映画とライフデザイン

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映画「コールドウォー 香港警察」 

2014-04-28 20:00:56 | 映画(アジア)
映画「コールドウォー 香港警察」は2012年製作の香港映画だ。

宣伝文句はかなり派手なコピーだ。「インファナルアフェア」に並ぶ傑作で、香港の映画賞を独占しているとのことだ。香港好きな自分は見るしかない。
警察の緊急部隊の5人が消息不明になる。直後に当局に身代金の要求があり、香港警察が動き出す。そこに次期長官の椅子を狙う2人の勢力争いが絡み複雑化するという構図だ。
昔の香港映画よりも予算が捻出できるようになったのか?香港の町をスタイリッシュに描く映画が増えてきた。この映画もストーリーを抜いてもビジュアル的に楽しい映画だ。 ガラス張りの高層ビル内にある警察オフィスからビクトリア湾を眺望する映像もきれいだし、香港映画では見たことのないようなカーチェイスもある。満喫したが、ちょっとテンポが速すぎで理解に苦しんだ。
他のできのいい香港映画同様、何度も見たほうが良さが分かるのかもしれない。

香港九龍の繁華街・旺角の街中で爆発事件が起きた。犯人が乗っていると思しき車を警察の緊急部隊の車両が追いかける。ところが、追跡した5人の警察官が車両ごと消えてしまう。謎の男から警察当局に電話がかかり、警官5人と武器がいくらになるか計算しろと言う。明らかな警察に対する恐喝であり、当局は慌てる。
香港警察の長官は欧州へ出張中のため、行動班を率いる副長官・リー(レオン・カーファイが捜査の指揮を執ることになる。緊急車両の中にリーの息子であるジョー(エディ・ポンがいるのだ。リー副長官により人質救出作戦「コールド・ウォー」が着手され、非常事態が宣言されようとしていた。

香港警察には、親族が関係した事件の捜査には関与できないという内規がある。保安管理班を率いる副長官・ラウ(アーロン・クォックは、その内規を理由にリーが指揮するのは望ましくないと考える。指揮権を取り上げようとして警察内部は分裂し、2人の長官は対立する。結局内部の根回しが通じて、ラウが指揮権を取ることになる。犯人の身代金の提示に対し、ラウ自ら取引現場に向かうが、犯人の指示に翻弄される。それとともに事態は一層混乱し、密告者により汚職捜査機関が介入するが。。。。

登場人物が多く頭が若干混乱する。鑑賞者がそうなるものと仮定して最初から映像で登場人物を説明している。それだけじゃ分からない。それでも原作はよく練られていると思う。当然中国政府の検閲もあるわけで、それを満たすためには矛盾をつくらず緻密にストーリーを練らねばなるまい。

香港好きな自分は別の視点で追いかけてみる。  
1.香港を俯瞰する
映画は香港のビル群の谷間を空から俯瞰する映像でスタートする。意外にありそうでない映像だ。香港を舞台にした1955年の映画「慕情」「Love Is a Many-Splendored Thing」の美しいメロディにのって、上環方面から香港島へ向う空からの映像を映し出す。英国の新聞記者ウィリアムホールデンと中国人の混血女医ジェ二ファージョーンズの悲哀物語で当然高層ビル群はない頃だ。あの映像を連想した。今回は九龍、香港島を連結する橋や青衣周辺、市内のメインスポットをベストショットで映し出している。わくわくしてくる。

2.カーチェイス
いきなり映る爆破事件の映像のあとで、BMWと警察車の追いかけっこが始まる。そのあとに強烈な衝突の映像がでる。ちょっとちがうなあと思わせる。その後、身代金の要求に対してバックを抱えた副長官が走り回るシーンで、激しいカーチェイスの場面が出てくる。自動車専用道の映像だ。
これって以前啓徳空港が香港のエアポートだった頃、空港からチムサーチョイの街中に向うとき通った道路ではないだろうか?

仮にちがったとしてもこういった道路でのカーチェイスは香港映画ではあまり見たことない。対決する両者の銃捌きといい、迫力ある場面だ。

3.花火師
最終に向かいセントラル(中環)の高層ビルの階上で花火を上げるシーンが出てくる。
毎日夜8時になると、香港島のビル群で美しい照明のショーをやる。ビクトリア湾を隔てた九龍側ラウンジから見ると非常に美しいシーンだ。
同様にイベント事のときに、ビクトリア湾で花火が打ち上げられる。これも実にきれいだ。その花火が事件に絡んでくる。
 

4.沢木耕太郎がこの映画を褒めている。
(朝日デジタルに掲載の文章を引用する。)
同じサスペンスと言っても、追いつ追われつのシンプルなサスペンスでなく、謎が謎を呼ぶという複雑な展開を持つサスペンスの場合、秀(すぐ)れた作品では、途中で、巧みに、僅(わず)かな謎の亀裂が挟みこまれることがある。観客の意識が一瞬そこで立ち止まり、「あれっ?」と思わせる要素が入る。だが、それはあまり強すぎても弱すぎてもいけない。その疑問が展開のスピードの中に溶けていき、いつの間にか意識から離れていくくらいがちょうどいいのだ。
やがて、クライマックスに近づいたとき、観客に、そうかあのとき自分が「おやっ?」と感じたのは正しかったのだと思わせることができた瞬間、映画の作り手は勝利する。なぜなら、その観客は、それによって、二重の興奮を覚えることになるからだ。そしてこの「コールド・ウォー」の監督たちは、少なくとも私に対しては、明らかな勝利を収めることになった。

素敵な文面だ。
沢木耕太郎といえば「深夜特急」である。あの小説は香港の猥雑な重慶マンションからスタートする。第一部は何度も読み返した。特にマカオの場面は臨場感があって最高に面白い。

一度や二度カジノをやっただけではあんな小説は書けない。究極のギャンブル小説といえる。その昔麻雀新撰組の一員だった田村光昭はマカオでバカラをやって生計を立てていた。「魅惑の魔都マカオでバカラ浸け」という彼の本がある。面白い本だ。ここで巻末に田村と沢木耕太郎が対談している。それを読んでいても沢木がリスボアのバカラにはまったのがよくわかる。沢木も自分と同じで香港好きなんだろう。

5.夜警国家香港
この映画を見ると中国返還後での香港警察の構造がよく分かる。もともと関税のない自由貿易の香港では低い一定税率で小さい政府を目指してきた。自分が敬愛する経済学者ミルトンフリードマンは著書「選択の自由」で香港を理想国家と賞賛している。その香港は返還前に貴重な税収を公安に使ってきた。夜警国家といっていいだろう。しかし、警察の末端にキナ臭い人物がいるのは「インファナルアフェア」を始めとした各種映画で理解できる。その後、中国返還後は中国政府当局から人員が送られているようだ。

政府保安局局長(アンディ・ラウが登場し、香港の治安の良さをアピールする。中国で公開するにはそのあたりも強調する必要があるだろう。IT担当、広報官、緊急部隊隊員まで大勢の警察職員が登場して、複雑な構造の内幕を描いている。


6.パート2への布石

最後に重要人物が現れる。これをみると、次があるのかな?と思ってしまう。いったい誰を中心とするのか?
面白そうだ。

コールド・ウォー 香港警察 二つの正義
激しいカーチェイスとスタイリッシュな香港を堪能する


慕情
50年前の香港を楽しむ
ウィリアム・ホールデン&ジェニファー・ジョーンズ
コメント (2)
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