MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち』

2019-10-24 00:23:48 | goo映画レビュー

原題:『The Hummingbird Project』
監督:キム・グエン
脚本:キム・グエン
撮影:ニコラ・ボルデュク
出演:ジェシー・アイゼンバーグ/アレクサンダー・スカルスガルド/サルマ・ハエック/マイケル・マンド
2018年/カナダ・ベルギー

「ドリル」を巡る暗喩について

 最初、株取引の時間を従来よりも0.001秒縮めることに何の意味があるのかと思っていたら、株の高頻度取引というものは人間ではなくコンピューターが自動的に行なうものだと知って納得した次第である。
 今では問題になっている高頻度取引なのだが、本作の舞台になっている2011年頃は全盛期で、アントン・ザレスキの高度なプログラム能力を買った従兄のヴィンセント・ザレスキは光ファイバーの敷設に関する土地売買や施工業者の交渉役を請け負い、カンザス州にあるデータセンターとニューヨーク証券取引所の間に一直線に光ファイバーを通す大胆な計画を実行する。
 しかしただストーリーをなぞっただけでは本作の面白さは分からない。ここでは地下に穴を開ける「ドリル」に注目するべきであろう。当初は順調に土地買収が上手くいき、ドリルで地下30メートルに穴をあけられていたのだが、途中から絶対に神から授かった土地を売らないという男が現れ、さらに固い岩盤でドリルの先端が破損する事故が起こるのであるが、それはヴィンセントが末期の胃がんを患いながらプロジェクトを離脱することはできず、治療を先延ばしした結果、ヴィンセントの「先端」から血尿を出すということがプロジェクトの失敗の暗喩として描かれているからである。
 だからといってライバルのエヴァ・トレスが社長を務める株取引会社が建てた塔が勝利を掴むわけではなく、テニスボールや月や雨粒などの「丸」の出現により「棒」は完全に否定されるのである。


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