明日ありやあり外套のポロちぎる 秋元不死男
敗戦直後の混乱の中で生まれた句だ。そのころ私は中国の捕虜収容所での日々を送っていたので国内の現状は知らないのだが、日本の近代史のなかで、最も悲惨な状態だった時期だろう。そのような状況の中で「明日」に明るい、大きな希望をもつこのような句を詠める人ってどんな人なのだろう、とこの句を初めて目にしたとき私は強い感動を抑えることが出来なかった。
秋元は戦時中、新興俳句運動に参加したため、反戦・コミュニズムを理由に弾圧を受け、二年間を拘置所生活を送った。そんな彼が敗戦、新しいデモクラシーの盛り上がりを素晴らしく感じたのか想像はつくが、それにしても十分な食事もできず、住まいも衣服も極悪だつた日々の中で、このような句が詠める精神というのは見事とか言うほかはない。
不本意なこれまでの人生の中で私を支えてくれたのがこの一句である。
★写真は秋元不死男氏