■ 松本は古名を深志という。この深志という呼称には深瀬が転訛したものだという説がある。浅瀬に対する深瀬。
松本駅周辺、特に東側はこの名を裏付けるように、軟弱層(泥炭層や泥炭質シルト層などの細粒堆積物の層)が厚くて強固な地盤、支持層は深い。大昔は沼地のようなところだったのかもしれない。このようなくぼ地は並行する2本の断層などが横ずれを起してその間の地盤が陥没してできるとする説がある。
地盤が陥没してくぼ地(*1)ができる・・・。諏訪湖の成因もこれと同じだという。これは昔々、大昔、ものすごい地殻変動が糸魚川・静岡構造線上に在る松本や諏訪に起こった、ということを示しているのではないか。
朝日村(長野県東筑摩郡)の役場の所在地の小野沢という地名は元は斧沢だったという説がある。斧で雑木を切りながら歩を進めたことに由来するのだとか。ついでに書くと同村には御馬越(おんまご)という木曽義仲伝説に由来するとされる地名もある。義仲は琵琶湖畔の粟津原で討たれたが、この地名は朝日村にある粟津原という姓と関係があるとする説もあるが、本稿ではそこまでは言及しない。
長野の地附山。この山で起こった地滑りが老人ホームを襲ったのは何年前だっただろう・・・。この山名が強固な岩盤の表面に地(土の層)が附いた山という意味だと捉えていたら・・・。
ところで、仙台市若林区に「浪分神社」と名付けられた小さな神社があるそうだ。貞観津波(福島原発の津波の想定高の妥当性を巡ぐってこのごろ取り上げられる)がここまで到達したという意味でつけられた名前だと聞く。先人がそのことを後世に伝えようと祠を建てたのが起源らしい。しばらく前にラジオ番組で月尾嘉男氏がこの神社を取り上げていた。
内陸4、5kmくらいのところに位置する神社の名前に込められた意味。ここまで津波は到達するという後世への警鐘は今回の震災に活かされたのだろうか・・・。
土地などの名前には信頼するに足りない、まゆつばな歴史に基づくものもあるだろうが、先の例のような「遠くの記憶」が残されていることも少なくないだろう。
土地などに付けられた古い名前を変え、「ものがたり」を忘れてしまうことは大きな損失だ。
*1 プルアパートベーズン (Pull‐apart basin)