映像:弘前公園の片隅、未申櫓前に白神の詩人、福士幸次郎の詩碑が建つ。
碑文: 『 胸にひそむ 火の叫びを 雪ふらさう 』
解釈:なんと切ない歌だ。破天荒な生活人であった福士幸次郎の心の叫びか
それとも悲しみの祈りか。・・・冷たい雪で冷さなければならない程熱い
想いが尽きる事は無い、余の人生は終焉しても変わらない・・・と解すが。
弘前城址は広大な割に歌碑が少ない。そんな中、郷土の詩人福士幸次郎の魂
を見つけた。詩人としても駿英だが、「母の詩」で有名な詩人サトウハチロー
の恩人としても知られている。代表的な詩集に「太陽の子」『展望』等がある。
『太陽の子』より「男性の歌(11月17日)」
世界中の人が苦しい顏をしてると
自分は烈しい羞恥の心が起る
自分は斯うしては居られない
斯うしては居られない
ニイチエは超人と普通人を比較して
普通人を猿として笑つた
自分が世界中の人間が猿みたいに見えると
烈しい羞恥の念が起る
自分は斯うしては居られない
斯うしては居られない
自分は人間に生れた筈だ
確かに人間として生れた筈だ
吾れにしろ君にしろまた彼れにしろ
おお彼れにしろ
『展望』より「恢復」
人生は苦難と愛の庭、
荒い心に温柔をつつみ、
眞茂る木の葉に紅い實點々と、
秋の日照りに槇の並樹の、
逞しく足を揃へるその苔青い幹。
やがては冬來り、葉は落ち、
枝はささくれ立ち、
あの險しくも白眼をした雪もよひの空、
寒い雨、
地凍る霜の夜明け、
君の呻きは細枝をふるはし、低い空を嘯(うそぶ)かう。
缺乏の黒い感情、
苦痛に充ちた忘失の眼、
この身にふりかかる苦しみの出所は何?
やがては池の氷も黒ずみ、
廣い畠地は割れ、
さびしくも小鳥鳴き、
天地ことかはる季節のさかひに、
君はその時見ぬか、ああ見ぬか、暗く嚴かに
淋しくまた賑かな春と冬との分れ目を!
空は暗く、風は低く、日は短く、
しかし何處にか胸にはらむ恢復の希望……
所感:福士幸次郎は明治生まれだが口語自由詩という現代詩を成す。しかも
時に繊細、時に猛々しく、時に厳やか、時に明朗な様は白神の自然に
も似ている。『白神の詩人』の称号にふさわしい現代詩の祖だ。その
詩風は萩原朔太郎へと引き継がれた。白神の街、弘前という地は白神
の風雪に耐え、春爛漫の歓びを全身で表現する芸術家たちを輩出した。
冬のお城は雪がなければ、堀も木も遮るものがない。今日も新しい発見!
下乗橋の真下に見逃しそうな景観。僅かな水面に天主閣が映っている。
美しの里、美しの城、美しの津軽にはこんな素敵な空間がたくさんある
参照#弘前城(津軽藩)探訪紀行