高校生の真裕子は、母を殺される。
ここから、この物語が始まる。
被害者の苦しみ、加害者側の思い。
家族それぞれの思い、親戚、加害者の妻、弟、マスコミ、警察、検察、弁護士、学校、クラスメート、友人、近隣の住民、あらゆる立場を丁寧に描いていく。見事だ。
いったい、真裕子の心の安らぎは訪れるのか?
重いテーマを、最後のページまで引っ張る力はさすが。
P338上巻
父は母のことなど何も理解していなかったのではないか、母の幸福など、何一つとして考えていなかったのではないかという思いが頭の中に充満した。
P72下巻
人の怒りというものは何というエネルギーを生み出すものなのだろうと、真裕子は今回の一件以来、何度も思い知らされていた。
P416下巻
罪を裁く、罪を犯した人間の処遇を決める。けれど、傷ついた人、生命を落とした人に対しては、法廷は何をするわけでもない。
ところで、本作は1994年10月に出版された。
あの「凍える牙」が1996年4月なので、その前にあたる。
見事な内容なので、比較的最近の作品かと思っていた。驚いた。
どうりで、登場人物たちが携帯を使用していないはずだ。
1994年と言えば、まだ、ポケベルの時代。
携帯が普及するのは、1995年以降かと思う。
それにしても読み応えがあった。606+525=1131頁。
乃南アサさんは、長編の方がより力を発揮するなぁ、と思いながら読んだ。
【ネット上の紹介】
あなたの近しい人が、ある日突然殺されたらどうするでしょうか。嘆き悲しみ、怒り憤るでしょうか。―高校生の真裕子は、母を殺された。犯人は逮捕されるが、苦しみは終わらない。現実を受け入れようとするのだが、それができない。必死に精神のバランスをとろうとする彼女の周囲には、重く張り詰めた空気だけがある。果たして真裕子は、安らぎを得ることができるのだろうか…。