「おしかくさま」谷川直子
この表紙をよく見て。
鳥居の向こうに『ATM』の文字がある!
テーマは「お金」と「宗教」。
この重いテーマを、軽妙にコミカルに、(時にシリアスに)描いている。
一人称で物語が進行するが、語り手が次々に変わる。
父、母、姉、妹、妹の子・・・と、5人が交代で語る。
このめまぐるしさに最初戸惑うが、だんだん慣れてくる。
おそらく、「姉」に作者の心情が色濃く投影されている、と思う。
姉の語りが際だってシリアスだから。
P117
それにしたって夫があたしと別れるために慰謝料を払おうとしたのはまさに愛をお金で傷つける行為そのもので、みっともないお金の話が何カ月も続けられたのは二人の間で失われた未来につけた値段に食い違いがあったからだが(そもそもあたしの未来に金に換えられる値打ちがあったのだろうか)、高い慰謝料をもらっても傷つくということはやはりお金と愛は対極にあるというイメージもあながちお手軽な割り切り方でもないのだと思ったりしたわけで、けっきょく金を受け取ることであたしは愛に見切りをつけたのだから愛と金を等価と見なさねば前には進めなかった、そのことがいまもあたしを深く損ない続けている。
【ネット上の紹介】
おしかくさまという“お金の神様”を信仰している女達に出会った49歳のミナミ。先行き不安なバツイチの彼女は、その正体が気になって…… “現代の神”お金を問う、文藝賞受賞作。