大みそかの深夜(正確には今年の元日早朝)に「朝まで生テレビ」を見ていると、司会の田原総一朗が、「あの中谷巌(なかたに・いわお)ですら『グローバル資本主義は間違っていた』と言うようになったからね」と言うのを聞いて、わが耳を疑った。
私は大学時代、中谷氏から「所得理論」(マクロ経済学)を教わった。ハーバード大学で博士号を取って帰ってきたばかりの新進気鋭の助教授(当時32歳)だった。バリバリの新自由主義者・構造改革論者で、小渕内閣では「経済戦略会議」議長代理として、竹中平蔵氏らとともに提言をまとめた。それは後の小泉構造改革に盛り込まれ、一部は実現された。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E8%B0%B7%E5%B7%8C
手元にある01年3月発行の『にっぽんリセット』(集英社インターナショナル刊)の書き出しの一文は《いよいよ21世紀のスタートである。新しい世紀を迎えて、豊かな未来に思いを馳せたいところだが、それにはまず、前世紀から持ち越した様々の課題をクリアするための改革を、断行しなければならない》。そして《日本の指導者には、日本の成長を阻んでいる構造問題を取り除き、大胆な改革を行おうという姿勢が見えない。大胆な改革には必ず「痛み」が伴うため、それを断行すると、国民からの支持を失うと考えているからだ》。小泉元首相は、中谷氏からこのようなセリフを教わったのだ。
《アメリカのGE社の最高経営責任者であるジャック・ウェルチはこう言っている。「どうしても変えなければならなくなる前に変えよ」と。一時の苦しみを恐れずに、将来をしっかりと展望できる構造改革を断行することだけが、この国を救う唯一の手段だ》。
その中谷氏が昨年12/15、『資本主義はなぜ自壊したのか 「日本」再生への提言』という本を、同じ集英社インターナショナルから出した。同書の広告(日本経済新聞 1/23付)には、《これは私の「懺悔の書」である。広がる格差、止めどない環境破壊、迫り来る資源不足、そして金融危機――すべての元凶は新自由主義にあった。構造改革は日本人を幸福にしたかを検証する》とある。田原総一朗は、この本のことを指して言っていたのだ。
本を買って読もうと思っていた矢先、週刊朝日(1/23号)に「中谷巌氏が懺悔 『改革』が日本を不幸にした」という記事が載ったので、買って読んでみた。これは驚くべき内容だった。かいつまんで引用すると…。
《経済学で記述できることは社会全体の2~3割に過ぎないとわかってきたのです。そして今は「アメリカ流の構造改革は日本人を幸せにしない」という、確信に近いものを持っています》《「グローバル資本主義」(「米国型金融資本主義」)がもたらしたのは、今回の金融危機であり、加速度的な環境破壊であり、急激な貧困層の増大でした》。
《十分な税源移譲がなされないまま、一方的に地方交付金や公共事業が削減され、地方経済は壊滅状態です》《苦しんでいる人たちに投げかけられるのは「自己責任」などという陳腐で冷たい言葉です》《さらに医療は崩壊し、日本を支えてきた人々の尊厳を踏みにじる愚策、後期高齢者医療制度が始まりました》。

《グローバル資本主義は、世界経済を著しく不安定化するとともに、エリート層に都合のいい、大衆支配や搾取のツールになっています》《エリート層はより多くの情報を持てるだけでなく、情報を「創り出せる」のです。マーケットに影響を与える情報を創り出せる人がより多く稼げるのは当然でしょう》。
そして氏は、基礎年金を税方式にし、その財源として消費税を20%にすべきだという。《これで貧困層を救済する。そうすれば、日本は少しは温かみのある社会になるでしょう》。
自らが理事長を務める三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)のHPには、より踏み込んで書いている。《明治以来の中央集権体制を解体し、「廃藩置県」に匹敵するくらいの大きな制度改革を断行することである。中央官庁に集結した優秀な官僚が今度は疲弊した地方を再生させるために地元に戻り、彼らに自分の故郷が文化の香り豊かな元気いっぱいの地域にする術を死にもの狂いで考えてもらう。これくらいの大改革が必要だと思う》。
http://www.murc.jp/nakatani/index.html
書評サイトには目次が出ていて、
序 章 さらば、「グローバル資本主義」
第1章 なぜ、私は「転向」したのか
第2章 グローバル資本主義はなぜ格差を作るのか
第3章 「悪魔の碾き臼」としての市場社会
第4章 宗教国家、理念国家としてのアメリカ
第5章 「一神教思想」はなぜ自然を破壊するのか
第6章 今こそ、日本の「安心・安全」を世界に
第7章 「日本」再生への提言;終章 今こそ「モンスター」に鎖を
とある。中谷氏は、日本の歴史や宗教にまで言及しているようだが、地方経済が壊滅状態になることで、古き良き地方の文化までが危機に瀕しているのである。
週刊朝日の記事の締めくくりで、氏は、日本人には《縄文時代から培ってきた「自然によって人は生かされてきた」という謙虚な自然観があります。自然を畏怖し、草木一本の中にさえ神を見出す感性を持ち、里山を保全し、鎮守の森を大切にする。日本こそが、環境問題でイニシアチブを取るべきではないでしょうか。こうした姿勢を世界に見せていくことです》。
ユニークな伝統的価値観を持つ日本人は、近代経済学では解決できない問題を解くことができる、というのだ。アメリカかぶれだった氏は、こんなに遠くまで(私にすれば「近くにまで」)たどり着いたということである。見事な「転向」ぶりである。氏の今後の言動に注目していきたい。
