原題:『High Life』
監督:クレール・ドゥニ
脚本:クレール・ドゥニ/ジャン=ポール・ファルジョー
撮影:ヨリック・ル・ソー
出演:ロバート・パティンソン/ジュリエット・ビノシュ/ミア・ゴス/ジェシー・ロス
2018年/フランス・ドイツ・イギリス・ポーランド・アメリカ
処理しきれない「愛」の問題について
『アド・アストラ』(ジェームズ・グレイ監督 2019年)を難解なSF作品と捉えている観客たちには本作のストーリーは全く意味がわからないであろうが、幸か不幸か本作は単館上映だったためにそのような文句を言われずに済んでいる。
粗筋を書き記しておくならば、死刑や終身刑が言い渡された9人の重犯罪人たちが極刑の免除の代わりに、宇宙船7号に乗ってブラックホールからエネルギーを抽出するミッションに参加する。船内には地球と同じ環境が整えられており、地球から絶えず映像が送られてくるのだが、乗務員同士の性交は禁じられており、彼らは「ファック・ボックス(The Fuckbox)」の中で性処理をしなければならなかった。
ところが夫と子供を殺したことで乗船しているディブス医師は彼らを利用して人工授精を企んでいた。実はディブス医師は家族を殺害した時に、自身も傷つけてしまい子宮を失っていたのである。ディブス医師はクルーたちの睡眠もコントロールできる装置を持っており、吟味の末に眠っている主人公のモンテから精液を抜き取り、自分の卵子と混ぜ合わせた後にボイジーの子宮に注入するのである。その結果、元気な女の子が生まれるものの、子供など望んでいないボイジーにしてみれば、自分の乳房から絶えず溢れる乳にまみれることに我慢できず自殺の一因になってしまう。
間もなくしてディブス医師も自殺してしまうのは、自分がやりたいことを達成できたからであろう。次々とクルーが亡くなり、最後に残ったモンテが彼の娘であるウィローを育てており、彼女がティーンエイジャーになった頃、2人は宇宙船9号に遭遇するのであるが、船内には犬しかいなかった。ウィローはそのうちの一匹を育てたいとモンテに懇願するのであるが、モンテはそれを許さない。子供の頃にモンテは犬を助けるために友人たちを殺しており、犬がトラブルの元になることが分かっていたからである。
やがて2人はブラックホールの近辺にたどり着き、「準備はいいか?」とモンテに訊かれたウィローは「いい」と答えるのであるが、これは近親相姦を暗示しており、つまりディブス医師はモンテとウィローによって自分が殺した家族の再生に成功し、心置きなく自殺したはずなのだが、自分に似すぎてしまったウィローの魅力で失敗してしまうという皮肉が描かれているように思うのである。