「ははあ、それでやられたな」
文春新書3月の新刊5冊はどれも面白そうだが、まずこの本を読んだ。
『松本清張の残像』*1 を著した藤井康栄さんは編集者で、清張担当を30年にわたって務めた方だが、『松本清張への招集令状』の著者の森さんも清張の担当編集者を務めた方、但しその期間は短くて3年間(読み違えていなければ)。
『松本清張への招集令状』を読んで清張の作家としての原点が「ははあ、それでやられたな」というひと言にあるように思えてきた。
家長として一家を支えていた清張のところに教育召集令状が届いたのは33歳の時だった。指定された検査場に集まっている者は皆若者で清張のような中年の招集者はほとんどいない。何故自分のような歳の者に。やられた、とはどういう意味なのか。あまり熱心に教練に出ていなかったことへのこれは報復ではないのか・・・。
一体召集令状発行の裏側に何があるのか。やがて作家となった松本清張はその裏事情に迫っていく。次第に明らかになっていく召集令状の裏事情、カラクリ。
この作品は清張論として優れていると思う。それと同時に召集令状の裏事情を追ったルポとして読むことも出来よう。そう読んでも興味深い。
*1『松本清張の残像』では主として清張の代表作の一つ「昭和史発掘」にまつわるエピソードが綴られている。こちらも興味深い内容だった。