■ 前稿、前々稿に火の見櫓の脚のタイプ分けについて書いた。本稿ではまずそれぞれの型を実例写真で紹介し、次に長野県内4地域について脚のタイプの偏在が顕著だということが分かったのでその結果を報告したい。
以前、珍しい火の見櫓のタイプの名前を考えた時「道路またぎ」は跨線橋に倣って跨道櫓(こどうやぐら)がまず浮かんだ。読み言葉としては意味が分かるが、話し言葉で跨道(こどう)という音読みは分かりにくいので、道路またぎとした。よいネーミングだと自負している。
脚の型の名前、例えば④直線材中留め型は直線状補強部材の柱中間留め型を簡略化したものだが、もっと簡潔で的確、親しみやすい名前を考えたい。
①柱単材型(構面及び柱に補強無し。横架材の位置が極端に下になると、判断が難しくなる。)
②片掛ブレース型(構面補強)(櫓の垂直構面と同じ型の場合がほとんど)
③交叉ブレース型(構面補強)
④直線材中留め型
⑤直線材下留め型 柱脚固定の方法によって、補強材の下留め位置が少し上になるケースもある。これを中留め型とは見ない。
⑥アーチ材中留め型
⑦アーチ材柱材たばね型
⑧アーチ材下留め型 (⑥アーチ材中留め型や⑦アーチ材柱材たばね型、⑨トラス型とは区別する。短材が2本くらいしかなく、トラス脚を構成していないもの。柱と一体にはならず、柱の下端で接合されている。写真の事例はコンクリート基礎から立ち上げた束材に柱脚を固定しているため、アーチ材下端が基礎面の少し上になっている)
⑨トラス型(右のような「トラスもどき」も含める 柱材と二次部材(補強材)を短材3本以上で繋ぎ、一体化している脚)
⑩複合型 複数の型が複合している。(写真は正面のみ⑦で他の3面は③になっている。複合型の扱いについては更なる検討を要す。)
⑪その他(①~⑩以外のレアタイプ)
上の写真の事例は柱に石束(短い柱)を添えている。石束のすぐ上で柱材が座屈している。補強のためには一番下の横架材の上まで石束を伸ばす必要があったと思う。石束は柱補強というより、柱固定のためかもしれない。
下の写真は左右は③交叉ブレース型だが、前後は実に珍しい形だ。この脚を⑩複合型に分類して済ませるわけにはいかない。
以下に地域ごとに最も多かった脚の型を挙げる。顕著な違いがあることが確認できた。
北信地域
⑩複合型(⑦+③)が4割超
東信地域
⑦アーチ材柱材たばね型が約6割
中信地域
⑨トラス型が3割5分 (3本脚) ⑥アーチ材中留め型が3割近く ⑨と⑥の型で6割超
南信地域
⑨トラス型が約5割 ③交叉ブレース型が約3割 ⑨と③の型で約8割
・中信地域で3割近くを占める⑥アーチ材中留め型は他地域ではほとんど見られない。
・東信地域で最も多くて約6割を占める⑦アーチ材柱材たばね型は北信地域では⑦は2割近くあるが、中信地域では極々僅か、南信では見られない。
・中信、南信で多く見られる⑨トラス型は北信、東信では極めて少ない。
取り急ぎ、結果報告まで。
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地域ごとにタイプの異なる脚部が偏在している理由を実証的に明らかにすることは極めて困難、できないのではないか。だが、その理由をあれこれ考えてみることは楽しいだろう。性急にその答えを出そうとしないで、熟考したい。
見張り台についても地域性があると思われるので調べてみたい。
火の見櫓のディープな世界に出口なし。
※ 今回の脚の型の分布状況の調査に、松本市在住の堀川雅敏さんが長野県内の火の見櫓巡りで撮影された写真を使わせていただいた。堀川さんは2004年2月から2005年4月にかけて長野県内を隈なく廻って1,870基の火の見櫓を見つけられた。車の走行距離は2万キロ弱にもなったとのこと。市町村別に全形写真だけ整理されたデータをいただいている。検索効率が良く、作業の所要時間が少なくて済むこととサンプル数が多いことから調査に使わせていただいた次第。
以前堀川さんと火の見櫓談義をする機会があったが(*1)、もう一度その機会があるよう願っている。その際、直接お礼を申し上げたい。
*1 松本市内の古書店主・渡辺 宏さんによる企画による。火の見櫓談義は「松本の本 第2号」2020年版に収録されている(過去ログ)。