tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

観光地奈良の勝ち残り戦略(19)地域間競争の中でどう生き残るか

2008年09月25日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
9/19(金)、(財)南都経済センター主催の「第33回ならやまセミナー」が県社会福祉総合センター(畝傍御陵前)で開催された(13:30~17:00)。商工団体や観光関連業者、行政関係者など53人が出席した。

この日のテーマは「地域間競争の中で、観光地・奈良はどう生き残る~平城遷都1300年祭に向けて~」だった。セミナーは2部構成で、第1部は村田武一郎氏(奈良県立大学地域創造学部教授)の基調講演、第2部はパネルディスカッションだ。

1.基調講演「訪れてくださる方々との信頼関係づくり」
同センター・奥村理事長の挨拶に続き、村田氏が演壇に立った。いきなり「今日のテーマは“観光地・奈良はどう生き残る”ですが、奈良は生き残れません!」という先制パンチ。同氏の紹介する各種調査結果は、惨憺たるものだ。


いつもシニカルな村田武一郎氏

まず入込客が少ない。青森県の4841万人(人口の約34倍)に比べ、奈良県は3500万人(人口の約25倍)。宿泊客は入り込み客の9.7%の340万人(国交省調査によれば、わずか3.3%の117万人)に過ぎない。

日帰り客(日本人)の消費額も少なく、奈良県3140円に対し、京都6100円、神戸は8800円に達する。お客のニーズが分かっていないから、サービスが提供できないのである。

観光の形態は、これまでの「名所旧跡めぐり中心の非日常型旅行」から、「テーマ性の強い生活体験型旅行」に移行する(社会経済生産性本部 余暇創研)。しかも「社寺参詣」「遺跡・文化の鑑賞」という観光行動は、過去10年間で2~3割も減っている(全国旅行動態調査結果)。

奈良の問題点は「県内各地の資源・魅力を活かしていない」ということだ。1~5万人×100か所という規模の観光交流地を作らなければならないのだ。10カラットのダイヤモンド1個より、0.1カラットのダイヤ100個が大切、ということだ。良いお手本として、高取町の「町家の雛めぐり」を挙げられた。

観光客の満足度調査を見ると、不満が多いのは、美術館・博物館の「もてなし対応」、飲食店、みやげもの店、まち・むらの「値段」、史跡・公園、飲食店、みやげもの店、まち・むらの「案内表示」だった。

観光資源は持っているだけではダメで、情報発信→マスコミによる報道→興味を持つ人が訪れる→交流・意見交換→評価→誇り→情報発信、という好循環を回さなければならない。つまり「訪れて下さる方々との信頼関係づくりが大切だ」として、講演を締めくくられた。

2.パネルディスカッション「観光地・奈良の魅力づくり~平城遷都1300年祭に向けて~」

第2部は、コーデイネーターが麻生憲一氏(奈良県立大学地域創造学部教授)、パネリストは野村幸治氏(高取土佐街なみ天の川計画実行委員会代表)、松本辰雄氏(奈良交通株式会社常務取締役)、一柳茂氏(平城遷都1300年記念事業協会事務局次長)というメンバーだった。


コーディネーターの麻生氏。左は南都経済センターの武村氏(司会)

最も印象に残ったのは、野村氏の発言だ。野村氏は1942年生まれ。証券会社で勤務され、東京・大阪・名古屋などで単身赴任生活を送られた後、02年に故郷の高取町に戻ってまちづくりの活動を開始した。高取のまちづくりのことは、私も当ブログで少し触れたことがある。野村氏は、高取町を訪れる観光客を「ゼロから3万人にした男」として知られる。
http://blog.goo.ne.jp/tetsuda_n/e/1bfbc687d05faff4b89797599dd3735a


野村氏だけは、マイクが要らない

氏によれば、《「通過型の観光」は観光ではない。観光で大切なのは、いかにおカネを落としていただくか。「観光客数×1人当たりの消費額=観光消費額」だが、観光客数を増やすにはキャパの問題がある。だから「観光客1人1人に、いかにおカネを使っていただくか」が大切。そのためには、正確なデータを把握しておかなければならない》。
http://www.hinameguri.jp/


高取藩の下屋敷表門が移築された医院(高取町下土佐)


壺阪漢方堂薬局(高取町観覚寺)

驚いたのは、このデータだ。野村氏は、「雛めぐり」イベント開催中(3/1~31)の観光客数(「雛の里親館」の来館者数)を毎日カウンターで正確に計り、その日の天候・気温を付記して一覧表にまとめたという。大手コンビニも顔負けの「データベース・マーケティング」だ。それで、平日か土日か、という違いより、「晴れか曇り・雨か」「暖かいか寒いか」「風は強いか弱いか」という違いの方が客数に影響するということが分かった。つまり、天気予報を見れば翌日の客数が読める、それに従って準備をすれば良いわけだ。

アンケートも取っていて、それによると「楽しかった」が94.8%。訪れた人の79.8%が「女性」。しかも78.5%が「50代以上」というおばちゃんだ。おばちゃんなら土日は関係ないし、寒さや雨は苦手だろう。このイベントのことは「口コミで知った」が38.6%「新聞雑誌」が26.7%「ならリビング」(奈良新聞社発行の折込PR紙)が20.4%。住まいは「奈良県内」が74.1%だったという。

また野村氏は、会場からの質問に答えて《これまで、既存の組織(観光協会、商工会など)は一切使わないで来た。町からは、おカネももらっていない。時間だけはたっぷりあったので、町内の1人1人を(免許がないので)自転車で訪ねて話をした。だから「全体会議」のようなものはしたことがない。話をするとお年寄りは喜んでくれる。雛めぐりでも、「観光客と話ができる」とお年寄りにとても喜んでいただいた》。お年寄りの生きがいづくりという「社会福祉」面でも、ひなめぐりは有意義だったようだ。



このほか奈良交通の松本氏は《これからは生活体験型の観光が主流になり、町がそのまま観光業になる。「着地型観光」も増えるので、ぜひわれわれ事業者をうまく使ってほしい》と話された。ボランティア団体などと連携しようとしても《「つなぎ」の機能がどこにもないので、誰に頼んで良いのか分からない》ということだ。これは、やはり当ブログでも書いた「ランドオペレーター」が必要ということなのだろう。
http://blog.goo.ne.jp/tetsuda_n/e/fa0f7a902e18a70a7670b2d99ed017aa

1300年協会の一柳氏は《高さ制限や発掘調査が嫌われて、ホテルが少ないのがネックだった。「奈良でイベントをすれば、京都・大阪が喜ぶ」という構図だ。リピーターを求めるという考えがなく、「もてなし」はなおざりにされてきた》という。このほか氏は、1300年祭の最近の動きを紹介された。最後にコーディネーターの麻生氏は《観光客に迎合するのではなく、住民が喜び誇りを持つことが大切だ》と締めくくった。

それにしても、とても有意義なセミナーだった。予想どおり、野村氏の存在感が突出していた。いつもシニカルな村田氏の発言もサエていた。単発の講演会ではなく、奈良を代表する5人の話が同時に聞けるという、ぜいたくな機会だった。

超有名人の話や全国的なテーマは、テレビで十分だ。「地元でしか聞けない、地元にしかいない」人の最新の話が聞けるというのが、地元のセミナーの良いところだ。このセミナーも33回目ということだが、次回が楽しみだ。

※冒頭の写真は、橿原市内のコスモス畑(07.10.20 撮影)
コメント (10)
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