
(ニカラグア・マナグア湖畔のモモトンボ火山 100年前に運河建設がパナマに決まったことにも関与したとのこと。
ただ、かつては被害も出した火山ではありますが、鹿児島の桜島に比べれば随分とおとなしい火山のようでもあります。“flickr”より By adrien )
【「パナマ運河の拡張は、世界の海運のゲームチェンジャーだ」】
世界的な運河と言えば、先ず思い浮かぶのはスエズ運河とパナマ運河でしょう。
パナマ運河は太平洋と大西洋を結ぶもので、全長80Km、99年前に完成しました。
国際的にも年間約1万4千隻が行き来する最重要航路ですが、パナマにとっても年間10億ドル(約980億円)以上の通航料が得られる“虎の子”でもあります。
ただ、近年の船舶の大型化に伴い通れない船が増え、現在5千億円以上をかけて大幅拡張工事が行われています。
日本も資金融資面でこの巨大プロジェクトに深く関与しています。
日本の海運にも大きな影響があるそうで、工事は2年後には完成する予定です。
****運河拡張、パナマ急成長 2年後完成、貨物量3倍の船OK****
太平洋と大西洋を結ぶ結節点のパナマで、5千億円以上をかける巨大プロジェクトが進んでいる。
運河を大幅に拡張するこの事業で、世界の海運地図は大きく塗り変わる。パナマ経済は急成長を続けるが、一方で交通渋滞や海洋汚染が深刻になってきた。
エネルギー源の確保が課題となっている日本にとってもパナマの重要性は高まっており、運河拡張と環境改善の支援を通じて関係を強めている。
■海運の大変革、日本も融資
・・・・その手前の地面を削り、新たな航路が作られつつある。・・・・完成すれば、いま通れる船の3倍近い貨物量の大型コンテナ船や大型タンカーが行き来できる。
「パナマ運河の拡張は、世界の海運のゲームチェンジャー(大変革をもたらす出来事)だ」
パナマ運河庁のフランシスコ・ミゲス副長官は力を込める。アジアと米国東部や南部などとの大動脈となることで、モノの流れが変わるというわけだ。
太平洋と大西洋を結ぶパナマ運河は、全長80キロ。高さ26メートルの人造湖にまでいったん船を引き上げて、対岸におろす。99年前に完成し、これまで100万隻以上の船が通ってきた。
しかし、コンテナ船などが大型化するにつれ、運河を通れない船が増えた。「アジアから米国東部・南部との貿易は、(逆回りの)スエズ運河経由の航路に変えられることが多くなっていた」と、運河庁幹部は言う。拡張して大型船が通れるようになれば、通行料が上がっても、貨物量当たりの単価は安くなる。
2007年に始まった総額52・5億ドルの巨大事業で最大の融資団となったのが、日本勢だ。国際協力銀行(JBIC)とメガバンクが計8億ドルを融資した。2年後に完了する見通しの運河拡張で、日本と北米、南米との間の工業製品や農産物、原油などの貿易がしやすくなる。
さらに日本の関係者の期待を集めているのが、液化天然ガス(LNG)の輸入ルートとしての役割だ。米国のシェールガス革命でガス価格は低下。ガスを液化し、テキサス州からタンカーで輸入する大阪ガス・中部電力などの計画が、米政府から許可を受けた。
輸入は18年に始まる見通しだ。大阪ガスの関係者は「アフリカの喜望峰回りというルートもあるが、片道40日ほどかかる。パナマ運河を使うと約25日。通行料次第だが、おそらく運河を使うだろう」と話す。
■河川汚染・交通渋滞… 開発のひずみも
運河拡張という大型事業の効果もあって、パナマは年率10%前後の成長を続けているが、課題も多い。
トロピカルブルーの海が広がり、すぐそばに高級ホテルやマンションが立ち並ぶ首都パナマ市。一見すると高級リゾート地にみえるが、海辺には人影がない。
下水道処理施設がなく、汚水はすべて垂れ流し。海や川には悪臭が漂い、泳ぐこともできない。
現在、2・4億ドルをかけた下水処理場の建設が進んでおり、近く完成する。パナマ政府が進めるこのプロジェクトは日本の国際協力機構(JICA)が支援しており、およそ半分が円借款でまかなわれている。(後略)【8月4日 朝日】
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【「国民の夢」か「無用の長物」か、または政権の「PR」か】
