でもあるからだ。恋愛のありかたは、個人的な事情とともに、その時代と社会のありようを映し出す鏡である。意識するとしないとにかかわらず、その社会が持つ構造とまったく無縁に恋愛を成就させうる人は少ない。たとえば、中国の農村で充分に機能していた正子と長興の夫婦関係は、構造の異なる東京という都市に持ち込んだときまったく無力になった。恋人や夫婦の関係性とは、いわば、彼らが属している社会の構造が生み出す機能なのだ。


素晴らしい内容だった。
著者は、『プロレス少女伝説』で、大宅壮一ノンフィクション賞も受賞している。
実力のあるノンフィクション作家。
他著書も読んでみようと思うが、ほとんどの作品が絶版状態、入手困難。
今回も、図書館で借りるしかなかった。

2001年、44歳で急逝された。
新作を望むことは出来ない。
本当に惜しい才能である。

PS
私は文庫本で読んだが、ハードカバーもチェックしてみた。
すると、単行本では、主人公・小蓮の日本名が満智子となっていた。
文庫化したときに、名前を大幅に入れ替えたようだ。
ハードカバーも文庫本も、両方とも名前は仮名と思われる。

【ネット上の紹介】
「ここ以外ならどこへでも―」死と隣り合わせにいるような貧しい農村を後に、小蓮たちは日本に来た。中国では残留孤児の母ゆえに日本鬼と呼ばれ、日本では「中国人」といじめられた。それでもなおこの国での将来を模索する小蓮の中国帰郷を中心に、戦後日中の実像を描く。講談社ノンフィクション賞受賞。