「竹河 女房の漏らす、玉鬘の苦難」
■ 鬚黒一族のその後。鬚黒と玉鬘の間には三人の男子(左近中将、右中弁、藤侍従)と二人の女子(大君、中の君)がいる。「竹河」は鬚黒亡き後、玉鬘が二人の娘の結婚問題に苦慮する話。
ここで復習。玉鬘って? 玉鬘は光君が愛した夕顔(光君と密会中に六条御息所の怨霊に取りつかれて亡くなった)の娘で、父親は光君の義兄(正妻・葵の上の兄)であり、いとこでもある頭中将。光君と頭中将は竹馬の友であり、恋のライバルでもあった。玉鬘の両親は共に光君と密接な関係にあった。
この帖のストーリーは追わない。印象的なのは玉鬘(尚侍(かん)の君)が**「(前略)この侍従の君は不思議なほど亡き大納言(柏木)のご様子によく似ていらして、琴の音などは、あの方が弾いているとしか思えません」**(44頁)と語るところ。侍従とは薫のこと。薫は光君と女三の宮との間に生まれたことになっているけれど、実の父親は柏木。柏木は玉鬘の兄。だから薫は玉鬘の甥っ子ということになる。玉鬘は薫の出生の秘密に気が付いていたのではないか、と思わせる。
*****
「匂宮」と「紅梅」、それからこの「竹河」の三帖は紫式部ではなく、別の人が書いたのではないかとも言われているそうだ。この三帖別人作者説の根拠のひとつとして、あまり出来栄えが良くないことが挙げられることもあるようだ。
紫式部は何年も光君を主人公に、物語を書き続けてきた。その光君の最期を書くに忍びなく、「雲隠」という帖名(巻名)だけ挙げて、本文を書かないという実に巧妙な方法を採った(他説もあるが、私はこのように感じている)。
夫を亡くした紫式部にとってこの長大な物語を書くことは心の支え、生きることそのものだったと思う。その物語の主役である光君を亡くしてしまったことによる喪失感があったと思うし、マラソンに喩えれば「雲隠」でゴールしたという気持ちもあったのではないかとも思う。
更にこの物語を書き進めるのに、気力が相当必要だったと思うし、どのように展開させていこうか、迷ったのではないかとも思う。「竹河」では、冒頭これは源氏一族とは異なる鬚黒一族に仕えていた女房たちが語る物語だと断って、書き始めている。この三帖では物語が前に進んでいかない。紫式部も人の子、迷うこともあっただろう・・・。
1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