映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「現金に手を出すな」 ジャンギャバン

2014-04-30 20:34:40 | 映画(フランス映画 )
映画「現金に手を出すな」は1954年のフランス映画(日本では1955年公開)
戦前「望郷」「大いなる幻影」という名作で主演を張ったジャンギャバンの戦後の代表作である。


すべてに無駄がない。こういうのを真の傑作というべきだろう。
アクションものではあるが、常にドンパチやっているわけではない。引退して余生を暮らそうとしていたギャングの数日を追う。ジャンギャバンも50過ぎで枯れ切った動きをする。当時のフランスの夜を的確にヴィジュアル化した映像もすばらしい。

オルリ空港で強奪された5000万フランの金塊が1カ月見つかっていないという新聞記事を見ながら、主人公マックス(ジャン・ギャバン)と20年来の相棒のリトン(ルネ・ダリー)2人はレストランで食事をしている。そこにはナイトクラブのダンサーも同席していた。ダンサーと同伴出勤でナイトクラブへと向かう。
ナイトクラブを仕切るピエロの部屋にはアンジェロ(リノ・ヴァンチュラ)がいた。アンジェロはこの店に酒類を納入していた。ショーが終わり、ジョジィ(ジャンヌ・モロー)の控室にマックスが入ると、ジョジィとアンジェロがいちゃいちゃしていた。ジョジィは相棒リトンといい仲になっていたのにどういうことなのかとマックスは問い詰める。


マックスがナイトクラブから帰ろうとすると、後ろから車が追跡してきた。救急車のようだが、何かおかしいと感じたマックスが銃を持って待機するとアンジェロの手下がやってきた。威嚇をしてマックスはその場を立ち去り、ホテル住まいのリトンの部屋に電話した。そこにはアンジェロがいるようだ。マックスは場所を指定し、アンジェロにばれないように来るように指示した。


2人はオルリ空港で五千万フランの金塊に目をつけその強奪に成功していたのだ。ところが、リトンがナイトクラブの女ジョジィに金塊のことを口走り、それがアンジェロに漏れているようである。それでアンジェロは二人を捕えて金塊の隠し場所をつき止めようとしていたのだ。マックスが隠れ家として借りていた部屋にリトンを足止めして、翌朝、金塊を持参して故買商の伯父を訪れる。事態が進展し慌てて伯父に現金にかえるよう依頼した。

マックスが留守中、リトンはジョジィに会いに行くと、そこにはアンジェロの一味が来て拉致された。隠れ家に戻ってリトンの不在に気づき、行方を探すが判らない。そこヘアンジェロから、五千万フランと引換えにリトンを渡すという電話がかかって来る。やむなくマックスはピエロを連れて金塊を車に積みこんで指定の場所に向かったが。。

フィルムノワールというジャンルがある。ノワールは文字通り「黒」イコール暗い。
ジャンギャバンの渋さがそれを増長する。最後まで徹底したノワールだ。

1.脚本の巧みさ
ストーリーのキーとなる金塊のことは、映画が始まってから新聞記事以外は語られない。レストラン、ナイトクラブと女性と戯れるシーンばかりが出てくる。ジャンギャバンの車が追跡されるあたりから徐々に状況が語られるが、元々無口なジャンギャバンのセリフは簡潔なセリフが出てくるだけだ。本当に無駄がない。完ぺきな脚本だ。それを「肉体の冠」のジャックベッケル監督が映像として巧みに具現化する。


2.ジャンギャバンのモテモテぶり
落ち着きはらった振る舞いは貫禄充分だ。同伴出勤しながら懸命にギャバンにすり寄るダンサー、本命と思しき美女、故買商の伯父の秘書などたった1時間半のなかに3人の美女が出てくる。レストランのマダムも20万フランを平気で託すところを見ると、いい仲だったと連想させる何かがある。他にもボリュームたっぷりの美女が次から次へと出てきて目が離せない。でも明らかな素性をそれぞれ語っていない。何かを観客に想像させようとする魂胆だろう。


3.夜のパリ
映画のイントロでムーランルージュの店構えが映る。ここで映るナイトクラブ「ミスティフィック」も印象的な店だ。中ではレビューショーで、色っぽい若い女性が踊りまくる。中には乳首にだけ隠している姿で踊るダンサーもいる。この時代ではどぎつい方だ。ナイトクラブのオーナー室にバストトップが出ている写真が飾られている。しかもリトンが寝る病室にかかった絵画がヘア入りの全裸である。1955年の日本公開時これってどう処理されたのかが気になってしまう。


4.オチ
何もかもうまくいくことがない。ある意味同じフランス映画「恐怖の報酬」を連想させる展開だ。重要なものが積まれた車の処理に同じ流れを感じる。ほんのわずかな時間の中に収縮している。しかし、逆にギャバンに疑いがかからないようになるという筋の絶妙さは脚本の巧みさだろう。


5.リノ・ヴァンチュラ
敵対するアンジェロを演じているのはフランスのレスリングチャンピョンだったリノ・ヴァンチュラだ。この映画を機としてフランス映画でなじみの顔となった。死刑台のエレベーター」や「シシリアン」にも出ている。そのリノの顔を見て柔道の金メダリストのドゥイエを連想した。篠原の誤審問題で大騒ぎになった時の相手だ。よく似ている。

