(イスラム教徒に対する敵意を煽るような、「ミャンマーのビンラディン」とも称される仏教僧ウィラトゥ師 “”より By Burma Democratic Concern (BDC) http://www.flickr.com/photos/26092418@N05/8481105751/in/photolist-dVrTge-dVPN8N-d9Gm7K-d9GkPq-d9GmjA-d9GkzM-ei7qKU-eVZMJp-eWcbQf-eVZMRx-fkj1F6)
【悪僧、怪僧の類はどこにでも】
日頃、イスラム過激派とかイスラム原理主義勢力とか、イスラム関係の話題を取り上げることが多々ありますが、宗教的な問題が存在しているのは別にイスラムに限った話ではありません。
キリスト教の場合、アメリカの宗教保守派による過激な中絶反対運動、教会内部の性的小児虐待、あるいはバチカンの黒い噂など・・・。
仏教の場合も同様でしょう。
普段、自分が仏教を主とする社会に生きていることを意識することはまったくないのですが、東南アジアの国々を観光する際に、タイ・ミャンマー・ラオス・スリランカなど仏教国の静かな仏教寺院を訪れると、ほっとするような和む感じがあります。
日常生活の一部としてお寺で熱心に祈る現地の人々の横で、簡単に手を合わせることもしばしばあります。
もちろん、日本の仏教と異なり、東南アジアの仏教は上座部仏教(小乗仏教)ですが、最初にその違いを実感したのは、20年ほど前、スリランカを旅行した際に、僧侶の足元で地面にひざまずき、僧侶の足に自分の額をこすりつけるようにして拝む地元女性の姿を見たときでした。
ただ、空港で当然のごとく一般乗客に優先して搭乗する様子、ツアーに参加して他の参加者を長く待たせたあげく、一言の詫びもなく平然としている様子など、「お坊さんって、そんなに偉いの?」という気持ちになることもしばしばあります。
厳しい戒律を守り、出家して修行に励み、悟りをひらくことで救われる、一般の人々はこのような僧侶の修行を助けることで功徳を積める・・・という東南アジア各国の仏教ですが、一方で、成年男子の多くが一度は出家する、希望すれば何回でも出家する、その期間は短期間でもかまわないというように、聖俗の垣根が非常に低い現実もあります。
ということは、出家した僧侶とは言っても“玉石混交”的な側面もあるのではないでしょうか。
日本でも悪僧、怪僧の類はいくらでもいますが、東南アジアの仏教国でも同様でしょう。
【贅沢僧侶というより、悪徳僧侶・犯罪者】
今年6月に、サングラスをかけ、高級バッグを傍らに置き、自家用ジェット機を乗り回す僧侶がタイで話題になりました。贅沢僧侶というよりは、かなりの悪行を重ねた犯罪者だったようです。
****淫行、マネロン、高級外車…タイの“贅沢僧侶”は地獄に落ちる****
人の道を説くのが僧侶だが、タイの元僧侶、ウィラポン容疑者(33)は間違いなく犯罪者だ。
未成年と性的関係を結んだ淫行だけでなく、違法薬物の使用、マネーロンダリング(資金洗浄)にも関与したとされる。不正蓄財は日本円にして32億円にもなるという。悪行の限りを尽くし、当然だが、僧籍を剥奪され、捜査当局からも追われる身になった。悪徳僧侶から得る教訓とは…。
■不正蓄財32億円…
やや大きめのサングラス。横の席には高級バッグが置かれている。オレンジ色の僧衣を着た僧侶は無精ひげをはやし、後部座席の弟子らしき僧に話しかけている。終始、不満げな表情だ。
これは今年6月、ウィラポン容疑者の“悪行”が発覚するきっかけとなった自家用ジェット機内の様子を映した動画だ。動画が発覚する前は、タイ国内で、さほど有名ではない一僧侶だった。
タイは信心厚いお国柄で、国民の9割以上が仏教徒とされる。この映像が動画投稿サイトで公開されると、すぐに批判が集まった。
