透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「木精」 北杜夫

2012-03-07 | A 読書日記



 再読中の小説『木精』が一部ばらけてしまった。糊付けをして補修した。奥付をみると昭和54年12月30日4刷となっている。昭和54年だとピンと来ない、1979年だ。30年以上も前に買い求めた本だから、劣化も仕方がない。でも紙は全く変色していない。

北杜夫は『マンボウ最後の大バクチ』新潮文庫で**以前から私のハードカバーはまったくなく、その代り文庫のところには「北杜夫」という札があって、かなりの文庫だけは並んでいた。ところが次第にその数が減ってきたときには、さすがに寂しくなり心配になってきたものだ。ところがこのたびは、北杜夫なる札もなく文庫すら一冊もないというのを発見し、ザンネンという思いよりなんだか愉快になってしまったものだ。(中略)私という生命自体もその作品もはかなく消え去ってしまうであろう。**118頁 と書いている。

そう、確かに以前は北杜夫の文庫本はかなり並んでいた。でも今では数冊しか並んでいない。新潮社は文庫の『幽霊』や『木精』を絶版にはしないと思うが、繰り返し読んだ想い出の本、読了後は書棚にそっと戻しておこう・・・。


 


繰り返しの美学

2012-03-07 | B 繰り返しの美学



 火の見櫓に夢中になっていて、「繰り返しの美学」のことはどこへやら・・・。やはり時々原点に立ち返ることが必要だ。

アイシティ21、松本市に隣接する山形村にあるシネコンもとり込んだ大型複合店の広い駐車場内に設けられている屋根付き通路。細い鋼管で構成したフレームを直線的に、そして等間隔に繰り返している。「繰り返しの美学」の典型的な実例だ。既に取り上げているが再び取り上げる。

構成要素そのもののデザインは特にこれといった特徴もなく凡庸なものであっても、それを直線的に、そして等間隔にいくつも配置すると、「あ、きれいだな」とか、「整っていて気持ちがいいな」とか、そういった感情を抱く。このような経験は私の個人的なものではないだろう・・・。シンプルなルールによって、ものが秩序づけられた状態、様子を脳が歓迎しているのだ。

脳科学者の茂木健一郎さんは次のように指摘している(『「脳」整理法』ちくま新書)。

「規則性は歓びの感情を引き起こす」
**規則性や秩序によって呼び起こされる感情には、独特のものがあります。(中略)規則性に歓びを感じるという人間の嗜好が確かにあるわけです。**

「脳はランダムな出来事に無関心」
**ランダムだとわかってしまっている現象について、脳は、基本的に興味を失って無関心になります。(中略)ランダムな事象でもそこに何らかの規則性や傾向を読み取ろうとしてしまうのが、私たちの脳のいわば「くせ」なのです。**

なぜ繰り返しに美を感じるのか、という問いかけに対して明快に答えるのは難しい。上記のような茂木さんの説明(今までに何回も引用した)に素直に頷くしかない。