MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『アド・アストラ』

2019-10-21 00:54:12 | goo映画レビュー

原題:『Ad Astra』
監督:ジェームズ・グレイ
脚本:ジェームズ・グレイ/イーサン・グロス
撮影:ホイテ・ヴァン・ホイテマ
出演:ブラッド・ピット/トミー・リー・ジョーンズ/ルース・ネッガ/リヴ・タイラー/ドナルド・サザーランド
2019年/アメリカ

愛を見失う「冷静さ」について

 主人公のロイ・マクブライド少佐はこれまでのミッションで心拍数が80を超えることがなく、宇宙船外のミッション中に強力なサージに襲われ、宇宙から地球に落下した時にも同様で、宇宙飛行士としてはとても優秀なのであるが、その「冷静さ」が災いしたのか妻との関係は上手くいっていなかった。
 ロイの父親のクリフォード・マクブライドも著名な宇宙飛行士だったのだが、地球外生命体を探査するリマ計画を遂行中に海王星付近で16年前に消息を絶ってしまっていた。ロイを襲ったサージで4万人以上が犠牲になり、そのサージの発生にクリフォードが絡んでいると判断した宇宙軍の命令で父の同僚だったプルーイット大佐と一緒に被害を免れた火星に向かって父親とのコンタクトを試みるのである。
 そこで明らかになったことはクリフォードは地球外生命体を探査することに固執し、地球に戻りたいと思った乗組員たちを殺したのであるが、奇しくもロイ自身が父親とコンタクトを取るために乗船していたケフェウス号の3人の乗員を殺してしまい、結果的に父親と同じ身振りを演じてしまうのである。
 海王星付近を漂っていた宇宙ステーションの中でニコラス・ブラザーズ(Nicholas Brothers)の『オーケストラの妻たち(Orchestra Wives)』(アーチー・L・メイヨ監督 1942年)が流れているのはロイと一緒に観賞した唯一の想い出だったからだと思うが、クリフォードは一人でロイを待っており、ロイは父親と共に地球に帰還しようとするのだが、ミッション(=理想)に憑りつかれたクリフォードは息子の願いを拒否し、冷静沈着な人間だと思っていた父親が狂っていることに気が付いたロイは父親を宇宙空間の暗闇の中へと放つのである。
 マクブライド親子の「冷静さ」は仕事上ではとても有効であっても、愛においては意味をなさないということをロイは学んだのである。


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