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(5月30日 スリランカを訪れた際のインラック首相 “flickr”より By The Gateway to South Asian... http://www.flickr.com/photos/21709881@N02/8907821004/in/photolist-ez9UQL-aAfPUv-dEx3oS-dErFxe-efqnH9-9YVoDr-asMxPT-c8Kmmo-bwG3Fg-bwG7Lx-bwFXAZ-bwFZfg-bwGe4t-bwG9or-bwGaiP-bwG62g-bwGeNp-bwG3dv-bwGbpH-bwG1pR-bwG4Mv-bwFWSz-bwG2EB-bwGcM8-dpoQL1-bGbN7z-czh2RY-bNfEUv-bPjBuR-bPisz8-bApoV7-9XNoP7-efqnMG-dpoFnx-dpoDQR-eFgtdG-eFgt8A-eFgtcC-eFgtfq-eFgth1-fdHwBa-fdXNzm-9YFBkg-9YJuUS-9YJvvb-9YJtQf-9YJuf9-9YFAWZ-9YJvdL-9YJv7A-9YJvCy)
【出口の見えない「コメ買い取り策」】
タイ・インラック政権が行っている大衆迎合的バラマキ政策との批判も強い、事実上のコメ買い上げ制度でもあるコメ農家への所得補償制度については、7月15日ブログ「タイ タクシン元首相の「密談テープ」発覚で揺れるインラック政権 バラマキ・大衆迎合批判も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130715)でも取り上げました。
この政策は、タクシン支持派の政治基盤でもある農村票を固めるためにインラック首相(海外逃亡しているタクシン元首相の妹)が2011年の総選挙の公約としたものです。
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農家が生産したコメを担保に政府系機関の農業銀行から金を借りるという、融資のかたちの所得補償制度。
借金を返さなければ担保のコメは戻らないが、それは政府が売るため、買い上げと変わらない。コメ1トン当たりの融資単価が市場価格よりも3~5割も高いうえに、量に制限がないという破格のものだった。
昨年末の世界銀行報告書によると、タイのコメ農家の3分の1にあたる130万世帯が制度を利用し、政府は約2千万トン近くの売れないコメを抱え込むことになった。世銀推計では昨年の赤字は1150億バーツ。この額は国内総生産(GDP)の1%、12年度のタイの国家予算の5・8%にあたるとしている。
相場より高いコメのため、市場に出すと損失となり赤字が膨らむ。このため政府は輸出を控え、昨年の輸出量は前年より3割余り減り、世界1位のコメ輸出国の座から転落した。”【6月13日 朝日】
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タイ政府が高く買い取ってくれるなら・・・という訳で、周辺のカンボジアやミャンマーからも密輸米が流入し、財政赤字が更に膨らむという事態にもなっています。
****タイ、混迷するコメ買い取り策 財政負担が急増…密輸米も流入****
タイのインラック政権が「農家保護政策」の一環として導入した「コメの買い取り策」が、間もなく開始から2年を迎える。
市場価格を超えてコメを「買い取る」ため、取引業者らが殺到。国の財政負担が急増しているほか、タイ米の国際市場価格が高止まりとなり、2012年には31年ぶりにコメ輸出世界一から転落する憂き目にも遭った。
このため、政府は6月末からの買い取り価格引き下げなどを閣議決定したが、生産・流通関係者の強い反発に遭い、わずか2週間で軌道修正。引き下げ時期を今年9月以降に先送りするなど対応を二転三転させている。政府関係機関からも批判の多い「買い取り策」の現況をまとめた。
生産国を偽装
カンボジア国境に接するサケオ県アランヤプラテート郡。バンコクの東300キロに位置する国境の街を東西に横断する国道33号はカンボジア国内に通じ、最終的にはプノンペンへとたどり着く。その国境警備所で6月下旬、タイへの入国を試みようとした不審な大型トラックが摘発される事件があった。
