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「引き抜き屋」①②

2021年05月26日 14時48分06秒 | 読書(小説/日本)

①「引き抜き屋 鹿子小穂の冒険」雫井脩介
②「引き抜き屋 鹿子小穂の帰還」雫井脩介

昨年も読み返したが、今年も再び読み返した。
新米ヘッドハンターの活躍を描くお仕事小説。
終盤はM&Aを描く企業小説の様を呈する。
 
①P156
 ヘッドハンティングは、その業界ではエグゼクティブサーチとも言われ、ヘッドハンティング会社はサーチファームという名で呼ばれている。ヘッドハンターはコンサルタントという肩書きが付くのが一般的だ。
 サーチファームは数人のヘッドハンターと、それを支えるリサーチャーなどのスタッフで構成されている。大手と言われるサーチファームでも、在籍するヘッドハンターはせいぜい十人そこそこというところである。一匹狼で業界を渡っているヘッドハンターもいる。必要な資格はなく、参入障壁もないから、ビジネススタイルもそれぞれだ。ただし、人脈がなければ何もできないし、能力がなければ信頼は勝ち取れず、依頼は回ってこない。誰でもできるようでいて、誰もができるわけではない仕事である。

①P256
「へえ、山登りですか……私もここんとこは全然登ってないですね」(中略)
「何か、昔はよく登ってたみたいな言い方だね」(中略)
「登ってましたよ」
「へえ」小穂が真顔で応じたので、畔田は見直したように感嘆の声を発した。「山ガールってやつか。人は見かけによらないね」
「見かけによらないも何も、以前は私、アウトドアメーカーの[フォーン]で働いていたんですから」(中略)
「そりゃ失礼。だったら、山登りなんかお手のものだね。今まで、どんな山に登ってきたの?」
「高尾山です」

②P60-61
「いやあ、ただ壁を登るだけなのに、ボルダリングって、やってみると奥が深いですね」(中略)
「一つ手を間違えたり、簡単なほうに逃げたりしてると、結局、あとになって、にっちもさっちもいかなくなっちゃうんですよね。大局観と戦略が必要だし、ある意味、経営の極意にも通じますよね」

渓流釣りのために遡行していて大きな岩を登る小穂
②P371
不意に、頭上に影が差した気がした。その影がもぞもぞと動いている。
「熊がいます~!」小穂は岩壁にしがみついたまま、畔田に助けを求めた。「熊スプレーくださ~い!」
「ははは、誰が熊だよ?」
 頭上で男の快活な笑い声が立った。
「ク、クマゴロー……?」
「クマゴローじゃねえよ」男はまた笑う。
「ダイゴロー、引き上げてやってくれ」畔田が下から声を上げる。
「ほら、もうちょっとだ。がんばれ」

【感想】1
登場人物それぞれに個性的で魅力がある。
特に、ヒロインの情に厚く、時に、とぼけた感じがいい。
最初、新米らしく「ひよっこ」感満載だったけど、章をおって成長していく。
各章によって、ビジネス内容が変わり、業界の内実も知れて興味深い。
構成も緻密で、①の出だしと②の最期で、つじつまが合うようになっている。(びっくり)
 
【感想】2
本書は①②同時出版され、その後、③は出ていない。シリーズ化されることを切に願う。(著者は、「犯人に告ぐ」シリーズが有名だけど、私はこちらの方が好みだ)
 
【ネット上の紹介】
父が創業した会社で若くして役員となった鹿子小穂は、父がヘッドハンターを介して招聘した大槻によって会社を追い出されてしまう。そんな小穂を拾ったのは、奇しくもヘッドハンティング会社だった。新米ヘッドハンター・小穂は、一流の経営者らに接触するなかで、仕事や経営とは何か、そして人情の機微を学んでいく―。緊迫感溢れるミステリーで人気の著者が新境地に挑んだ、予測不能&感涙のビジネス小説。
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