(アメリカ海軍のミサイル駆逐艦「スタレット」から発射されるトマホーク “flickr”より By U.S. Department of Defense... http://www.flickr.com/photos/39955793@N07/4733736414/in/photolist-8diCV5-8dnpUq-eCjjEm-8dnpZj-dnYbiP-9kuPtA-bm8A9V-aFacaT-a4WKYg-9QPqW2-dbXkUf-d3JD2b-92u2ts-aFe1ny-aFacix-afzMdK-a8XCiS-e461vS-e3ZhGM-8RCJXs-duTUWs-86DdVG-duNkp2-duTVFW-aFacdV-8MaBgn-eMj2me-eRhDaA-eRhCWC-e6h88u-9rD1Y1-eykK2Q-eQD8PG-eMj2Gv-ez9nbZ-ez9mJn-eQoAxV-eykJZy-eMLoSB-eQtcPV-eQBGxm-eQr4xk-eQqgep-eQtiQ2-eQF3uA-eQtVwe-eQBCz1-eQBj7J-eQqTB8-eQu7Ei-eQufHF)
【化学兵器による大量殺害は「倫理への冒涜」】
シリアの化学兵器使用疑惑によるアメリカ・イギリス・フランスなどの懲罰攻撃が、早ければ明日29日にも実施される情勢となっています。
ただ、イギリスが国連安全保障理事会に「アサド政権による化学兵器使用」を非難する決議案を提出するとしていますので、その絡みで実施が遅れることもありそうです。
****シリア空爆、不可避の情勢=求められる説明責任****
シリアの化学兵器使用疑惑をめぐり、米英仏3国は28日までに、アサド政権側による行為とほぼ断定した。
化学兵器による大量殺害は「倫理への冒涜(ぼうとく)」(ケリー米国務長官)と見なす立場から、空爆を含む強い対応策を取るのは不可避となりつつある。
空爆開始のタイミングをめぐっては、米メディアが「早ければ29日」と報道。英国では同日、シリア情勢を討議するため議会が緊急招集されており、この日が大きなヤマ場となりそうだ。
シリアへの対応策をめぐっては米英仏に加え、反体制派に活動拠点を提供するトルコや、湾岸のサウジアラビア、カタールなどが軍事介入を含む厳しい措置を取るべきだと訴えている。
ただ、アサド政権は疑惑を一貫して否定。AFP通信によると、アサド政権のジャファリ国連大使は28日、「軍事介入を招くため、反体制派が化学兵器を使用した」との主張を展開した。同政権を支援してきたロシアやイランなども反体制派の責任を主張し、欧米側の姿勢を繰り返し批判している。
米国は疑惑をめぐり、情報機関がまとめた「新たな情報」を週内に公表する方針で、ここでどれだけ説得力のある証拠を示せるかが焦点となる。2003年のイラク戦争で大量破壊兵器保有疑惑を主張しながら、結局証明できなかったという「前科」があるだけに、なおさら慎重な説明が求められる。【8月28日 時事】
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“倫理への冒涜”ということに関して言えば、1980年代のイラン・イラク戦争中、イラクが化学兵器で報復する可能性をアメリカは認識していながら、アメリカ政府は“見て見ぬふりをした”という過去もあります。
****イ・イ戦争での化学兵器、米国「見て見ぬふり」 機密解除文書****
・・・1988年4月、バスラのあるファウ半島でイラク軍は化学兵器の使用を含めた攻撃をイラン軍に仕掛けた。CIAによると、化学兵器は4回にわたって使用され、毎回数百から数千のイラン軍兵士が殺害された。
当時、在イラク米大使館付武官としてバグダッドに駐在していたリック・フランコーナ元空軍大佐は、「神経ガスを使用する意図をイラクがわれわれに告げることはなかった。(しかし、)われわれはすでに知っていたから、その必要もなかった」と当時を振り返った。
88年3月、フセイン政権は自国北部のクルド人自治区ハラブジャに対しても化学兵器を使用し、住民5000人を殺害している。【8月27日 AFP】
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この類の“豹変ぶり”はよくある話なので、ここではこれ以上深入りはやめましょう。
今回の攻撃は巡航ミサイル「トマホーク」などを使用した、2~3日程度の限定艇的な作戦となることが想定されています。