一方、パナマと同じ中米ニカラグアでは、パナマ運河に対抗して、ニカラグア湖と河川を利用した、パナマ運河の3倍以上の長さの新たな運河を建設する計画があるようです。
当然ながら、本当に4兆円近い巨大プロジェクトを実現できるのか? パナマ運河が拡張されるのに、需要があるのか?・・・といった疑問符もつきます。
工事を請け負うのは香港系企業で、その背後に中国が・・・という話です。
****ニカラグア「国民の夢」新運河構想****
■全長パナマの3倍…香港系企業請け負いも実現「?」
中米ニカラグアのオルテガ政権がパナマ運河に対抗する巨大運河の建設を目指している。
同国議会は今月13日、中国・香港系企業に向こう50年間、運河の計画立案、資金調達、建設、運営を認めることを決定したが、現時点では計画の実現性を疑問視する声が支配的で、オルテガ政権浮揚への“PR”との見方が強い。
運河の全長は290キロ前後。南部のニカラグア湖を通ること以外、具体的なルートは決まっていない。総事業費は400億ドル(約3兆9千億円)。
事業を請け負うのは、香港系企業「HKニカラグア運河開発投資」。
米紙ウォールストリート・ジャーナルによれば、同社のワン・ジン社長(40)は「建設資金を世界中から集める」と表明した。ただ、ワン社長が経営する北京の通信会社のウェブサイトには、中国政府との関係を強調する写真が掲載されており、中国政府がいずれ資金提供などで事業に関わるとの見方も根強い。
ニカラグアでは、前身の「中米連邦」時代の1825年、米ニューヨークの有力資本家の事業として運河を建設する案が浮上した。
ところが、米政府の支援でパナマに運河を造りたいロビイストらが20世紀初頭、煙を吐くモモトンボ火山が描かれたニカラグアの切手を米上院議員に送りつけ、「自然の脅威」を強調。
米政府は結局、パナマに運河を造り、ニカラグア案を葬り去ったため、「運河建設はニカラグア国民が100年間抱き続けてきた夢」(ワン社長)となっていた。
年間約1万4千隻が行き来し、パナマ政府に10億ドル(約980億円)以上の通航料を落とすパナマ運河は現在、通航能力が限界に近づいており、52億ドルの予算で拡張工事が進められている。
ただ拡張されても、世界最大級のコンテナ船の通過は不可能とされていることもあり、ニカラグア政府は「新運河建設の好機」と判断した。
オルテガ政権は運河建設で、中南米地域の貧国の一つである自国の国内総生産(GDP)を倍増させ、4万人の雇用創出を図ると強調している。大統領顧問も「運河建設でニカラグアの歴史が大きく転回する」と期待を寄せる。
ただ、運河建設の実現性を疑問視する声は少なくない。ニカラグアにはジャングルや自然保護地が多く、運河の全長もパナマ運河の3倍近くに上ることから、建設には困難が伴う。
中米地域に、2つの運河が必要なほど物流が増えるかという点についても懐疑的な見方が多い。専門家は「(物流が増えないため建設しても)人類史上、最悪の“無用の長物”になる可能性がある」と指摘している。【6月25日 産経】
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以前は“ニカラグアと関係を強めるロシアのドミトリー・メドベージェフ大統領は18日、新運河建設構想に興味を示し参加を検討していることを明らかにした”【2008年12月21日 AFP】といった報道もありましたが、役者が完全に変わったようです。
HKニカラグア運河開発投資(HKND)は運河建設事業を請け負った経験がない(2)中国とニカラグアの間に国交がない(3)事業がコスタリカとの国境紛争に関わる可能性がある(4)近隣のパナマ運河も拡張工事中・・・という理由で実現性が疑問視されていますが、HKNDのワン社長は、ルートを発表し、来年の事業開始に自信を見せています。
****ニカラグア運河、ルートと開始日を発表****
中国の起業家ワン・ジン氏は、カリブ海から太平洋までのニカラグアの 170 マイルに渡る400億ドルの予算の運河のルートを発表した。
太平洋のブリトのポートから始まり、運河はニカラグア湖を渡り、モリトの小さな空港を通過して、ブルーフィールズへつながる、とワン氏はデイリー テレグラフ紙に語った。
ワン氏は又、自信に満ちて運河の建設は来年開始すると述べている。「2014 年 12 月に建設が開始するのは100パーセント確実で、2019 年までの 5 年間で完成させます。」とシンウェイというテレコム会社を率いる41才のワン氏は述べた。
