警察庁という国家公務員の総合職の試験に合格した数百人のキャリア官僚と、各都道府県の警察本部に所属する約26万人の警察官が存在する。
各都道府県の警察本部長、主要な都道府県警察本部の刑事部長、公安部長などの地位は、警察庁からキャリアが派遣されて、ほぼ独占している。
しばしば指摘されるように、警察官の採用試験に合格した巡査は幸運であれば、ごく少数のエリートとして警視、警視正になり署長で定年を迎える。
一般的には、巡査部長、警部補で定年退職を迎える者が多い。
都道府県警の警察官として採用された場合であっても、警視正以上の地位に就いた場合は国家公務員となり、給与は国から出される。
銀行、保険、証券会社などの金融業は言うまでもない。電通や博報堂などの広告業、ゼネコンなどの建築業、富士通などの通信機器・情報産業、不動産業、
日本郵便、日立をはじめとする日本を代表するメーカーや企業である。
1981年に商法が改正された。それまで企業は、株主総会を円滑に終了させるために、総会屋に金を払っていたが、そうした行為が禁止され、処罰規定も設けられた。
総会屋に代替する機能を果たすものとして、またコンプライアンスを遵守するという趣旨から警察の退職者を一般企業が採用するようになったのだろう。
JAFへ天下った警視庁長官
退職金は巨額の10億円
従来からの警察の領域である、交通と防犯の分野に天下る者も多い。
交通関係では、天下りの対象としては財団のウェイトが大きいように見受けられる。
その財団として、日本自動車連盟(JAF)、全日本交通安全協会、交通事故総合分析センター、日本道路交通情報センター、全日本指定自動車教習所協会連合会、
空港保安事業センター、日本二輪車安全普及協会、日本自動車交通安全用品協会、道路交通情報通信システムセンター、新交通管理システム協会、日本交通管理技術協会、
全国ハイヤー・タクシー連合会、東京ハイヤー・タクシー協会、などの財団法人や社団法人の理事長や専務理事、常務理事として天下っている。
高橋幹夫警察庁長官は日本自動車連盟(JAF)に天下り、その理事長を15年間にわたって務めた。毎年、多額の報酬を受けていたが、
死亡退職にあたっては「JAFから10億円近い巨額の退職金を受け取ったことが報じられ、今度は世間を呆れさせた」(寺尾文孝『闇の盾』)。
また、各都道府県や各警察署の交通安全協会は退職警察官の重要な受け入れ先ともなっている。
各都道府県の交通安全協会は自動車運転免許に関わる事務手続きや講習などを委託されている。
各県にある指定自動車教習所の協会や指定自動車教習所の所長、各県にあるタクシー・ハイヤー協会へ天下る都道府県警察本部や警察署の幹部警察官もいる。
交通に関連する企業としては、トヨタ自動車などの自動車メーカー、ヤナセなどの自動車販売業、JRなどの鉄道・交通業へ天下る
(バスと接触事故を起こしたら、バスのほうが無理な車線変更や割り込みをしてきたにもかかわらず、バス会社の『警察から天下ってきた』事故担当者が飛んできて、
自分のほうが悪いことにされてしまった、という一般の運転者のぼやきはしばしば聞く)。
さらに、道路交通情報通信システムセンター、新交通管理システム協会、日本交通管理技術協会などの協会から、情報産業との関係が浮かび上がるが、
富士通、三菱電機などの情報機器産業への就職もある。
セコムの顧問には警察がズラリALSOKの創設者は警察官僚
交通関係として警察に特徴的なのは、信号機の設計やメインテナンスがある。
たとえば「東管」という会社には、警察庁として警視監ナンバー3の地位だと言われる警察大学校長で退官した後、
JR東海の監査役や道路交通情報通信システムセンターの専務理事を務めた全日本交通安全協会の評議員が、特別顧問になっている。
株式会社となっている各地の空港への天下りもある。
なお、キャリア幹部が天下る保険業のなかでも、自動車保険関係が強い保険会社は、交通に関連する企業と言ってもいいのかもしれない。
また、警備業界の警察キャリアの受け入れも顕著である。警備会社の最大手はセコムで、2022年度では、警察庁長官官房付を本社の顧問に、
県警察学校長をその県を含む地方本部の顧問に迎え入れている。前年には、北海道警察の参事官をセコムの北海道本部の顧問に迎えている。
現在、取締役に警察関係者はおらず、監事に元警視総監がいる。この元警視総監は、JAF会長及び全日本指定自動車教習所協会連合会代表理事、
保険相互会社嘱託、さらにパチスロなどのゲーム機メーカーのコナミの監査役も務めており、警察が利権を持つとされる
交通、防犯、風俗という3領域すべてで役職を得たと言うことができよう。
警備業界の第2位は、綜合警備保障(ALSOK)である。警備会社は全国に1万社以上あると思われるが、セコムと綜合警備保障だけで売り上げの4割以上を占めると言われている。
業界第1位のセコムの売上高は1兆円を超え、業界第2位の綜合警備保障の売上高は約5,000億円である。これに対して、3位であるセントラル警備保障は約700億円にすぎない。
綜合警備保障は、そもそも警察官僚によって創設された会社である。
創始者の村井順は、「内閣総理大臣官房調査室」を設立し、1964年に東京オリンピック組織委員会事務局へ次長として出向したおりに、
今後の警備会社の需要と発展を実感したという。警察庁九州管区警察局長で退職したのち警備会社を興した。
長男が社長を継いだのち、中部管区警察局長で退職した警察官僚が迎えられ、社長を約6年務めた。
なお、この社長となった警察官僚の弟も警察官僚で、警察庁長官の後に内閣官房副長官になった。
駐車監視業務の民間委託は警察官の再雇用先確保のため?
綜合警備保障と警察庁との契約に関して、兄弟の関係がマスメディアの話題になったこともあった。
じつは、創設者の次男も警察官僚であった。複数の県警本部長を務めたのち中部管区警察局長で退職し、預金保険機構理事を1年務めた後、綜合警備保障へ入社し、社長に就いた。
この社長が招いた官僚が次の社長になった。
彼は大蔵省に入省し、財務省関税局長を務めた財務官僚だが、和歌山県警本部長を務めた経歴を持つ。常務として迎えられた後、4年後に社長になり10年間社長を務めた。
セコムと比較すると、綜合警備保障は、創始者とその子が警察官僚であるとともに、警察官僚を積極的に役員として迎え入れており、
警察官僚や県警本部長経験者が社長を務めてきたという特徴がある。
2006年に駐車監視業務(駐車違反などの取り締まり)が民営化された際、綜合警備保障は東京都内の数か所の警察署管内を請け負った。
しかし、その後は引き受けているようには見えない。
受託は入札制度によっており、2人の巡視員による巡回の仕事で、人件費がかかり、利益が上がらないため撤退したものと推定される。
一方セコムは、人を張り付けたり、巡回させたり、常駐させたりする警備から手を引き、CCTVなどの機械監視へと舵を切った。
さらにセンサーを組み込んだり、入退室管理と連動させたりして、異常通報があった場合にのみ警備員が駆け付ける、という省力化した機械警備を発展させようとしている。
そのため、こうした原初的な手間暇がかかって儲からない駐車違反取り締まり業務には見向きもしなかったものと考えられる。
じつは、この駐車監視業務の民間移管は、その企画が発表された当初から、大量に定年退職する警察官の再雇用先を確保するためではないかと言われていた。
あえて言うならば、落札した企業は、儲けるためではなく、退職警察官を救済するために儲からない仕事を受託したという、逆説的な見方も可能と思われる。
引用元 MSN