アメリカなどは、「問題は化学兵器だ。化学兵器使用は間違っており、何もせずに見過ごすべきでない」(イギリス・キャメロン首相)と、あくまでも非人道的化学兵器使用に対する懲罰ということで、「アサド政権の崩壊を意図しているものではない」(アメリカ・カーニー米大統領報道官)、「中東の戦争に深入りするつもりはない」(イギリス・キャメロン首相)など、政権転覆を目指すシリア内戦への本格的軍事介入(地上軍派遣など)へ引きずり込まれることは避けたい意向です。
****シリア:米英艦船が近海に集結 限定爆撃へ態勢増強****
米軍はオバマ大統領が攻撃の指令を出せば、英軍とともに地中海に配備しているミサイル駆逐艦などから巡航ミサイルでシリアの軍や政府の拠点を限定的に爆撃するとみられている。米メディアは早ければ29日にも攻撃を開始すると報じており、シリア近海には米英両海軍の艦船が集結している模様だ。
米海軍第6艦隊はイタリアのガエータ基地を拠点とし、地中海ににらみをきかせている。今回のシリア情勢の緊迫化に合わせ、米海軍は巡航ミサイル「トマホーク」を発射できる駆逐艦を3隻態勢から4隻態勢に増強。駆逐艦は地中海の東端にあたるシリアの方向に近づいているという。一方、シリアの地中海側の都市タルトスには、アサド政権を支援するロシアの海軍基地があり、地中海でにらみ合う形になる。
米海軍によると、トマホークは最大射程が約2500キロで、標的に命中する精度が高いことで知られる。駆逐艦のほか、米英両海軍の潜水艦からも発射される可能性がある。
複数の米メディアは、標的とする施設の周辺や路上でシリア市民が巻き添えとならないように攻撃は夜間に行われる可能性が高いとの見通しを伝えている。また、米NBCテレビは、巡航ミサイルによる攻撃は3日間行われ、国防総省はその3日間で攻撃の有効性や攻撃に失敗した標的などの見極めができるとの政府高官の話を報じた。【8月28日 毎日】
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人道重視路線のフランス・オランド大統領も積極的で、原子力空母「シャルルドゴール」のシリア近海派遣の可能性も報じられています。また、フランス軍はアラブ首長国連邦やアフリカ東部ジブチにも戦闘機を展開しており、巡航ミサイルを積載できる潜水艦も保持しているとのことです。【8月28日 毎日より】
もちろん、人道主義だけでなく、この地域の自国権益も関係した話でしょうが。
【指揮官が独自の判断で攻撃を実施した可能性も】
米英仏各国は「アサド政権側の犯行に間違いない」と断定しています。
シリア・ムアッレム外相は27日の記者会見で、「自国民に対して大量破壊兵器を使う国は、世界中どこにもない」と述べ、使用疑惑を改めて否定したとのことですが、「アサド政権ならやるかも・・・」というのが外部の見方です。
ただ、軍事的優勢に立っているアサド政権側が、国連の調査団が入っている時期に化学兵器を使用することへの素朴な疑念については、8月23日「どうしてこの時期に? シリアの化学兵器使用問題とエジプトのムバラク氏保釈」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130823)で取り上げました。
シリア・アサド政権側は、「証拠を見せろと彼らに言いたい」この成り行きを強く批判しています。
****「軍事介入あれば自己防衛」、シリア外相が欧米けん制****
内戦状態にあるシリアのワリード・ムアレム外相は27日、首都ダマスカスで記者会見を行い、欧米諸国による軍事介入が実行された場合、シリアは自らを防衛すると語った。またそうした軍事介入は、イスラエルと国際テロ組織アルカイダを利することになるだろうとの見解を示した。(中略)
一方、ダマスカス周辺でアサド政権が化学兵器を使用した疑いが持たれている問題については、「戦争をあおる太鼓の音が周囲で聞こえる。(欧米諸国が)シリアに対する攻撃を仕掛けたいのならば、化学兵器の使用という口実はまったく真実ではない。証拠を見せろと彼らに言いたい」と強く反論した。(後略)【8月27日 AFP】
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現在報じられている範囲で、アサド政権による犯行を裏付けるのは以下のような報道です。
