575の会

名古屋にある575の会という俳句のグループ。
身辺のささやかな呟きなども。

「 津島祭礼図屏風 」16 〜 風俗画の価値 〜 竹中敬一

2019年07月27日 | Weblog

大英博物館蔵の津島天王祭屏風を寛文年間の古例として、八点ある同種の屏風絵

の中でも代表作と評価したのはアメリカの美術史家 ロバート シンガー氏でした。

シンガー氏はその論文の中で 「近世初頭から祭礼を屏風絵として描かれてきたものは、

数種類しかない 。祇園祭礼、賀茂競馬、豊國祭礼、日吉天王祭礼、住吉祭礼などで

ある 。これらの祭礼の大部分はいずれ畿内で行われるものであるが、都から離れた

地域での祭礼の屏風絵として代表的なものといえば、それは 津島祭礼図 であろう 。」

と言ってます 。

また、明治時代、「 津島祭礼図屏風 」など肉筆のものや版画の浮世絵を蒐集し、

3500点も大英博物館に譲渡したのもイギリスの医師 ウイリアム アンダーソン氏でした 。

このように、日本より浮世絵のように海外で評価された例はよくあることのようです 。

私が知っているのでは 、アメリカの美術品収集家ハーリー・パッカード氏 。

パツカード氏は先般、亡くなったドナルド・キーン氏と同じアメリカ海軍の日本語

学校で学び、日本美術史を研究 。進駐軍として来日しています 。

パツカード氏が早大に留学中、私たち美術史専攻の学生と一緒に奈良へ実習旅行に

行ったことを憶えています 。

その時 仏教美術などに造詣が深いのに皆んな驚いたものです 。

彼のような 「 目利き 」は、美術品に対する知識が豊富であるばかりでなく、鋭い

審美眼が備わっているのでしょう 。

パツカード氏の膨大なコレクションはメトロポリタン美術館に収められ ています。

( 彼は1991年 77歳で死去 )


ところで、津島天王祭屏風と同様、多くの群像が細かく描かれている屏風絵は「洛中

洛外図 」などかなりありますが、私がこのことでまず頭に浮かぶのは中国の名画、

清明上河図巻 です。

平成24年に東京国立博物館で、この北京 清明上河図が展示され話題になりました 。

今 その図録を見ています 。細長い巻き物に河が流れ、橋 、船 、人々が行き交う様子

などがびっしりと描かれています 。

中国 北宋時代 ( 日本の平安時代 ) 、都のあった汴京開封 ( べんけい かいほう )の

賑わいが生き生きと描かれており、思わず引き込まれます 。

天王祭屏風絵と同じように商店が立ち並び、食べ物を売る店、曲芸を見物する人々など

が見え 、構図も似ています 。


津島の天王祭屏風絵でも、ともすれば、類型化しがちな人々の顔の表情や仕草まで

細密描写で一人一人 個性豊かに表現しています。

細部にこだわりながら、天王川を挟んで全体としてまとまった構図となっています。

ただ、この屏風絵では彦火火出見尊 ( ひこほほでみのみこと ) 絵巻など平安時代の

絵巻物に見られるように雲や霞 ( かすみ )を描いて場面の転換や省略をはかる

大和絵の手法が取り入れられています。 つづく



「津島祭礼図屏風 」( 綴プロジェクト 高精細複製品より )



朝祭り( 左隻 )の津島5か村側に描かれた場面 。夫婦でうどん屋でも営んでいる
のでしょうか 。坊さんが無理やり誘われて困り顔 。路上で頭上に盆を載せて
売り歩く女性が2人 。その中味は津島名物 のお菓子 アカダという説もあります 。
屏風絵には金雲 が いたるところに出てきます 。金雲とは金箔 ( きんぱく )や
金泥 ( きんでい . ニカワをといた水に金粉をまぜたもの )で描かれた雲や霞の
こと 。場面転換などの時によく使われ、装飾的な効果があリます 。
コメント (1)
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