映画とライフデザイン

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映画「帰郷(1964年版)」  森雅之&吉永小百合&渡辺美佐子

2021-04-11 20:31:24 | 映画(日本 昭和35年~49年)
映画「帰郷」を名画座で観てきました。

名画座の森雅之特集でどうしても観たいと思っていたのが「帰郷」である。大佛次郎原作を西河克己監督が設定を変えて脚色した1964年版の日活映画である。


横浜港の見える丘公園の横に大佛次郎記念館がある。昭和40年代前半まで当代きっての流行作家であった大佛次郎の名前を見て、ダイブツジロウと思っている人は多い。若い時分からここにデートで行くと、大佛次郎のある小説で、母の先輩で自分が幼少からお世話になった女性がモデルになっている作品があるんだ。なんてウンチクを語っていた。それが「帰郷」である。

この2年前の「キューポラのある街」では中学生役だった吉永小百合も、ここでは雑誌社に勤める若手の編集者役である。大人の世界に一歩踏み入れようとしている。本当の意味での主役は森雅之であり、渡辺美佐子である。森は影のある初老の男性を演じるが、キャラクターの雰囲気がでている。現在の俳優で、この役柄を同じように演じられる俳優がいるかと思うといないかもしれない。その風格に感服する。

都電が走る東京の原風景や出来たての高速道路が通る赤坂見附、いまだ残している田園調布の駅舎、一方で和のテイストを持つ国電奈良駅の駅舎法隆寺の五重塔など視覚的にもオリンピックを迎えようとしている日本の姿が見れるのもいい。


1957年のキューバハバナ、遊び人の男女で賑わう夜のナイトクラブには新聞記者牛木が高野左衛子(渡辺美佐子)を連れ添って入ってきた。そこには外交官の守屋恭吾(森雅之)が来ていた。守屋はキューバ革命軍を資金援助していた。ナイトクラブでも革命軍の絡みのいざこざがあり、左衛子にはクラブで再会した恭吾に連れて行かれた地下室でその晩強烈に結びつく。しかし、革命に協力した恭吾の逃げ場を自分を守るために政府系の秘密警察に密告してしまう。翌日のキューバの新聞では守屋は処刑されたとでていた。

雑誌社で女性週刊誌の編集に携わる守屋伴子(吉永小百合)には外交官の父がいたが、赴任先のキューバで動乱に巻き込まれて死んだと聞いていた。伴子の母・節子(高峰三枝子)は大学教授の隠岐達三(芦田伸介)と、子連れで再婚した。

ある日、伴子は原稿を受け取りに女画商で有名な高野左衛子(渡辺美佐子)の画廊を訪ねた。初対面の左衛子が守屋という伴子の名字を聞いて素性を確認すると恭吾の娘であることがわかった。改めて明日自宅まで原稿を取りに来てほしいという。

その日、父の達三の知り合いの古本屋へ伴子が一緒に行くと、バイトしている岡部雄吉(高橋英樹)という大学院生と知り合った。伴子は好感をもった。達三は自宅に帰宅する時、すれ違うのが、妻節子の知人牛木であるのに気づく。何の用で来たかと問い詰めても節子は言わなかった。しかし、ようやく口を割ってでてきたのは守屋の帰国である。達三は唖然とする。


一方で、伴子は原稿を受け取りに左衛子の豪邸を訪れた。会話が弾んだあとで、左衛子はハバナで伴子の実父・恭吾に会ったことがあると告げるのだった。伴子には実父の記憶はまったくない。しかも、実父は日本に帰国しているということを左衛子から聞く。伴子は家庭内のイザコザが起きることを恐れて、それを黙っていようと決意するのであるが。。。

⒈大佛次郎
大佛次郎といえば鞍馬天狗を連想する人が多いであろう。同時に映画ファンはすぐさま嵐寛寿郎の黒頭巾姿を連想する。初期のNHK大河ドラマで昭和38年の赤穂浪士、昭和42年の三姉妹と2作原作を提供して、昭和39年には文化勲章も受賞している。横浜港の見える丘公園に記念館はあるが、鎌倉文化人として有名である。


⒉高野左衛子と渡辺美佐子と木暮実千代
母がお世話になった先輩がモデルになった大佛次郎原作の映画があると聞いた。木暮実千代が主人公ということで調べてみて、それが「帰郷」でないかと探って原作を読んだら、高野左衛子のキャラクターがまさに母の先輩Tで間違いないとわかった。

元々大佛次郎の原作では、高野左衛子は料亭の女将である。母の先輩Tは元々育ちの良いお嬢様で、家柄のいい家に嫁いだ。しかし、元々の社交的な性格で、夫を差し置いて飛び出して鎌倉居住の大臣にもなった有名法律家の2号になる。T女史は鎌倉でも文化人のサロンに出入りしていたマダム的存在だった。鎌倉文壇の主である大佛次郎はそこでT女史と知り合い、小説の登場人物に仕立て上げたという顛末だ。それを母から聞いていた。

原作のキャラクター設定に近い昭和25年(1950年)の「帰郷」では木暮実千代が高野左衛子を演じている。木暮実千代の方がキャラクターとしても、モデルと言われたT女史にも通じる。でも、渡辺美佐子の高野左衛子も悪くはない。着物姿が似合う。自分が子供の頃は「ただいま11人」に出演していたお姉さんという感じだった。子供にはその良さはわからなかったが、こうしてみると美しい。ここでの高野左衛子は画廊を経営して周囲に「マダム」と呼ばれる。それ自体でT女史を思い出す。

T女史は文京区西片に住み「本郷のおばあちゃん」と自ら呼び、自分が社会人になっても孫のように可愛がってくれた。そんなT女史を思い浮かべる。金曜日の夜自分が本郷の高級肉で接待を受けたのも何かの縁を感じる。


⒊無理のある脚色
ここでは実父をキューバ革命で革命軍側を援助したという設定にした。これにはかなりの無理がある。安易な設定かもしれない。まずは、実父と母親が何で離婚しなければならなかったのか?子供の頃からずっと会っていないようだが、これが不自然でつじつまが合わない。大学教授隠岐達三と結婚した時期がいつなのか?ともかくはちゃめちゃである。

しかも、戦後20年近く経っているこの頃では、吉永小百合演じる娘は、大学教授の娘なら当然大学に進学する時代であろうが、ここではそうはしていない。

映画のセリフで、大学教授隠岐達三が日中の親善協会の座長になるのをメンバーに左翼系の人物が多いといって断るシーンがある。どちらかというと、既存体制に忠実な人間として継父を描きたかったようだ。反体制的人物が脚本を書いたと思しき脚色だが、キューバ革命を絡めたりアカ的な不自然さが原作を打ち壊した印象もある。ただ、それでも森雅之、芦田伸介、高峰三枝子の名優はその弱点もしっかりカバーするだけ凄いと言える。

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