「僧侶が人の道から外れている」「ぜいたくすぎる」。ただ、悪行はこれだけではなかった。
バンコク・ポスト紙(電子版)などによると、まず、14歳の少女と性的関係を持った淫行疑惑が浮上。タイでは15歳以下の少女と性交した場合、同意の有無にかかわらず最高で禁錮20年の刑に処せられる。
さらに、22台もの高級車ベンツを総額9500万バーツ(約3億円)で購入し、違法薬物の使用やマネーロンダリング(資金洗浄)などにも関与したとの疑惑も浮かび上がった。これらを受け、ついに7月13日、僧籍を剥奪された。米ハフィントン・ポストによると、不正に蓄財された資産は約10億バーツ(約32億円)にもなるという。
同17日にはタイ法務省特別犯罪捜査局(DSI)が、少女に対する強姦、横領、詐欺容疑で逮捕状を請求するに至った。疑惑が発覚した当時はフランスにいたウィラポン容疑者は、身の危険を感じたのか、米国に“逃亡”した。
■高級車70台… 一部は賄賂にも使った
ハフィントン・ポストによると、ウィラポン容疑者の日頃の行状はとても僧侶とは思えない。贅沢(ぜいたく)僧侶というより、悪徳僧侶だ。
貧困地区で出身で、10歳代で宗教の道に入ったウィラポン容疑者は、実は担当の宗教区では名声を得ていた。なぜか。空を飛び、水の上を歩き、そして神と話すことができるという噂が広まったからだ。
そして、名前も「ナンカム」と変え、裕福な支援者と親交を保ち、金集めに奔走した。
説法も地域では知られるようになった。ハフィントン・ポストによると、説教を聞いたことがある女性は「彼の声は美しく、魅惑的だった。そこにいたすべての人間を魅了した」。説教の最後にサフラン色のかばんを差し出すと、数百人の人たちがこぞって寄付を申し出た。容疑者はこう言った。
「心配しないで。あなたたちの最後の寄付が終わるまで、ここにいますから」
当局側が把握している限りでは、同容疑者は41の預金口座を持ち、そのうちのいくつかには2億バーツが絶えず預けられていた。DSIの調べでは、全部で70台の車を購入し、このうちの22台のベンツは9500万バーツ相当の価値があるという。ベンツのうちのいくつかは上級の僧侶に“賄賂”として渡した。自動車の闇市場でも売却したとみられる。
旅行は必ず自家用ジェット機かヘリコプター。国内を巡った際にかかった30万バーツは現金で支払った。バックの中には100ドル札が大量に入っていたとされる。さらに当局は、3年前、ボルボを運転中にひき逃げ死亡事故を起こしたとみているとされる。
市民の善意を悪用し、自らの欲求に使い続けた悪徳僧侶。DSIの捜査官はこう指摘している。
「僧侶の犯罪で、ここまで広範囲に多くの人に損害を与え、タイ社会に衝撃を与えた事件はない」(後略)【8月17日 産経】
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【「野生の象と人間は一緒に住めない。追い出さなければ人は殺されてしまう」】
もっとも、こうした犯罪者・悪僧より社会的に深刻なのは、使命感に燃え、正義の旗を振りかざし、自らは正しい行いをしていると信じて、結果的には社会に害毒を垂れ流しているケースでしょう。
人口約6300万人のうち9割近くが仏教徒で、キリスト教徒とイスラム教徒がそれぞれ4%程度を占めるとされるミャンマーでは、少数派イスラム教徒と多数派仏教徒の間で緊張が高まり、衝突も起きています。
そうした緊張状態にあって、イスラム教徒に対する敵意を煽るような、「ミャンマーのビンラディン」とも称される仏教僧ウィラトゥ師については、6月24日ブログ「ミャンマー 民主化が解き放った「ビルマのビンラディン」、それを受け入れる社会的土壌」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130624)でも取り上げました。
