透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

火の見櫓の型には地域性がある

2022-08-07 | A 火の見櫓っておもしろい

 「信濃の国」ほど県民によく知られている県歌は他県にはないと聞く。「信濃の国」は6番まであるが、1番の後半は 松本 伊那 佐久 善光寺 四つの平は肥沃(ひよく)の地 海こそなけれ物さわに 万ず足らわぬ事ぞなき という歌詞だ。長野県はこの四つの平に対応するように、中信 南信 東信 北信という四つの地域に分けられている。

火の見櫓の型(タイプ)には地域性がある。長野県内各地の火の見櫓を見て来て、印象としてそう感じていた。この数日間、上記四つの地域ごとに火の見櫓をタイプ分けする作業を続けていた。ようやくざっとまとめることができた。火の見櫓の型にビックリするほどはっきり地域性が出たので紹介したい。

中信地域 

中信地域で最も多い3柱66型(松本市今井)

3柱(柱が3本で平面形が3角形の櫓)が全体の約8割を占めている(397/499)。その中でも①のような3柱66型(平面形が3角形の櫓、6角形の屋根、6角形の見張り台)が全体の4割近くを占めていることが分かった(190/499)。


南信地域

南信地域で最も多い4柱44型(辰野町)

4柱(柱が4本で平面形が4角形の櫓)が全体の約7割5分を占めている(350/468)。その中でも②のような4柱44型(4角形の櫓、4角形の屋根、4角形の見張り台)が全体の7割近くを占めていることが分かった(311/468)。ちなみに中信地域で最も多い3柱66型は全体の1割にも満たない(36/468)。中信地域と南信地域は塩尻峠と善知鳥(うとう)峠で隔てられているとは言え、なぜこれほど顕著な違いがあるのかわからない。


東信地域

東信地域で最も多い4柱4〇型(上田市真田町)

4柱(柱が4本で平面形が4角形の櫓)が全体の約8割5分を占めている(281/329)。その中でも③のような4柱4〇型(4角形の櫓、4角形の屋根、円形(〇形)の見張り台)が全体の6割6分を占めていることが分かった(218/329)。南信地域も4角形の櫓、4角形の屋根という型が多いが、見張り台が違う。東信は円(〇と表記)形、南信は4角形が圧倒的に多い。なぜ?


北信地域

北信地域で最も多い4柱8〇型(山ノ内町)

4柱(柱が4本で平面形が4角形の櫓)が全体の約6割を占めている(214/362)。その中でも④のような4柱8〇型(4角形の櫓、8角形の屋根、円(〇)形の見張り台)が全体の3割強(1/3)を占めていることが分かった(124/362)。次に多いのが4柱4〇型で、この二つの型で全体の5割を占めている(182/362)。東信と北信を併せて東北信とエリア分けすることもあるが、両地域の火の見櫓の型にも顕著な違いがみられる。東信は4柱4〇型、北信は4柱8〇型で、櫓と見張り台の形は同じだが屋根の形が違う。ちなみに4柱4〇型は東信では全体のおよそ6割6分(218/329)だが北信は1割6分(58/362)とずいぶん低い比率だ。

いままで東信や北信は4柱の火の見櫓が多いこと、円形の見張り台が多いことは印象として分かっていたが、屋根の形について、このような違いがあることは把握できていなかった。


とりあえず火の見櫓の型(タイプ)の傾向を地域別に捉えた。今後、櫓の逓減の仕方(東北信の火の見櫓は直線的に逓減しているという印象がある)やプロポーション、脚の形状(東北信は単材の脚が多く、トラス脚はごく少ないのではないか)、踊り場の型(東北信では私がカンガルーポケットと呼ぶ櫓の1面だけにバルコニーのように設置したタイプが多い。東京タワーの展望台のように張り出したものは中信に多いのではないか)、などについても地域ごとの傾向を把握したいと思う。


※ 火の見櫓を観察して見張り台が4角形か、8角形か判断に迷うことがある。
下の写真⑤と⑥の場合、幾何学的に割り切って左の見張り台も8角形とすることもあるとは思う。算数の問題で床面の形を問われた時、4角形と回答すれば不正解になるだろう。どちらも8角形が正解だ。

⑤  

私は床の形を単純に幾何学的に判断していない。床の構法、即ち床の部材の構成方法(構成システム)に注目して判断する。⑥の場合、隣り合う2辺の部分の床面構成が同じだが、⑤の場合は違う。このことからふたつの床面をともに8角形とは判断しない。⑥は8角形、⑤は隅切りをした4角形。隅切りは角を落とした状態を指すことば。ちなみに手すりまで考慮して立体的に形状を捉えれば⑥は8角柱、⑤は面取りした4角柱。

幾何学的な形で判断すると割り切れば迷うことはなく明快だが、上記のような判断の仕方では迷うことがある。曖昧さを残した判断ともいえる。悩ましい・・・。


※ 東京までの距離を問われた時、246.25kmなどとは答えないだろう。約250kmと答えると思う。目的によって求められる精度が違うことを理解しておく必要がある。円周の長さは直径×円周率で求めることができるが、目的によっては円周率を3とすれは足りるし、3.141592653589(ぼくはここまでしか覚えていない)くらい必要なこともあるだろう(具体的にどんな場合に必要になるのか浮かばないが)。

火の見櫓の型の傾向を把握するのに、火の見櫓の全数の正確さはあまり意味を持たない。今回の記事ではどのくらいの数の火の見櫓をチェックして得られた結果なのかを明らかにしておくために数字を示した。

※ 地域別に火の見櫓の型の傾向を把握するために、松本市在住の堀川雅敏さんが長野県内全域で撮影された火の見櫓の全形写真を資料として使わせていただいた。堀川さんは2004年2月から2005年4月にかけて長野県内全市町村を隈なく廻られ、1,870基の火の見櫓を見つけて写真撮影をされた(過去ログ)。その全数の火の見櫓の全形写真だけ整理したデータをCDでいただいている。私のデータを使わなかった理由は全形写真の他にも各部の写真なども収めて整理しているために、今回の目的のためのデータを検索し、確認するには時間がかかり効率が悪いことなど。堀川さんから今回の作業でデータを使わせていただくこと、結果をブログで紹介させていただくことについて了承していただいている。