トラックを運転していたのは、コメの運搬業者を名乗るタイ人の男性。税関職員が荷台を確かめると籾(もみ)米約90トンが発見された。男は、コメはタイ産米だと主張、知人から頼まれただけと訴えたが、最終的に税関の追及にカンボジアからの密輸米であることを認めた。(中略)
男も「カンボジア産をタイ産と偽り、タイ政府に高値で買い取ってもらうために密輸を計画した」と供述した。また、ミャンマー国境でも同様の事件があったことから、政府関係者も動揺を隠せないでいる。(中略)
1兆8520億円支出
また、買い取り代金の中から高額の手数料などを天引きしていた中間ブローカー集団が北部や東北部地方を中心に暗躍していることも判明。一部に政府関係者が加担しているとの指摘も取り沙汰され、政府が対応に追われている。
「コメの買い取り策」は、名目上はコメを担保とした融資制度だが、貸付枠がコメの市場価格の4~5割増に設定されているため、事実上の「買い取り制度」とされ、これまでに約5900億バーツ(約1兆8520億円)に上る国費が投じられた。
一方、政府が売却に成功したのはわずか約800億バーツ。この差額が収穫期ごとの赤字となって、政府債務を膨らましてきた。タイ中央銀行の試算では、このまま19年まで施策が継続された場合、国内総生産(GDP)に対する比率は60%を超えるとされている。
6月には、施策を理由に米格付け会社から国の信用格付けの引き下げ可能性も指摘されたタイ政府。出口の見えない「買い取り策」が待ったなしのところに来ている。(在バンコク・ジャーナリスト 小堀晋一)【7月30日 SankeiBiz】
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【全国一律最低賃金を引き上げ:追い込まれる地方・中小零細企業】
インラック政権が導入したもうひとつの2011年総選挙公約が、最低賃金の全国一律引上げです。
労働者の所得が向上し、労働力集約型からの脱皮が図れれば言うことはないのですが、こちらも、実体経済にダメージを与えつつあるようです。
****タイ、あえぐ中小企業 最低賃金引き上げ、85%アップの県も 推計7万工場閉鎖****
タイ政府が導入した、最低賃金を全国一律で日給300バーツ(約930円)に引き上げる政策が、中小企業をじわじわと苦しめている。
地方では操業を断念する工場が増え、恩恵を受けたはずの労働者にも影響が及び始めた。閉鎖に追い込まれる工場は数万カ所に上るとの推計もある。(中略)
■地方の競争力低下
(中略)
タイでは従来、地域ごとに最低賃金が定められ、地方に行くほど安かった。これが、地方産業の競争力の源になっていた。しかし、インラック政権が導入した新制度は地方の経済発展段階や物価水準に関係なく全国一律に引き上げるという異例のもので、ランパン県は昨年4月から今年1月の間に165バーツから81%、ターク県は162バーツから85%増になった。
第1段階の賃金引き上げが実施された昨年4月を前に全国685人の中小企業経営者を対象にした定点観測を始めたトラキッドバンディッド大学研究センターの調査によると、規模の小さい企業ほど賃金上昇分を吸収する余力がなく、調査対象の12・5%が工場を閉鎖したと回答。約30万社あるとされるタイの中小零細工場の5万~7万カ所が操業停止に追い込まれる可能性があるとしている。
■「地下潜伏」で対抗
賃金引き上げを受けて、製造ラインの効率化や機械化などで労働力集約型からの脱皮をはかろうとしている経営者がいる一方で、早くも「脱法行為」が散見されるという。
例えば、「地下潜伏型」。もともとの工場は人員を大幅に削減したうえで操業を続け、これとは別に会社登録をしていない製造施設をつくってそこに労働者を移し、1日300バーツ未満の賃金で働かせるというやり方だ。失業するぐらいなら最低賃金以下でも働くという労働者がいるため、人は集まるという。
「外注型」というのもある。これは、衣料品の縫製などで労働者にミシンを自宅に持って行かせたうえで、雇用契約は解除して仕事の外注契約を結ぶ。最低賃金の適用対象外にするという手法だ。
サプライチェーン全般に賃金上昇が影響し、物価も上がり始めている。商務省統計によると、今年6月時点の野菜や果物、肉などの生活に欠かせない食料品の値段が前年比6~10%と目立った上がり方を示し、低所得者ほど打撃が深刻だ。
同センターのキアットアナン所長は「タイ経済を支えている中小企業を弱らせる政策だ。短期間に全国一律で最低賃金を引き上げるのには無理がある。ポピュリズム政策で集票効果はあるかも知れないが、一過性のものだ。賃金は当面上がらないが、インフレは進む。貧しい労働者が、この政策の被害者になる恐れがある」と指摘する。【8月26日 朝日】
