■ 聴秋閣に対面するために三渓園(横浜市中区本牧)に出かけた。広い園内、池の辺りの満開の桜を楽しみながら歩を進めると奥まった山の斜面に佇むこの建築が姿を現した。小堀遠州の優れた造形力、これだけ多くのデザイン要素を取り込みながら実に端整な印象を受けるのはその証左であろう。
この建築の背面に至る山道が残念ながら閉鎖されていたが、おそらくこのアングルがベスト。
デザインの要素を出来るだけ少なくしてすっきりと仕上げる「レス イズ モア」な建築が私の好みではあるが、これだけの要素を破綻無く統合して見せられるとその姿に魅了される。
雑誌「住宅建築」の1979年頃のバックナンバーにこの建築の内部の様子が紹介されている。内部もまた外部と同様多様な要素を上手くまとめている。今回は内部の見学はできなかった。機会があれば見学したいものだ。
■ 葛飾区立石のさくら通り、桜が春を託されたことを誇るかのように堂々と咲いていた。この通りから程近い住宅街の一角に既存の住宅の一部を改築したカフェがこの日オープンした。友人の案内で訪れた。
幅広のフローリング、高さを抑えた木巾木、ペンキ仕上げの壁と天井。シンプルな空間構成。天井から吊り下げられた照明はカウンターやテーブルと同色のフレームのキューブ。そのやや和風なデザインがモダンな空間の雰囲気を和らげている。壁際に設えたダウンライトに照らされた壁はウォームホワイトに。道路側の窓外には満開の桜。エントランス正面のドアのスリット状の開口に嵌め込まれたステンドグラスがアイストップとして効いている。
既存の改築には様々な制約が伴う。構造上取り外せない柱、予算上できれば変更しないで計画したい給排水管や開口部の位置等々。計画段階や、現場監理での苦労話を聞いた。手を加えたい課題が無いわけではない。友人はそのことを随分気にしている様子だった。解決案は既に挙がっている。しばらく様子を見てから必要なら実行すればいい。
建築には設計者の知性と感性が反映する。友人の芸術全般にわたる深い知識にはいつも感心するが、この空間に漂う知的な雰囲気はその反映だろう。
次回は夜、ここでワインでも飲みながら文学を語るか・・・。
■ 旧朝香宮邸(現東京都庭園美術館)、このアール・デコ様式の建築自体を鑑賞するもの楽しい。今秋この建築内部の写真撮影が出来る企画があるという。藤森、増田コンビによる優れた写真集があるがやはり自分の感性によってこの建築の美を切り取ってみたい。会期中に出かけたい。
この美術館で1月26日から開催されている「建築の記憶 写真と建築の近現代」を観る機会をようやく得た。「建築と写真との出会い」「写真がとらえたモダンの相貌」「写真家の目、建築家の仕事」など7つのセクションから構成された建築写真展。
明治44年7月に撮影された中央停車場(東京駅)の工事途中の針金細工のような骨組みの写真、昭和25年(?)に撮影された都心の瓦の家並み、丹下さんの建築を象徴的に捉えた村井修さんの作品などが印象に残った。
前回東京した際に鑑賞することができなかったこの建築写真展、会期末にようやく観ることができた。
一昨年に村井さんの「都市の記憶」と題する写真展(06年の初冬に竹中工務店本店で開催された)も観る機会があった。気さくな方で会場内でいくつかの質問に答えていただいた。自身の作品に対する謙虚な姿勢が印象的だった。