後藤和弘のブログ

写真付きで趣味の話や国際関係や日本の社会時評を毎日書いています。
中央が甲斐駒岳で山麓に私の小屋があります。

馬場駿著「小説大田道灌」の読後感

2007年11月27日 | 本と雑誌

江戸城の大田道灌が主君と仰ぐ関東管領、扇谷上杉定正に殺されるまでの話である。大田道灌に手を下したしたのは道灌子飼いの武将曽我兵庫である。川越城の主、定正のもとに幽閉されている兵庫が何故尊敬している道灌を切らねばならなかったか?道灌も兵庫も人間味溢れる武将である。お互いに敬意をもっていながら道灌を切るという悲劇が何故起きたのか?これがこの長編小説の主題である。

応仁の乱の後の関東の戦国時代を颯爽と生き、そして部下に殺された大田道灌を描いた本格的な歴史小説である。

数多くの小さな城とその主達の離合集散の中で最後の悲劇的クライマックスへいたる必然性を、周りの家臣や女性達の心の揺れを活写しながら読者に納得いくように描きだしている。この小説は構成に隙が無くストーリーがダイナミックに展開して行く。骨太の本格的な歴史小説である。とくに関東地方の戦国時代の群雄割拠の歴史はあまり知られていない。文献をくまなく猟渉、考証し、足で現地に立ち、戦国時代の人々の激しい心の動きを想像しながら描いた小説である。

誰もあまり取り上げなかった関東の戦国時代を取り上げたことがこの小説の新機軸でもあろう。そして流れるような文章が独特のリズムをかなで、この長編を読みやすくしている。

最初の書き出しはこうである。「蛟竜とは角の無い竜のことで「「みずち」」ともいう。江戸城築城で有名な大田道灌は蛟竜であった。角さえあれば一気に天に登れたのである。では、道半ばにして斃れた道灌に、欠けていた角とは一体何だったのだろうか。」

馬場駿は何が欠けていたかとは断定しない。読者が各人それぞれの解答を考え出せるように色々な部分に明快なヒントを与えている。この最初の文章を読み返しながら各章を読んで行くと人間の偉大さ、弱さが身につまされて「やっぱり道灌は殺される悲劇を避けられない」という思いにとらわれる。

馬場駿は本名、木内光夫であり、伊東で岩漿文学会を主宰している。そのホームページには

ホーム「木内光夫」の扉 として公開されている。

http://www.gan-sho.book-store.jp/sub4.html

馬場駿のほかの数多くの短編小説も公開してある。短編小説も面白いが、まず「小説大田道灌」を読むことが良い。

この小説は平成18年1月25日初版発行で岩漿文学会から1部1200円で配本されている。入手するにはE-Mail:asei@vesta.ocn.ne.jp へ申し込む。尚、岩漿文学会のTel/Faxは

0557-38-7526 である。 (終わり)


外国体験のいろいろ(14)

2007年11月27日 | 旅行記

    ◎アメリカ流情報の分析のしかた

今回は米国の驚異的な情報の集め方と分析のしかたついて触れたい。私は米政府が莫大な研究費を出している役所の仕事を三年契約でしたことがある。あるプロジェクトに関する日本の研究の現状を取材してメールで報告書を提出する仕事だ。

大学や民間機関の卓越した研究者から話を聞き、その報告書をその研究者に送って間違いを訂正してもらう。了解を取った後に、米国の研究プロジェクト・マネージャーに報告書を送る(日本のことを自慢したいので研究者を高く評価した報告書を送っていた)。マネージャーのウオルフ博士は直ぐ返事をくれ、報告書の内容を褒める。あまり褒めるので、私も本気で仕事へ打ち込んだ。

以下、ウオルフ博士が来日した際のやり取り。「こちらから送る報告書をなぜ褒めるのですか?」「米国では外部の人に働いてもらう時に褒めるのが普通で特に変わったことではない」「私も訪問先を無責任にいろいろ褒めているが、そんな報告書でも役に立ちますか?」「すごく役に立っている。君の褒め方にはいくつかのパターンがあって、研究のレベルや内容が自ずと見えてくる。君は最後に感想を一、二行書いて来るが、それが報告書全体の半分以上の価値になっている」

      @取材のときの質問の順序が重要!

最近日本の企業でも情報収集に外部の人を使うようになった。私も日本の会社の仕事を何度もしたことがあるが、日本の会社は外部の人間の使い方を知らない。硬い表紙を付けた報告書の体裁を気にし過ぎて、調査中の感想や細切れの評価・意見の活用方法が分かっていない。米国ではその分析と活用方法が確立していて、外部の人間の能力を120%引き出すノウハウが存在する。

日本では専門外の人が高度な研究者を取材しても、内容が理解できないので無駄と考えられている。自分が一度も研究したことがない分野の、しかも先端的な研究をしている人を訪問しても、報告書が書けるだろうか、と。

ウオルフ博士は「質問の順序が重要」と言う。

     素人に研究内容を説明してください。自分の研究のどこが独創的ですか。

     競争相手を国内と外国に分けてそれぞれ三人挙げてください。

     その六人の研究者はどうして競争者と見なしていますか。

     現在している研究はいつ止めますか。

     現在している研究の実用的な価値をどう考えていますか。

「先ず五つの質問をして、全体の答えを六十分でお願いしますと言いなさい」「①が説明できなかったら、それ以上取材する必要はない」「これまで付き合ってきた日本人の優秀な研究者でも、不思議と④と⑤に答えられない人が多い。なぜそうなのか、君の意見を送ってくれ」

④と⑤は難問であり、三年間の契約期間、自分も訪問先の研究者も苦しんだ。日米の研究に対する価値観の相違を浮き彫りにしている質問内容ではないだろうか。