「風呂上り つるん白玉 喉走る」 <すみ>
中七の「つるん」と下五の「走る」流れるような
調べが印象深く響きます。動きと音に惹きこまれ
るコミカルな佳句。ところで、私事となりますが、
小笠原家には白玉の家訓があります。江戸時代は
衛生状態が良くなかったのでしょう。白玉団子の
食中毒で亡くなった嫡子がいました。そのため、
小笠原家で白玉はご法度。しかし、食べてはいけ
ないというと食べたくなるのが人情。親族の集ま
りには判じ物のように団子が並びます。
「白牡丹 はらりと落ちて 母の逝く」<麗子>
牡丹の唐時代の別称は「花王」宮廷に招かれた詩
人たちが絹のような光沢から妃を花王に例えてい
ます。優雅な花姿から玄宗皇帝にも愛されたとい
われ、楊貴妃と花王を共に愛でることもあったか
もしれません。しかし、どんなに美しい花であっ
てもやがて散りゆきます。花が散りゆくのも人の
命が消えゆくのもこの世の必然。
「はらり」という擬音が達観したような作者の心
情を伝えます。達観とは物事の本質にたどり着く
という意。仏教用語で「観」は「悟り」を意味し
ます。例えば「観光」は観音菩薩の「光」を見る
こと。本当に正しいことを観るが「観光」の真意。
さて、作者は森羅万象の場に臨み光を見たのでし
ょうか。花も人も生死は同じ。ご母堂のご冥福を
お祈り申し上げます。
文と写真<殿>