映画とライフデザイン

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映画「型破りな教室」 エウヘニオ・デルベス

2024-12-21 17:17:27 | 映画(洋画:2022年以降主演男性)
映画「型破りな教室」を映画館で観てきました。


映画「型破りな生活」メキシコ映画、荒れ果てた小学校に着任した熱血教師と生徒たちの物語である。原題はRadical(過激な?)で2011年に起きた実話に基づくクリストファー・ザラ監督の作品だ。アカデミー賞作品「コーダ あいのうた」で主人公の才能を見いだす音楽教師役だったエウヘニオ・デルベスが出演というのが気になる。ものすごく印象に残る演技だった。

アメリカとの国境に接するメキシコの町マタモロスの小学校は貧困地区の生徒が多く、学力テストでは全国最下位のレベルだった。パソコン室からPC本体が盗まれて閉鎖、図書室も機能していない。その6年生のクラスにフアレス先生(エウヘニオ・デルベス)が着任する。

机と椅子が積み上げられ、新しい先生が授業をはじめる。「なぜ船は浮くのか?」生徒たちに問う。「太った校長とフアレスはどっちが浮きやすいか?」フアレスは密度の概念を教え、校庭の貯水槽で校長の密度を測る。そんな授業を続けて生徒たちの信頼を集めるが、学力はあっても貧困で上の学校にも上がれない生徒もいる。


実話に基づく熱血教師による正統派教育物語だ。
1960年代までの日本では似たような題材の映画が数多くある。メキシコ国境というと数々の映画で麻薬取引や犯罪の渦というのが取り上げられてきた。舞台になるマタモロスの名前は初めて知った。地図で見ると大統領選挙でも話題になるまさしくアメリカとの国境に位置する。兄貴が愚連隊(ギャング)に所属して、自分も小学校卒業したら来いといわれているギャングの使い走りの少年もいる。育ちは誰も彼も最悪だ。全国最下位レベルの学校ではやる気のない教師が家庭事情のよくない生徒を教えて何も改善できなかった。


でもこのクラスの生徒には才能がある。初歩的物理の応用ともいえる問いかけにも呼応できる。自分が同じ小学校6年の時同じようにできたかはわからない。日本では中学3年生で習う平方根(ルート)もすでに習っているルート256といったらあっさり16と答えている。歴史の質問も中高生並みでレベルは高いんじゃないかと感じる。資質は全国最下位レベルではない。

廃品回収業の父を持つ美少女パロマが生徒の中ではメインだ。父親が業者に持ち込んだ廃品金属の価格算出をちょろまかされそうになっても、計算間違いと指摘する。1から100までの数字の合計をあっさり算出した数学史で有名なガウスの逸話と同じような流れで5050を導き出す。夢は宇宙工学の学者だ。望遠鏡まで作ってしまう。でもNASAの体験教室への参加という先生の助けも親はいい顔をしない。このままだと貧困で埋もれてしまう。


哲学に興味を持った少女もいる。ファレスが薦めるJ・S・ミルの本を探しに行っても小学校の図書館にはない。大人向けの図書館で大量に借りて熱心に読む。でも、面倒を見なければならない弟や妹も3人いて、母親のおなかに赤ちゃんもいる。貧乏人の子だくさんだ。自分が働くのであなたが赤ちゃんの面倒を見るから上の学校へはいけないと言われている。悲劇だ。中絶せざるを得ない状況についても、大人並みの考えを持っている。いちばんせつない女の子だ。


日本では貧困で進学を断念というのは1970年代に入るとあまりないのではないか?映画「キューポラのある街」で成績の良い中学生吉永小百合が名門女子高の校庭を見ながら行きたいと願望しつつ定時制の道を選ぶのが1962年だ。メキシコは50年遅れていると言ってもいいのだろうか。ゆとり教育の日本と違い小学校でルートを習うレベルなのに残念だ。

エウヘニオ・デルベス「コーダあいのうた」に引き続き好演である。
ただ、新任教師のフアレスによる型破りな授業でクラス全体の成績は飛躍的に上昇。そのうち10人は全国上位0.1%のトップクラスに食い込んだ!という宣伝文句は実際にそうだったとしても、この授業だけで全員の学力が上がったのか?は疑問である。ファレスは途中でメキシコの共通テストと思われる試験の対策勉強をさせないと拒否している。ちょっとええかっこしいだよね。気に入らないのはそこだけ。

思春期の子供たちを実に生き生きと撮っていることだけは間違いない。
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