霞ヶ浦は曇り。九十九里浜のほうからの東北の寒風が吹きつのり時折筑波颪の突風がある。
メインセールを上げるのは危険すぎる。前帆のジブセールをフルに展開し走る。身を切るような寒い強風。ヨットは風下側へ傾きながら疾走する。時折突風がくると船体をブルッと震わせで急に加速する。一面の曇天の下を低い雲が流れる。舳先から胴に砕ける波音がザワザワと響く。とにかくこの音を聞くとヨット乗りは皆が浮き立つという。寒い湖上で小生も船を出してよかった。この音が聞ければ寒風なんて春風と同じになる。気持ちに余裕が出て遠方を見渡すと筑波の雄岳、雌岳が綺麗な裾を引きながら重なりあっている。
しかし2時間ほど我慢して走っていたら寒さで胴体が震え出した。寒くて体が震えるなんて何年ぶりがろう?文字通り年寄りの冷水になる前に港へ帰る。
昔見たスウェーデンの厳寒のヨットの係留地を思い出す。ヨットの周りの海水が凍り、雪が積もっている。よく見ると独りの老人が白い息を吐きながら甲板の雪を下ろしている。船体も甲板もマストも全て木造である。あまりの美しさにジッと見とれていた。老人が振り返りニヤーと笑う。「木造艇の美しさが分かる奴だな」という表情である。
海水も凍る彼の地に比べれば冬も凍らない霞ヶ浦などまだまだ手ぬるい感じがする。
キャビンを締め切って炊事用のコンロを2口燃やしたら生き返った心地がした。
寒風に吹かれながら冬のセイリングをするとよくバカなことをすると笑われる。しかし説明は出来ないが兎に角爽快になる。心の汚れも洗われる。疲れも吹き飛んでしまう。
70歳以上の老人になったが毎年、12月や1月に今日のように短時間ながら冬のセイリングを楽しむ。そう言えばこのヨットも進水後25年の老艇である。美艇なせいかまだまだ若そうに見えるが。小生も頑張るつもりになる。ヨットの趣味には年齢制限がないのが良い。
(無駄話の終わり)