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伝統野菜を今に生かす「プロジェクト粟」の活動/奈良新聞「明風清音」第87回

2023年05月04日 | 明風清音(奈良新聞)
いろんなところで、「奈良はうまいものばかり」をPRしている。「特に奈良は野菜がおいしい」とも。野菜といえば三浦雅之さんの「プロジェクト粟」の活動だ。この原稿(「明風清音」2023.3.30付)を書く前に、久々に「粟 ならまち店」を訪ね、春の野菜を堪能した。
※写真は粟ならまち店の「大和と世界の野菜」コース@4,600円(税込)。お店のHPから拝借

三浦さんがこの活動をスタートされたきっかけは、新婚旅行で訪ねたアメリカ原住民・シンキオンの文化に触れたこと。それから約30年、コツコツと成果を積み上げて来られた。では以下に、三浦さんご夫妻の30年の歩みを紹介する。

伝統野菜を今に生かす
3月16日付の本欄で京都の食文化を紹介した。「では『奈良の食文化』とは、どういうものだろう」と考えるようになり、久しぶりに三浦雅之さんの講演を聞きに行った。県が主催し、やまとびとツアーズが運営する「食と農の賑わいセミナー」で、演題は「はじまりの奈良の食文化」だ。

3月5日(日)、なら歴史芸術文化村(天理市)で開催された。三浦さんはプロジェクト粟(あわ)の代表者で、株式会社粟の社長を務めておられる。

▼「プロジェクト粟」とは
プロジェクト粟は、奈良市南部の中山間地域である精華地区(旧五ヶ谷村)に本拠を置き、3つの団体と連携してソーシャルビジネスを展開している。

1つ目の団体は株式会社粟で、同社は大和伝統野菜の料理を提供する「清澄の里 粟」と「粟ならまち店」を運営している。これらのお店は昨年、持続可能性に配慮した店として「ミシュラングリーンスター」を受賞された。

2つ目はNPO法人「清澄の村」で、大和伝統野菜の栽培、種子の保存、調査研究などを行っている。3つ目は五ヶ谷営農協議会という集落営農組織で、農産加工品の開発などを担っている。

▼伝統野菜の「種」と出会う
三浦さんのこれまでの歩みは、奥さんとの共著書『家族野菜を未来につなぐ レストラン「粟」がめざすもの』(学芸出版社刊)に詳しい。なお「家族野菜」とは、農家が自給作物として代々受け継いできた伝統野菜のことだ。

30年ほど前、新婚旅行で訪ねたアメリカ原住民の文化に触れたことがきっかけで、奥さんのご出身地である奈良県内で、伝統野菜の聞き取り調査を始めた。

しかし当時の県農業試験場がリストアップしていた大和伝統野菜は宇陀金ごぼう、大和まななど、わずか9品目。しかし「ないのなら探そう」と各地の種を集めているうちに、再会した知人が精華地区の遊休農地を貸してくれることになった。

農地の隣人がたくさんの伝統野菜の種を持っていたのでそれらを育てていると、周囲から続々と種が集まるようになった。今では、年間約140種類の野菜などを栽培しているという。 

▼「人生の楽園」に登場
「収穫した伝統野菜を提供するレストランを開いては」との奥さんの提案を受け、2001(平成13)年1月、「清澄の里 粟」を開業することになった。交通不便な立地を心配する声もあったが、ここで天の助けが現われた。

前年末に「人生の楽園」(テレビ朝日系)から出演の依頼があり、近所のご協力者とともに番組に登場。それが同年2月に放送された。放送の翌朝からお客さんが列をなし、また他のメディアからも取材が殺到、レストランは大成功を収めた。

▼奈良を吹く「7つの風」
セミナーで三浦さんは、「奈良を吹く7つの風」を紹介された。それは①風土(気候、地質、環境)、②風味、③風景、④風習、⑤風物(生活工芸)、⑥風儀(生活文化)、⑦風情の7つだという。

奈良では土地(風土、風景)、人(風習、風儀)、モノ(風物、風情)、食(風味)がガッチリと結びついているということなのだろう。確かに地元民は七草がゆ、半夏生(はげっしょう)餅、お盆のマクワウリ、奈良のっぺなどの行事食を大切にするし、季節感を見事に表現した和菓子も多い。

▼山里料理は奈良の食文化
「清澄の里 粟」のように、伝統野菜などを駆使した料理を「山里料理」と呼ぶとすれば、これは現代の奈良の食文化を代表する料理様式と言えるのではないか。そのパイオニアである三浦ご夫妻の今後の展開には、大いに期待している。(てつだ・のりお=奈良まほろばソムリエの会専務理事)


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