![]() | 大地の咆哮 元上海総領事が見た中国PHP研究所このアイテムの詳細を見る |
【一口紹介】
■出版社/著者からの内容紹介■
2004年5月、在上海日本総領事館の館員が、中国側公安当局者による恫喝と脅迫に苦しめられ、自殺の道を選んだ事件は、日本人に大きな衝撃を与えた。そのときの総領事が著者である。
同年秋、一時帰国した著者は、自らの体に病巣があることを知る。医師から告げられた最終診断は末期がんであった。抗がん剤による激しい副作用と闘いながら、日本と中国の未来を見据えて書いたのが本書である。
「解説文」を執筆した岡本行夫氏(国際問題アドバイザー)はこう語る。「この本は現在の中国を分析するものとして世界中で書かれた多くの著作のうちでも屈指のものだと思う」「現役の外交官が、病気と闘う中で、自分の経験と考えを、脚色や誤魔化しなしに、そのまま我々に伝える決心をした」
著者はいう。「中国認識で大切なことは、机上の理論を排した現実に即して中国を理解することだ」と。その言葉どおり、日本人が知らない中国の実態を明らかにした大著。
■内容(「MARC」データベースより)■
中国は日本にとって時としてやっかいな隣国であるが、だからといって引っ越すわけにもいかない。約30年間、中国外交の第一線で活躍した元上海総領事が、知られざる大国の実態と問題点を、その歴史と現状から分析する。
■出版社からのコメント■
2006年6月に弊所より出版した『大地の咆哮元上海総領事が見た中国』の著者、杉本信行氏(日本国際問題研究所主任研究員)が8月3日午前、肺がんによりご逝去されました。享年57歳でございました。
2004年5月、上海総領事館員が、中国側から外交機密に関する情報提供を強要されたという遺書を残して自殺するという悲劇が起きました。杉本氏はそのときの総領事でした。
ところが、その年の秋、一時帰国した際に、末期の肺がんに侵されていることがわかり、上海総領事の職を辞し、治療に専念されてこられました。しかし、病と闘いながらも、上司として館員を守れなかった無念さは晴れることはなく、自ら命を絶った同僚の冥福を祈るため、抗がん剤の副作用で頭が朦朧とするなか、薬で痛みを抑えながら書き上げたのが『大地の咆哮』です。
おかげさまで『大地の咆哮』は発売1カ月で7万部というベストセラーとなり、杉本氏の生きる支えともなっていただけに、まことに残念でなりません。
心よりご冥福をお祈り申しあげるとともに、読者の皆様にご案内申しあげる次第です。
【読んだ理由】
昨年、中国を訪問して親近感を持って以来中国の動きは気になることから。
【印象に残った一行】
『私が主張したいのは、中国が抱えるさまざまな問題を放置しておくならば、中国人自身が将来、途方もない負担を背負うのは不可避なのだが、それを隣国として看過せずに、援助することによって、問題提起をしていくということである。われわれが積極的に対応して問題提起をしていくことにより、中国の予算の優先度を変えさせる力を蓄える。私はそういうかたちで対中国ODA予算を使っていくべきだと思っている』
『中国人民のナショナリズムを刺激する方法としてもっとも効果的なのが、抗日時代の歴史教育である。また、祖国統一が政権の正当化の主要な柱となっていることから、台湾問題に関し柔軟な対応をとることがきわめて困難になっている。中国共産党を正当化するために、台湾統一が共産党のレゾンデートルになってしまっているからだ。
そしてここがまた重要なポイントなのだが、中国政府がなぜ抗日時代の歴史教育を熱心に行うかについては、その副次的効果として、四九年以来の共産党の大躍進、その後の大飢饉、文化大革命、八九年の天安門事件などの失政を隠蔽することを狙っているということが考えられる』
『中国の現状をたとえていえば、共産党一党独裁の旗の下、封建主義の原野に敷かれた特殊な中国的社会主義のレールの上を、弱肉強食の原始資本主義という列車が、石炭を猛烈に浪費しながら、モクモクと煤煙を撒き散らし、ゼイゼイいいながら走っているようなものだ。信用がすべてという市場経済のルールが確立されないいまま、ビジネスだけが先行してしまったのだ』
『中国がA級戦犯にこだわる理由は、七二年の国交正常化の際、、当時の中国国民には認め難い条件で交渉が進められたことに密接に結びついている。
とくに賠償放棄は、戦争犠牲者の親族・縁者がまだ生き残っていた中国で、本来ならば国民の支持を得られることは難しい問題だったと考えられた。
しかし、当時は、毛沢東や周恩来といった強烈なカリスマ的指導者がそれを可能にしたのだが、このとき周恩来が国内に向けて行った説得が「先の日本軍による中国侵略は一部の軍国主義者発動したものであり、大半の国民は中国人民同様被害者である」という理屈だった。
この一部の軍国主義者であるA級戦犯を首相が参拝するとなれば、「七二年当時のロジックが崩れてしまう」というのが中国の主張である』
【コメント】
「政冷経熱」から「政氷経冷」が懸念されている現下の日中関係。しかし、隣国としてお互いの国益にとって最も重要なパートナーであることに変わりはない。私的には大いに参考となった。なお、長編だが山崎 豊子 (著)「大地の子」もあわせてお勧めしたい。