****反イスラム訴え世界が注目 ミャンマー過激仏教僧・ウィラトゥ師****
「野生の象と人間は一緒に住めない。追い出さなければ人は殺されてしまう」
王朝時代最後の都だったミャンマー中部マンダレーで開かれた夜の説法会。ウィラトゥ師(45)の声が響きわたる。激しい言葉とは裏腹に、声は穏やかだ。
師が「野生の象」に例えたのはイスラム教徒だ。信者たちは師の問いかけに、「その通りです」と声をそろえる。
「人権を叫ぶ人たちはイスラム教徒の側にだけ立っている。(仏教徒の)ミャンマー人に人権はないのか」
ウィラトゥ師はミャンマーの反イスラム仏教僧として、いま世界の注目を集めている。異教徒排斥を訴える過激な言動から「ミャンマーのビンラディン」とも称される。
米誌タイムの7月1日号で「仏教テロの顔」とのタイトルとともに表紙になった。ミャンマーの地元紙や仏教界は猛反発。政府は同日号を発禁処分にした。
「私の敵はタイム誌という武器を使って攻撃してきた。私がいなくなればミャンマーを自分たちのものにできると考えているからだ」。師は説法会で敵意をむき出しにした。
民主化と経済ブームに沸くミャンマーで、反イスラム的な民族主義を唱える仏教僧のグループが台頭している。相次ぐ仏教徒とイスラム教徒の衝突を背景に支持を拡大する。
だが、敵対的な主張はイスラム教徒を刺激する危険をはらむ。イスラム過激派のテロの矛先が仏教徒にも向かう兆しが出てきている。
マンダレー市内の僧院にウィラトゥ師を訪ねた。
「仏教守れ」民族主義台頭 イスラム信者急増に危機感 ミャンマー過激僧ウィラトゥ師
ウィラトゥ師は、ミャンマー仏教が危機に陥っていると言う。なぜ、そう思うのか。
「イスラム教徒は仏教徒の文化や伝統を破壊し、女性を結婚によって無理やり改宗させている。信者が急増している」
ミャンマーでは3月に中部メイッティーラで仏教徒とイスラム教徒が衝突して以降、各地で反イスラム暴動が起きている。師が扇動しているのではないか。
師は笑みを絶やさず「危険なことを危険だと指摘しているだけ。私は仏教を守りたいだけだ」と即座に否定した。
ウィラトゥ師がイスラム脅威論を唱え始めたのは1990年代末。軍事政権下の2003年に宗教暴動をあおったとして逮捕、投獄された。昨年1月、テインセイン大統領の恩赦で釈放され、活動を再開した。ミャンマー仏教界では中堅だが、人々の支持を集め、高僧らも無視できない存在になっている。
昨年10月には、民族主義的な僧侶のネットワーク「仏法を守る高僧の会」が南部モーラミャインに結成された。通称「969運動」と呼ばれる。「969」は仏教の三宝(仏法僧)を表しているという。
運動は若者らの「仏教離れ」に危機感を抱いた僧侶らが僧院の垣根を越えて連帯しようというものだ。日曜に子どもを対象にした「仏教学校」を開いている。イスラム系商店での不買も訴える。事務局次長のパンディタ師(29)は「民主化で僧侶も自由に組織を作れるようになった」と結成の動機を説明する。
969運動が広範な支持を集める背景には、インド系イスラム教徒の文化風習に違和感を持つ仏教徒ミャンマー人が少なからずいることがある。仏教徒からは「イスラム教徒は商売上手」「一夫多妻で多産」などというレッテルが聞かれることも多い。
昨年6月に西部ラカイン州で起きた仏教徒のラカイン族と少数派のイスラム教徒ロヒンギャ族との衝突も仏教徒側に危機感を共有させている。欧米やイスラム圏からは「仏教徒によるイスラム教徒迫害」と位置づけられているが、ミャンマー国民の多くは「バングラデシュからのイスラム教徒の侵入」と考えている。
