「サバイバル登山家」服部文祥
面白かった。
かなり前に上梓された作品だけど、色あせていない。
昨今の風潮は、技術やトレーニング、はたまた電子機器をいかに使いこなすか。
本書は、アンチテーゼとも言える作品。
登山は、『生活』である、と。(私は本書をそう理解した)
その為にも、食料は釣りをして自分で獲得する。
川を遡行してイワナを釣りながら登山を行っていく。
即ち、山での生活=サバイバル、である。
P76
燃料もコンロもなし。テントもなし。食糧は米(1日1合)と味噌と調味料のみ。電池で動くものは携帯しない。
1996年の年末から1997年の正月の話
P167
(前略)牛首尾根から2回の懸垂で黒部川の谷底に降り立つと、目の前に現れた黒部川には粘りけのある黒い水がごうごうと重たそうに流れていた。
少なく見積もっても水深は腰くらいまでありそうだった。僕は1目で「これは渡れない」とあきらめた。つづいて懸垂下降で降りてきた和田が下降器からロープをはずしながら言った。
「お、いけてるやないか」
耳を疑った。しかし「これが?」とも聞けずにきょろきょろしていると、和田は「いこか」といいながら黒部川にそのまま身を沈めていった。(ちなみに、ここに登場する和田とは和田城志氏のこと。私は昔、十字峡を見たことがあるが、とても渡れるシロモノではない。・・・「常軌を逸している」とはこのことだ。黒部川の水は冷たい。6月頃、膝下の徒渉をしたことがある。あまりの冷たさに気が遠くなった。それがヘソまでつかって、冬に徒渉できるのだろうか?やはり常軌を逸している)
【ネット上の紹介】
「生きようとする自分を経験すること、僕の登山のオリジナルは今でもそこにある」ハットリ・ブンショウ。36歳。サバイバル登山家。フリークライミング、沢登り、山スキー、アルパインクライミングからヒマラヤの高所登山まで、オールラウンドに登山を追求してきた若き登山家は、いつしか登山道具を捨て、自分の身体能力だけを頼りに山をめざす。「生命体としてなまなましく生きたい」から、食料も燃料もテントも持たず、ケモノのように一人で奥深い山へと分け入る。南アルプスや日高山脈では岩魚や山菜で食いつなぎ、冬の黒部では豪雪と格闘し、大自然のなかで生き残る手応えをつかんでいく。「自然に対してフェアに」という真摯な登山思想と、ユニークな山行記が躍動する。鮮烈な山岳ノンフィクション。
[目次]
知床の穴
1 サバイバル登山まで(満ち足りた世代
肉屋)
2 サバイバル登山(サバイバル始動
サバイバル生活術
日高全山ソロサバイバル)
3 冬黒部(黒部とは
二一世紀豪雪
三つの初登攀)