最初の発表以来運河の提案は反対を受けており、特に環境保護主義者から国の未開発地域が運河から受ける影響に懸念して反対をしている。すでに汚染に苦しんでいるニカラグア湖を通過するルートを選択したのは懸念を強めるだけである。
ただし、ワン氏は環境の保護を最前線に維持すると約束。「ニカラグア湖が国での母なる湖であるのは非常に明らかです、ちょうど黄河が中国でのシンボルなのと同じです。その為この湖の保護は私たちの実効性報告書の焦点でした。」と彼はテレグラフに語った。「私は環境の損害について全ての責任を負います。私は従業員に私達がこの件で間違いをおかせば、ニカラグアの歴史の教科書で名誉を汚したと記述されると言ってあります。」(後略)
【7月31 MIAMI INTERNATIONAL】
http://www.worldpropertychannel.jp/latin-america-commercial-news/post-2-301.php
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【イラン・コントラ事件】
ニカラグアと言えば、CIA元職員スノーデン氏の亡命先としても取りざたされたように反米左翼政権の国ですが、経済的にはコーヒー、バナナ、サトウキビなどの生産が中心で、一人当たりGDPでみるとパナマの4分の1程度と、厳しい状況にあります。
ニカラグア経済の停滞の大きな原因のひとつに、1980年代の内戦と(第1次オルテガ政権の)圧政による経済破壊があります。
その混乱の時代にアメリカと世界を騒がせたのが、アメリカ・レーガン政権がイランへ武器を売却し、その代金をニカラグアの反政府ゲリラ“コントラ・グループ”に流していたという「イラン・コントラ事件」でした。
*****イラン・コントラ事件****
アメリカ軍の兵士らがレバノン(内戦中)での活動中、イスラム教シーア派系過激派であるヒズボラに拘束され、人質となってしまった。
彼らを救出する為、米国政府はヒズボラの後ろ盾であるイランと接触し、イラン・イラク戦争でイラクと戦うイランに対し、武器を輸出する事を約束した(イラン革命時のアメリカ大使館人質事件により、アメリカはイランを敵視して、イランに対する武器輸出を公式に禁じていた)。
武器の輸出は、ヒズボラおよび西欧諸国での爆弾テロを支援したグループに対する影響力を持つイランの歓心を買った。
さらに米国政府関係者は、イランに武器を売却した収益を、左傾化が進むニカラグアで反政府戦争(コントラ戦争)を行う反共ゲリラ「コントラ」に与えていた。
ニカラグアは1979年のニカラグア革命により、40年以上続いた親米のソモサ王朝独裁政権が崩壊し、キューバおよびソ連に支援され、社会主義寄りのサンディニスタ民族解放戦線(FSLN)政権が統治しており、冷戦を戦い抜こうとする米国にとっては看過出来ないことであった。
それぞれの行為は、当時民主党が多数を占めた議会の議決に反した。議会はイランへの武器販売およびコントラへの資金提供に反対していた。
また、この時、アメリカのイランとコントラの双方の交渉窓口は当時副大統領だったジョージ・H・W・ブッシュ(後の大統領)であったとされ、このブッシュの関与が民主党政権下の連邦議会における公聴会で取りあげられたが、その真相はいまもってうやむやである。【ウィキペディア】
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なお、“この時アメリカ合衆国の手先となって支援資金の洗浄をしていたのはオサマ・ビンラディンの兄サレム・ビンラディンであった。”【同上】とのことです。
“国益”(と、ときの権力者がみなすもの)のためなら、イランへの武器売却だろうが、コントラへの資金援助だろうが、“何でもあり”というのが国際関係のようで、したがってそのときの事情により大きく変化もします。
現状から判断して“ありそうにないこと”も、明日はどうなるかわかりません。
話がそれましたが、新運河建設がニカラグア経済振興の起爆剤となるのか、オルテガ大統領の人気取り“大風呂敷”か、中国マネーが巨大プロジェクトを推し進めるのか・・・興味深いところではあります。