ウィラトゥ師らは「アフガニスタン、パキスタン、インドネシアなどかつて仏教国だった国々が次々とイスラム化した。だからミャンマー仏教徒は信仰を強く守らなければならない」と主張する。
■周辺国で仏教寺院狙ったテロ
ウィラトゥ師らが力を入れるのが、仏教徒女性とイスラム教徒男性の結婚を規制する法律の実現だ。
6月下旬、最大都市ヤンゴンで全国の高僧ら約1500人が集会を開き、「民族保護法」と称される婚姻規制法の成立に向け努力することをほぼ全会一致で決めた
。約200万人分の署名を集め、国会に提出したという。
ウィラトゥ師は自分たちの訴えは「仏教の防衛」であり、「他宗教を攻撃するものではない」と主張する。だが、こうした思想はイスラム教徒を刺激しかねず、仏教寺院を狙ったテロが起き始めている。
インド東部ビハール州のブッダガヤ仏跡では7月7日、大菩提(ぼだい)寺(マハーボーディ寺院)の敷地などで相次いで爆発があり、巡礼者2人が負傷した。インド当局はテロ事件と断定、タイムズ・オブ・インディア紙(電子版)は、捜査当局者の話として、イスラム過激派による犯行の可能性が高いとの見方を報じた。
インドネシアの首都ジャカルタ西部の仏教寺院でも今月4日、爆発があり3人が負傷した。地元メディアによると、爆発跡に「ロヒンギャ族の叫びへの答えだ」と書かれた紙があったという。インドネシア警察当局はジャカルタのミャンマー大使館への爆破テロを計画したなどの疑いで5月以降計5人を逮捕している。
また、イスラム教徒が多数を占めるマレーシアでは5月末から6月上旬にかけ、ミャンマー人仏教徒の労働者が相次いで襲撃され、少なくとも5人が死亡した。周辺国にも不穏な空気が広がっている。(後略)【8月14日 朝日】
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よくわからないのは、ミャンマー政府の対応です。
軍事政権は、宗教暴動をあおったとしてウィラトゥ師を逮捕、投獄していますが、現政府は同氏を批判したタイム誌を発禁処分としています。
もとより、仏教徒とイスラム教徒間の問題は、一方的にどちらかに非があるということではないでしょう。
ただ、圧倒的多数派の仏教徒側には自制も求められます。仏教界には社会の緊張を和らげる存在であってほしいのですが。
****ミャンマー「闇に光が差してきた」 民主化運動25年記念式典****
ミャンマーで1988年にあった民主化運動を記念する式典が8日、最大都市ヤンゴンで初めて開かれた。運動を指導した元学生活動家らの主催で、式に出席した野党党首アウンサンスーチー氏はさらなる民主化に向け、国民和解や憲法改正の必要性を訴えた。
8日は、民主化運動に多くの国民が加わる契機になった88年のゼネストからちょうど25年の記念日。国内での式典開催はテインセイン大統領の改革で政治的自由が広がったことで可能になった。
スーチー氏のほか少数民族政党の代表、運動で命を落とした学生の遺族ら数千人が参加。スーチー氏は「この国では治安維持を理由に抑圧する歴史があったが、国の発展には平和と自由の両方が必要だ」と指摘。国内和平と軍政が制定した憲法の改正を「実現しなければならない」と述べた。
主催した「88年世代学生グループ」のリーダー、ミンコーナイン氏は計20年間の獄中生活を強いられた。取材に「軍政という闇の時代から今ようやく光が差してきた。強い心を持って闘えばいつか信念はかなうものだ」と感慨を語った。(ヤンゴン=五十嵐誠)【8月9日 朝日】
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軍事政権の抑圧がとれたことで手にした自由が社会の混乱につながることがないように、理性と自制が働くことを望みます。