私は大学時代、中谷氏から「所得理論」(マクロ経済学)を教わった。ハーバード大学で博士号を取って帰ってきたばかりの新進気鋭の助教授(当時32歳)だった。バリバリの新自由主義者・構造改革論者で、小渕内閣では「経済戦略会議」議長代理として、竹中平蔵氏らとともに提言をまとめた。それは後の小泉構造改革に盛り込まれ、一部は実現された。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E8%B0%B7%E5%B7%8C
手元にある01年3月発行の『にっぽんリセット』(集英社インターナショナル刊)の書き出しの一文は《いよいよ21世紀のスタートである。新しい世紀を迎えて、豊かな未来に思いを馳せたいところだが、それにはまず、前世紀から持ち越した様々の課題をクリアするための改革を、断行しなければならない》。そして《日本の指導者には、日本の成長を阻んでいる構造問題を取り除き、大胆な改革を行おうという姿勢が見えない。大胆な改革には必ず「痛み」が伴うため、それを断行すると、国民からの支持を失うと考えているからだ》。小泉元首相は、中谷氏からこのようなセリフを教わったのだ。
《アメリカのGE社の最高経営責任者であるジャック・ウェルチはこう言っている。「どうしても変えなければならなくなる前に変えよ」と。一時の苦しみを恐れずに、将来をしっかりと展望できる構造改革を断行することだけが、この国を救う唯一の手段だ》。
その中谷氏が昨年12/15、『資本主義はなぜ自壊したのか 「日本」再生への提言』という本を、同じ集英社インターナショナルから出した。同書の広告(日本経済新聞 1/23付)には、《これは私の「懺悔の書」である。広がる格差、止めどない環境破壊、迫り来る資源不足、そして金融危機――すべての元凶は新自由主義にあった。構造改革は日本人を幸福にしたかを検証する》とある。田原総一朗は、この本のことを指して言っていたのだ。
本を買って読もうと思っていた矢先、週刊朝日(1/23号)に「中谷巌氏が懺悔 『改革』が日本を不幸にした」という記事が載ったので、買って読んでみた。これは驚くべき内容だった。かいつまんで引用すると…。
《経済学で記述できることは社会全体の2~3割に過ぎないとわかってきたのです。そして今は「アメリカ流の構造改革は日本人を幸せにしない」という、確信に近いものを持っています》《「グローバル資本主義」(「米国型金融資本主義」)がもたらしたのは、今回の金融危機であり、加速度的な環境破壊であり、急激な貧困層の増大でした》。
《十分な税源移譲がなされないまま、一方的に地方交付金や公共事業が削減され、地方経済は壊滅状態です》《苦しんでいる人たちに投げかけられるのは「自己責任」などという陳腐で冷たい言葉です》《さらに医療は崩壊し、日本を支えてきた人々の尊厳を踏みにじる愚策、後期高齢者医療制度が始まりました》。

《グローバル資本主義は、世界経済を著しく不安定化するとともに、エリート層に都合のいい、大衆支配や搾取のツールになっています》《エリート層はより多くの情報を持てるだけでなく、情報を「創り出せる」のです。マーケットに影響を与える情報を創り出せる人がより多く稼げるのは当然でしょう》。
そして氏は、基礎年金を税方式にし、その財源として消費税を20%にすべきだという。《これで貧困層を救済する。そうすれば、日本は少しは温かみのある社会になるでしょう》。
自らが理事長を務める三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)のHPには、より踏み込んで書いている。《明治以来の中央集権体制を解体し、「廃藩置県」に匹敵するくらいの大きな制度改革を断行することである。中央官庁に集結した優秀な官僚が今度は疲弊した地方を再生させるために地元に戻り、彼らに自分の故郷が文化の香り豊かな元気いっぱいの地域にする術を死にもの狂いで考えてもらう。これくらいの大改革が必要だと思う》。
http://www.murc.jp/nakatani/index.html
書評サイトには目次が出ていて、
序 章 さらば、「グローバル資本主義」
第1章 なぜ、私は「転向」したのか
第2章 グローバル資本主義はなぜ格差を作るのか
第3章 「悪魔の碾き臼」としての市場社会
第4章 宗教国家、理念国家としてのアメリカ
第5章 「一神教思想」はなぜ自然を破壊するのか
第6章 今こそ、日本の「安心・安全」を世界に
第7章 「日本」再生への提言;終章 今こそ「モンスター」に鎖を
とある。中谷氏は、日本の歴史や宗教にまで言及しているようだが、地方経済が壊滅状態になることで、古き良き地方の文化までが危機に瀕しているのである。
週刊朝日の記事の締めくくりで、氏は、日本人には《縄文時代から培ってきた「自然によって人は生かされてきた」という謙虚な自然観があります。自然を畏怖し、草木一本の中にさえ神を見出す感性を持ち、里山を保全し、鎮守の森を大切にする。日本こそが、環境問題でイニシアチブを取るべきではないでしょうか。こうした姿勢を世界に見せていくことです》。
ユニークな伝統的価値観を持つ日本人は、近代経済学では解決できない問題を解くことができる、というのだ。アメリカかぶれだった氏は、こんなに遠くまで(私にすれば「近くにまで」)たどり着いたということである。見事な「転向」ぶりである。氏の今後の言動に注目していきたい。