ムクノキ(椋の樹)は単にムクと呼ばれるニレ科ムクノキ属の落葉高木で、関東以西の暖地を好む。この木の特性は葉にある。葉は一見ケヤキに似ているが触ってみるとざらざらしている。そのざらざらは古来、漆器の木地や鼈甲の研磨に使われてきた。つまりサウンドペーハーであった。これほどざらざらしている葉は他にないので、まず間違えることはない。
山口駅から海上の森へ行くとき少し大回りして、矢田川の堤防を歩く。その堤防に色々な樹木が植えられている。海上の森にはないクヌギ、クロガネモチ、エノキ、ムクノキ等など。この時期私達のお目当てはムクノキの実である。実は7~12mmの球形で夏、緑色であったものがこの時期黒色に熟す。実は甘く、干し柿に似た味がする。
まだ暑いころから、一本のムクノキにしっかり実がついていることをしていた。まだ緑色の実が多いが、枝先には熟した実がある。もうヒヨドリが来ている。ヒヨドリを追いながら、実を取ろうとしたが、なんとも高いところに実がついていて、鳥ではない身が恨めしい。
こんなとき、70歳に近い仲間が少年にかえる。何としても実を取ろうと背伸びを
し、ストックを伸ばし枝先を掴み、なんとか実を5,6個取った。分け合って食べた味は干し柿の味がしたし、仲間の少年時代の姿を想像させる味がした。60歳を超えて海上の森を歩くという接点で仲間になったが、個々の歴史は何も知らない。それでいいのだが、おつに年をとったようなこの人達の幼い頃を思い描かせたムクノキの実であった。