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【景気刺激効果も息切れ】
無理な経済政策は、結果的にインフレ高進により貧困労働者を苦しめることにもなります。
タイ経済は、インラック政権の“大胆な”施策により“11年後半の洪水危機からのV字回復”を見せたのですが、その経済効果にも“息切れ”が出ています。
****タイ、輸出・消費息切れ 4~6月GDP0.3%減 ****
タイの景気減速が鮮明になってきた。
同国国家経済社会開発委員会(NESDB)が19日発表した4~6月期の実質国内総生産(GDP、季節調整済み)は前期に比べ0.3%減少。1~3月期(1.7%減)に続き、約3年ぶりに2四半期連続のマイナス成長に陥った。
景気けん引の両輪だった輸出と個人消費が不振で、2013年通年の成長予測も従来の4.2~5.2%から3.8~4.3%へ下方修正した。
四半期ベースで2期連続の前期比マイナスに陥るのは、リーマン・ショック後の金融不安に直撃された08年10~12月期、09年1~3月期以来。(中略)
11年8月に発足したインラック政権は、外需や為替の変動に左右されがちな過度の輸出依存の経済構造を改め、内需主導での持続成長を目指す方針を表明。法定最低賃金の引き上げや農家からのコメの高値買い上げ、初めて車を買う消費者向けの大型減税などの政権公約を次々と実行し、11年後半の洪水危機からのV字回復につなげた。
ただバラマキ的な景気対策は反動も大きい。
例えば昨年末で受け付けを終了した車向け減税は、最大10万バーツ(約31万円)と中・低所得層の年収に匹敵する金額を還付。昨年の新車販売台数を前年比8割増の144万台に増やしたが、納車が一段落した5~6月は前年比マイナスに転落。輸出も思うようには伸びないなか、自動車各社は工場稼働率維持のため「値引き合戦を余儀なくされている」(日本車メーカー)。
そうした「上げ底消費」は、車以外の分野に負の波及効果をもたらす。タイの消費財最大手サハ・パタナピブン・グループのブンヤシット会長は「車の購入支援策に購買力を奪われた分、消費者は他の分野で節約するようになった」と嘆く。消費減退に対応し、今年予定していた靴や衣料品の工場投資などを延期・縮小する意向を示す。(中略)
一方、短期的政策がもたらした消費拡大で、直近の家計債務残高は8兆8000億バーツに膨らみ、対GDPの家計負債比率は78%と最近3年間で15%も上昇した。タイ中央銀行のプラサーン総裁は「家計債務の急拡大は最大の懸念材料」とみている。【8月20日 日経】
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【進まない国民的和解】
経済面で難しい舵取りを迫られているインラック政権ですが、政治面での課題は何といってもタクシン派・反タクシン派の国民的和解(あるいは、一部タクシン支持派にとっては、タクシン元首相の帰国)です。
今月初旬には、与党タイ貢献党議員が国会に提出した恩赦法案が国外逃亡中のタクシン元首相の帰国実現を目指すものとして、反タクシン派が反発を強めてデモを行い、政府側も首都バンコクなどに治安維持法を適用して警備態勢を強化するなど、緊迫した状況もありました。
結局、大きな混乱には至らず、9日には治安維持法解除が政府決定されています。
しかし、国民的和解の方はあまり進展がないようです。
****反タクシン派は不参加 「政治改革会議」初会合 タイ****
タクシン元首相支持派と反タクシン派の政治対立が続いているタイで、インラック首相は25日、対立解消に向けて政党や政治運動組織、有識者らが意見を交換する「政治改革会議」の初会合を首相府で開いた。
野党・民主党首のアピシット前首相や、反タクシン派の民主主義市民連合(PAD)幹部は「恩赦法成立に向けて利用されるだけだ」として欠席。反タクシン派の不参加で、首相の狙いは不発に終わりそうだ。(バンコク)【8月26日 朝日】
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大衆迎合的な選挙目当ての施策と言われるような経済問題も深刻な政治対立に根差しており、国民和解が進展しない限り経済を含めたタイ社会の再出発は困難です。