■ 床に座るという行為(身体技法と著者は言う)から観る日本の文化、社会。
正座(端座と著者はいう)が「正しい座」となったのは明治以降のことだという。江戸時代のはじめ頃までは、茶道の正式な座り方は「立で膝」だったそうだ。確かに本書に載っている千利休の肖像画を見ても正座はしていない。
**日本の伝統文化といわれるものは、「坐」を中心にして組みたてられている。修行や芸道の作法をはじめ、「坐」にかかわる諸々の物質文化の形式や家屋のなかでのコミュニケーションスタイルに至るまで、「坐」の深層には、日本人の精神文化と社会生活とを根本のところで支える役割が根づいていた。**(191、192頁)このように著者は指摘する。
また次のようにも指摘する。**「作法」や「型」を遵守することと、しなやかにそれを崩していくこと、そして双方の振れ幅を許容する懐の深さが社会常識にも加わるときに、文化は豊かな彩りを増していくのではないだろうか。**(121頁)
なるほど、確かに椅子に座る忘年会と畳に座る忘年会とでは明らかにコミュニケーション密度が違う。なかなかユニークでおもしろい視点を設定したものだ。