tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

観光地奈良の勝ち残り戦略(18)首都圏住民の観光動向

2008年09月14日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
財団法人南都経済センターの「センター月報」は、毎月楽しみにしているが、この9月号は、内容がとても充実していた。巻頭特集は「県内企業の海外進出・貿易取引状況に関するアンケート調査結果」と「首都圏在住者の観光の動向と奈良県への観光に関する調査」の豪華2本立てだ。
http://www.nantoeri.or.jp/geppou/saisin.html

「首都圏在住者の…」は、これから詳述するとして、「県内企業の…」は、貴重な資料である。奈良を除く近畿2府3県すべてにJETRO(ジェトロ=日本貿易振興機構)の拠点(本部・事務所・情報デスク)がある。だから他府県のデータはJETROに照会すればすぐに分かるが、奈良県は蚊帳の外なのだ。この調査は、そのすき間を埋める労作である。ぜひ定期的にリサーチしていただきたいと思う。

このほか「ザ・ヒルトップテラス奈良」「植村牧場」「宇陀松山」の紹介は簡にして要を得ているし、「新たな落日の始まり?」(ならやま雀)の論旨は、私が得た最新情報とも一致する。その他の記事も含め、この一冊で同センター研究員のレベルの高さがうかがえる。
http://www.nantoeri.or.jp/

さて今回は巻頭特集のうち、首都圏住民の観光動向を取り上げる。担当されたのは上席主任研究員の丸尾尚史氏である。この調査結果は新聞各紙の奈良県版などで、「首都圏で、遷都祭に行きたいという人は1割未満だった」という部分ばかりが強調して紹介され、とても残念だった。俗受けする部分ばかりを強調し、肝心のコア部分に1行も触れないというのは、調査担当者に対する敬意を欠く行為であろう。
http://mytown.asahi.com/nara/news.php?k_id=30000000809060002

この調査は《県内の観光活性化のためには、観光客、特に宿泊観光客を増やすことは有効であると思われる。奈良県の宿泊観光客の動向をみると、首都圏在住者が4割近くを占めている》ことから、首都圏住民を対象に選んだ。調査設計の詳細は同センターのHPをご覧いただきたいが、回答者は首都圏在住で20歳以上の676人(男性347人、女性329人)で、年齢的には30~40代が中心である。ネットアンケートの仕組みを利用して実施された。要点を紹介すると

○近畿2府4県での宿泊場所
・1泊2日の場合
今後(5年以内程度)関西に行ってみたいという239人に、宿泊希望地を問うと、
1.京都府57.7%、2.大阪府23.0%、3.兵庫県4.6% 4.関西以外4.2%、4.わからない4.2%
という結果で、奈良県は和歌山県とともに6位タイの2.9%だった(最下位の滋賀県は0.4%)。奈良県に泊まる人の4割近くが首都圏住民だというのに、他府県との比較では、こんなに少ないのだ。


左は京都、右が奈良・春日大社のポスター
(9/11 東京駅新幹線改札付近で撮影)

・2泊3日の場合
上記239人に、2泊したい場所を聞くと
1.京都府+大阪府27.2%、2.京都府で2泊18.8%、3.京都府+奈良県15.9%、4.京都府+兵庫県8.8%、5.大阪府で2泊5.4%
と、やっと奈良はベスト3に浮上する。京都の力を借りなければ、奈良に泊まってもらえないのだ。東京から新幹線利用で奈良に入るには京都を通過する、という事情があるのかも知れないが(首都圏から関西に入る交通手段は、79.5%が新幹線利用希望だった)。

○奈良県への訪問回数(観光目的)
1.奈良県へ訪問経験あり85.5%(578人)、2.一度もない14.5% と、ほとんどの人が奈良を訪れている(頻度では、53.5パーセントが「一度だけ」)。
578人のうち、「修学旅行で行った」は90.0%(520人)に上った。その時の印象も、6割近くが悪くないという印象だ(「良い」24.2%、「どちらかといえば良い」33.3%)。
なお修学旅行については、この調査からある程度の傾向が読み取れたので、別途、当ブログで論じる予定である。

