現在、上野の東京都美術館で催されている「コート―ルド美術館展 魅惑の印象派」では
比較的良質の印象派作品を観ることができるが、何と言ってもエドゥアール・マネ(Édouard Manet)
の『フォリー・ベルジェールのバー(Un bar aux Folies Bergère)』は必見である。
本作の有名な謎が、バーテンダーの女性が一人で佇んでいるにも関わらず、背後の鏡には
その女性に話しかけている客の男性が映っていることである。興味深い点として女性の顔と
同じくらいの大きさの男性の顔が何故か女性の顔のようにクリアに描かれていないことで、
女性の虚ろな目つきを勘案するならば、背後の鏡に写っているシーンは、直前に女性が男性と
言葉を交わした経験のイメージで、女性はそのことで憂鬱になっているような気がする。
要するにマネは女性の「記憶」を描いたのだと思うのである。
本作はマネの晩年の傑作とされているが、正確に言うならばマネは51歳で亡くなって
いるのだから、マネの「全盛期」の作品といえるであろう。