6.ジャンヌ・モロー
これが撮られた時はまだ26歳だ。顔立ちはまだ幼さが目立つ。この映画のダンサー役もある意味悪女だが、死刑台のエレベーターで見せる真の悪女ぶりや「夜」で見せる倦怠感はまだ見せない。それにしても80歳半ばにしてまだまだ現役のその姿はどちらかというと妖怪じみている気もする。


7.テーマソング
何よりすばらしいのがテーマソングだ。最初のレストランのジュークボックスで流れてから、部屋の中のレコードなどで何度も流れる。誰もがよく知っているメロディだ。だいぶ前、タバコがたちこめる名画座の休憩時間にいつもこの曲流れていたなあと懐かしくなる。フィルムノワールを意識させる名曲だ。

本当にすばらしい!

死刑台のエレベーター
ジャンヌモローの悪女ぶりを堪能


望郷
カスバの中で恋に揺れるジャンギャバン


シシリアン
15年後のジャンギャバンとリノ・ヴァンチュラ。アランドロンも全盛
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映画「共喰い」

2014-04-30 07:33:41 | 映画(日本 2013年以降主演男性)
映画「共喰い」は昨年公開の日本映画だ。

田中慎弥の芥川賞受賞作を青山真治監督で映画化したものだ。原作は未読
下関の「川辺」と呼ばれる地域を舞台に社会の底辺を彷徨う人たちの偶像を描く。映像を見ると汚れた下水が流れる全然冴えない地域だ。自分の感触としては普通

昭和63年の夏、山口県下関市の「川辺」と呼ばれる地域に篠垣遠馬菅田将暉は住んでいた。産みの母仁子田中裕子は川一本隔てた魚屋で一人暮らしをしている。戦争中の空襲で左腕の手首から先を失った仁子は、終戦後、父の円(光石研)と出会い結婚した。父の円には悪い癖があった。セックスの時女を殴りつけるのだ。仁子は籍を抜かぬまま、遠馬を家に残して魚屋に移り住んだ。

17歳の誕生日になり、遠馬は千種(木下美咲)と社の神輿蔵の中で交わった。
今は琴子(篠原友希子)が円と遠馬と一緒に住んでいる。飲み屋街の店に勤める琴子は、円に殴られ頬や目の周りにあざを作っていた。 ある日、琴子は遠馬に赤ちゃんができたことを報告する。 「馬あ君は承知してくれるかいねえ」「なんでそんなこと俺に訊かんといけんの?」 遠馬は家を飛び出すと千種を神輿蔵へ呼びつけ押し倒した。

祭の前日、大雨の中を琴子は出ていった。家へ戻って来た父に、遠馬は琴子がもう家へ戻らないことを教える。「わしの子、持ち逃げしやがってから!」下駄を履き、琴子を探しに飛び出した円は、遠馬を待つ千種がいる神輿蔵へと向かっていくが。。。

きわどい映画だ。映画を見た後、中上健次の作品を読了した時のような感触を得た。中上健次は紀州半島南部の被差別エリアを描いている。昨年は若松孝二監督が中上作品「千年の愉楽」を遺作として残した。ここで描かれる下関の「川辺」も同様な場所なのであろうか?ドツボエリアを映す「赤目四十八瀧心中未遂」と同じようにうなぎなどの生きものの画像の混ぜ方がうまい気がした。

1.荒井晴彦の脚本
個性が強いので色々と言われることも多い。自分が好きな脚本家の一人だ。80年代の「遠雷」「ダブルベッド」は大好きで、原田芳雄の遺作「大鹿村騒動記」もよかった。今回はにっかつポルノを意識したという。アブノーマルな絡みが多くまさにその色彩が強い。荒井は当時かなりの日活作品をのこしているからお手のものか?成人指定になるのは仕方ないだろう。

2.若手女優の活躍
監督は木下美咲と篠原友希子に大胆な演技を要求する。特に父親の女である篠原友希子の演技が光る。

この脱ぎっぷりの良さがいい。しかも、顔にあざを作ったりする。まさか本当に殴られたわけでもないだろうけど、大変な役柄だ。主人公の彼女役木下美咲のバストが普通でリアリティを感じた。

3.田中裕子
本当に変な顔になってきた。80年代に天城越え」「夜叉あたりで見せた妖艶なムードがまったくない。何せ当時人気絶頂の沢田研二を仕留めたくらいの色気を持っていたと言っても、この作品や「はじまりのみち」あたりしか知らない若者からすると、往年の魅力は信じられないだろう。映画後半にかけて意外な活躍を見せる。光石研のダメ男ぶりに合わせるような絶妙な演技で実にうまい。「いつか読書する日」あたりから能面の表情を見せるようになった。この顔を求めて彼女を起用する監督も多いのであろう。

どん底に落ちていくような感覚で神経が麻痺した。

第30作 男はつらいよ 花も嵐も寅次郎
田中裕子と沢田研二の出会い


天城越え
松本清張の傑作、田中裕子が妖艶


夜叉
影のある男高倉健にからみつく田中裕子が可愛い
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