tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

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中村てつじ氏の“森林再構築”論

2008年09月23日 | 環境問題
9/19(金)、中村てつじ(哲治)氏の話をお聞きした。中村氏は、奈良県選出(民主党)の現役の参議院議員である。氏の主張の要点は、“地球温暖化と「林業」(中村てつじの「日本再構築」Vol.7)”というA4版1枚のチラシに、分かりやすく出ている。

《京都議定書で定められた日本の削減枠6%のうち、3.8%が森林吸収源だということはあまり知られていません。期限までに3.8%を使い切るためには、あと5年間で間伐を100万ha増やす必要があります。そのために今年5月9日に森林間伐促進法ができました》。

《しかし、間伐促進法ができたからといって簡単には間伐は進みません。(中略) 間伐が進まない最大の原因は、長期間に及ぶ林業の不振により、下がった木材価格(材価)に応じた搬出方法が普及してこなかったからです。例えば、奈良県の林業では、ヘリコプターで木材を搬出していました。森林所有者や材木業者の皆様は、30年前の高かった材価が念頭にあり、下がった材価によって意欲を失っていらっしゃいます》。

森林所有者の代わりに森林作業をするのが「森林組合」であるが、臨時雇用であり、組織的・継続的には取り組めない状態にある。《解決策としては、小規模の森林所有者の土地を集めて管理をする「提案型集約化施業」があります。小口の土地を集めて団地化することで、搬出コストを押さえられる高密度の林道(作業道&私道)を整備することができます》。


間伐材加工センター(宇陀郡・御杖村森林組合 8/14撮影)

《山の稜線に幹線の林道を引くことによって、森林所有者が私道で作業道を引くインセンティブを与えることができます》。幹線さえ引いてやれば、森林作業者が私道を伝って木材を運び込むことができる。そこからは、2トントラックで搬出すれば済むのだ。

幹線的な林道を引くべきは行政の仕事だろうが、肝心の行政は「森林組合の改革が先だ(しかも予算が足りない)」として、林道整備は一向に進まない。これが1つめのネックになっている。

もう1つのネックは、住宅メーカーが国産材を使わないことだ。《世界から選りすぐりの外材が入ってきています。結局、国産の並材よりも倍ぐらいの価格で取引されているのですが、乾燥もキチンとし数量も大規模な注文に応じられる外材に、国産材は対抗できていません。生産から流通まで林業が直面している問題は多岐に及んでいますが、手をこまねいているわけにもいきません》。

確かに生産だけでなく、流通側にも問題が多い。その辺りの改革やマーケティングにより、消費者のニーズを十分把握し、求められるものを提供するという当然の努力が必要だ(この辺りは、田中淳夫著『森林からのニッポン再生』平凡社新書 に詳しい)。

上記2つの問題点を、氏は「政策提言レポート」(1,2)に敷衍(ふえん)してまとめられた。内容は氏のブログに出ているが、このレポートの要点を以下に挙げると、

1.日吉町森林組合(京都府南丹市)は、上記「提案型集約化施業」を実践している。これは森林組合の構成員(=森林所有者)に対して、小規模に分かれている林地を「集約」して「施業(間伐)」することを「提案」するシステムのことである。組合は「間伐の代金がいくら所有者に環流されるか(=間伐材の販売代金+補助金-出材コスト)」を明記して、各所有者と契約を締結している。


丹生川上神社(吉野郡川上村)からの遠望(07.7.24撮影)

2.これにならい氏は、「林地共同所有株式会社」の設立を提案する。現在の森林の荒廃は、森林所有者がコストに見合わないという理由から、間伐をしないところに原因がある。この仕組みでは、まず会社が森林所有者から森林(立木+林地)の提供を受ける(その見返りとして、同社の株式を譲渡する=現物出資)。これにより森林組合は、個別に所有者の了解を取らなくても間伐ができる。所有するだけでなく資産を運用し管理するので、投資事業組合のようなイメージになるだろう。

3.あわせて「幹線林道の整備」を提案する。間伐補助金(間伐促進法により出ている)を作業道(私道)の整備に回すことも考えられる。ヨーロッパで普及している「高性能林業機械の開発」も必要だ。日本の地形や林道の幅に合った機械が要るのだ。
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20080805

4.なお「林地共同所有株式会社」が森林を買い取る際には、森林の評価が必要となる。現在、森林の評価額は相続税(国税)の評価に任されているが、氏は新たな「森林評価基準づくり」が必要であると提案する。金融機関の担保評価などは「立木の市場単価×本数-出材コスト」で計算していて、これだと「評価ゼロ」になってしまうのだ。地域の実情を踏まえ、不動産鑑定士が行政と共同で基準を作ることになるだろう。

5.住宅については、県産材を使い、奈良県の気候に合った快適な住宅を提供するため、奈良県独自の住宅評価制度の創設を提案する。北海道には「北方型住宅制度」がある。北海道の住まいにとって最も必要とされる「暖かさ」を左右する断熱性能や気密性能を確保するために、道庁はBISという資格制度を作り、この資格者が設計・施工に携わることを義務づけている。奈良県下でこれを実現しないと、ニュータウンがオールドタウン化し、若い世代が奈良に住まなくなる懸念がある。
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20080817

6.現在あまり知られていない「定期借家制度」(99年創設)の活用を提案する。使わない住宅を賃貸に回せば、まちづくりの活性化になる。これを空き家対策とセットで考える。例えば市町村が固定資産税納付書を送る際に、遠隔地の建物所有者などに、この制度をアピールする。賃貸物件としての住宅価値価値が高まるとことにより、奈良県の住宅市場の活性化につながる。
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20080228

全体として、氏の主張は正鵠を射たものである。確かに吉野の森林所有者は《30年前の高かった材価が念頭にあり、下がった材価によって意欲を失って》おり、反面「もう少し待てばチャンスが巡って来るかも知れない」という甘い見通しもあるようだ。しかし、待っていてもチャンスは巡ってこないのだ。

私見では、「林地共同所有会社による提案型集約化施業」が、この状況を打開する起爆剤になるだろう。それがダメでも「林道の整備」と「高性能機械の導入」が進めば、現状は大きく変わる。37歳の中村氏の若いパワーで、この膠着状態にクサビを打ち込んでいただきたいと思う。
中村さん、有益なお話、有り難うございました。

※中村氏の「政策提言」に関する意見や反論が掲載された、森林ジャーナリスト田中淳夫氏のブログ
http://ikoma.cocolog-nifty.com/moritoinaka/2008/08/post_cd0b.html#comments

※冒頭の写真は、川上村高原(たかはら)地区の見事な人工林(9/1撮影)


http://tezj.jp/index.php
コメント (4)
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