○奈良県での宿泊場所(観光目的)
「奈良県へ訪問経験あり」の578人に、宿泊場所を聞くと(複数回答)、
1.奈良県54.5%、2.京都府50.2%、3.大阪府11.2%
という結果だ。奈良県が強いのは当然としても、ほぼ同数が京都に泊まっている。確か一昨年、皇太子ご夫妻が東大寺二月堂のおたいまつ(お水取り)をご覧になったが、その際も宿泊は京都の御所だった。これは、とても残念な風潮である。

○奈良県の魅力
「奈良県へ訪問経験あり」の578人に、宿泊場所を聞くと(複数回答)、
1.歴史・文化85.6%、2.建造物42.7%、3.名所・史跡33.2%、4.静けさ・落ち着き30.3%、5.風情・趣28.4%
と、いずれも想定の範囲内だが、まちなみ(15.6%)、祭り・イベント(2.8%)が意外に少ないのと、県が取り組む食事(3.1%)、おもてなし(0.5%)が振るわないのが残念だ。


バックパッカーにも人気の新田旅館
(ならまちの元興寺極楽坊前 9/13撮影)

○今後の訪問意向
県下6つの観光エリアについて、訪問の意向を聞いている。「行ってみたい」という回答が奈良市78.1%、斑鳩76.3%で高いのは当然としても、飛鳥・橿原61.5%、室生・長谷58.0%、吉野山53.4%、十津川・天川52.5% と、いずれも健闘している。うまくPRすれば、魅力的な観光地として、今後多くの人を引きつけることができるだろう。

○伝統行事・イベントの認知度
今回の調査で一番ガッカリしたのが、この項目である。お水取り、燈花会、正倉院展、おんまつり、けまり祭(談山神社)、蛙とび(金峰山寺)の6つの行事については、認知度も訪問経験も少ないのだ。JR東海のCMが東京圏で流されたお水取りと、読売新聞が大々的にキャンペーンした正倉院展は、4割の人が「知っている」だが、「行ったことがある」は、すべてのイベントで1割未満である。燈花会は「知らない」が83.1%に上る(行った人は1.8%)。「奈良のPR下手」という悪弊が、ここにも現れた格好だ。

○遷都1300年祭について
マスコミが飛びついたのがこの項目である。まず認知度は
1.名前は知っている49.1%、2.知らない43.8%、3.ある程度の内容を知っている7.1%
と、大変寂しい状況である。しかしマスコットキャラクターについては、
1.せんとくんを知っている75.6%、2.まんとくんを知っている51.8% 
と、これは大したもだ。祭りへの興味と参加予定は
1.興味なし39.6%、2.興味あり38.0%
1.参加予定なし82.0%、2.わからない8.3%、3.行く予定8.3%
と、いずれも心許ない。マスコミは面白がるが、協会はPR予算をわずかしか計上していないので、これは当然の結果だ。「せんとくん・まんとくん騒動」のおかげでマスコットキャラクターがこれだけ広く認知されたことの方が、想定外なのだ。


咲き始めた萩の花(9/2 平城宮跡東院庭園で撮影)

担当の丸尾氏は、レポートをこう締めくくっている。注目すべきは、このくだりである。

《1300年祭に行くと回答した人に尋ねた「仮に平城遷都1300年祭がなければどうするか」という質問では、「なくても行く」という回答が7割を超えており、平城遷都1300年祭の開催がもたらす宿泊観光客増加の効果は、今のところ薄い》。

《観光が、地域の活性化にとって「残された数少ないカードの一つ」である奈良県では、一時的な観光客の増加では済まされない。奈良県が未来永劫発展していくためには、2011年以降、再度、再々度奈良県を訪れる人の流れを作っていくことが必要で、平城遷都1300年祭はそういった重要な役割も担っていると思われる》。

「シルク博は失敗だった」とは、私の持論である。打ち上げ花火的に1988年の観光客が増えただけで、むしろその後は開催前よりも観光客が減った。その反省もないままに1300年祭が企画されたが、きちんとリピーターを呼び込む手だてを打たなければ「第2のシルク博」に終わる可能性が高い。

奈良にとって最も有り難い観光客は、宿泊が見込め、また人口も多い首都圏の住民である。この調査は、今後の観光振興策を考える上でも、また1300年祭のPRを考える上でも、とても良い情報を提供してくれる有意義な調査であった。丸尾さん、有り難う。
※冒頭の写真は、平城宮跡・朱雀門(9/2撮影)

観光振興と魅力あるまちづくり―地域ツーリズムの展望
佐々木 一成
学芸出版社

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コメント (11)
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