MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『ボーダー 二つの世界』

2019-10-27 00:50:48 | goo映画レビュー

原題:『Gräns』 英題:『Border』
監督:アリ・アッバシ
脚本:アリ・アッバシ/イサベラ・エクルーフ/ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト
撮影:ナディム・カールセン
出演:エヴァ・メランデル/エーロ・ミロノフ/ステーン・ユングレン/ヨルゲン・トーソン
2018年/スウェーデン

ポップにならない北欧神話について

 主人公でスウェーデンの停泊地の税関職員として務めているティーナは「嗅覚」で不正なものの持ち込みを防ぐ特殊な能力で100%嗅ぎ当て、職員たちから一目置かれているのだが、そもそもティーナは自然界に住み、人間に敵対する超自然的な「トロール(Troll)」と呼ばれる怪物なのである。しかし本人はそのことに気がついておらず、世界中の虫を採集している旅行者のヴォーレとたまたま遭遇したことで自分の出自を知ることになる。
 高齢者福祉施設で暮らすティーナの父親は事実を知っていたが、本人には知らせないままで、ティーナは自分の容姿や身体の仕組みに違和感を持ちながらドッグトレイナーのローランドと森の奥で暮らしているのだが、当然のことながらローランドと性交渉は無い。
 ティーナは再び再会したヴォーレを自分の家の離れのゲストハウスに住まわせ、ローランドが留守の時に初めて性交渉をするのだが、それは高揚したティーナの股間に男根が生えたからである。しかし人間に育てられたティーナに反して、ヴォーレは人間に対して怨みを持っており、復讐しようと自ら不受精のまま産んだ寿命が短いトロールの子供を使って児童ポルノの犯罪に加担していた。ティーナの知人の夫婦もヴォーレの「取り替え子(Changeling)」の被害に遭い、ティーナはスウェーデンから出国するフェリーに乗っていたヴォーレを掴まえようとするのだが、ヴォーレは手錠をかけられたまま海に飛び込んでしまう。
 数ヵ月後、ティーナの元にフィンランドから小包が届けられ、中には赤ん坊が入っていたのであるが、それはおそらくティーナとヴォーレの間の子供であろう。かつての宿敵によって母親にしてもらったのである。
 人間とトロール、スウェーデン国内と国外、男性と女性、仲間と敵、正義と悪など様々な「ボーダー」を組み込み、その「侵食」を描いた本作がハリウッドで制作されたならば、DCコミックス、あるいはマーベル・コミックのようなものになるのだろうが、北欧で制作された本作はそのポップな要素が抜き取られたために生々しく、R‐18指定になっているところが興味深い。


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