****化学兵器の使用ただす電話=シリア当局者が現場部隊に―米誌****
米誌フォーリン・ポリシー(電子版)は27日、シリアで大規模な化学兵器攻撃が起きたとされる21日にシリア国防省当局者と政府軍の化学戦部隊の指揮官の間で交わされた電話の通話を米当局が傍受していたと報じた。米当局は通話について、シリア政府軍が化学兵器を使用した主な証拠と見なしているという。
同誌は「攻撃の数時間後、当局者がうろたえた様子で指揮官と電話でやりとりし、神経ガスを使った襲撃について問いただした」と伝えている。
ただ、神経ガスの痕跡を含んだ土壌や被害者の血液といった証拠を米情報当局は得ていないと同誌は指摘。また、傍受した通話内容から、指揮官が独自の判断で攻撃を実施した可能性もあるとする米情報当局者の見方を紹介し、アサド政権の責任の程度に関し疑問が生じていると伝えた。【8月28日 時事】
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アサド政権中枢が知らない間に、現場の指揮官が独断で化学兵器を使用した・・・ということでしょうか。
もしそうなら、アサド政権としては当該指揮官を軍法会議にかけるなりで、政権中枢の関与を否定することも可能ですが、メンツや軍との関係など内部事情でそういう訳にもいかないのでしょうか。
いずれにしても、アメリカは情報機関がまとめた新たな情報を週内に公表する方針とのことですので、その発表が待たれます。
なお、国連の調査団の報告には時間がかかる(事務総長によれば調査完了までに4日必要)と見られており、完全に無視された形となっています。
【「米国の大統領の言葉が真剣に受け止められなくなる」】
今回、アメリカ・オバマ政権がシリア攻撃に踏み切ろうとしているのは、ここで決断しないとアメリカの威信にかかわるとの判断があるとされています。
****シリアの化学兵器使用、断定 「米国軽視」に強い懸念****
■「決議なし」 軍事介入具体策も
オバマ米政権が化学兵器使用疑惑をめぐり、シリアのアサド政権への批判を強めた背景には、米国の外交上の影響力が低下することへの懸念がある。
オバマ政権が「レッドライン(越えられない一線)」としてきた化学兵器使用を見過ごせば、今後、米国の主張が軽視される風潮を生みかねないからだ。
一方では、ロシアの反対や米国がシリア内戦に一層巻き込まれるとの懸念など軍事介入への障害も残っている。
◆戦況変えられず
米国がアサド政権による化学兵器使用を検討するのは、今回が2度目だ。米政府は6月の段階でアサド政権が3~5月にかけて化学兵器を使ったと断定し、反体制派への武器供与を決めた。しかし米国の支援は現在もアサド政権が優位な戦況を覆せていない。
今回、米国が弱い態度しか示せなければ「米国の大統領の言葉が真剣に受け止められなくなる」(共和党のマケイン上院議員)恐れがある。ケリー国務長官が化学兵器の使用の「責任を取らせる」と強調したのは、こうした不安を払拭する狙いがある。
しかし、内戦の戦況を好転させるほどの軍事介入には障害も多い。アサド政権の後ろ盾であるロシアはアサド政権による化学兵器使用自体を否定しており、安保理で軍事介入を容認する決議に協力する可能性は低い。
またオバマ大統領自身も性急な判断の結果、「非常に費用がかさむ、難しい介入になってしまう」ことに懸念を示してきた。(後略)【8月28日 産経】
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【国民の支持はたったの9%】
アメリカ国内におけては、シリアへの軍事介入への国民的合意は得られていません。
オバマ政権としては、アメリカの有言実行を示しつつ、深入りは避けるという対応が求められています。
****米軍史上、最も不人気な戦争が始まる?****
シリア政権による化学兵器の使用で軍事介入を検討するアメリカだが、国民の支持はたったの9%
ジョン・ケリー国務長官は混乱が続くシリア情勢について、化学兵器の使用が行われたと断定する声明を26日に読み上げた。さらにはアサド政権による攻撃の可能性が高いとの見方を強め、軍事介入についても検討を進めているという。
だが、アメリカ国民の反応は冷ややかだ。ロイターと世論調査会社Ipsosが行った調査によれば、シリア介入に賛成する国民は9%で、反対は60%にも上った。
世論の反対は強く、この数字が劇的に変わりでもしなければ米軍は、かつてないほど国民の支持が得られない戦争に突入することになる。
2011年のリビアへの米軍介入にはアメリカ人の47%が賛成していたが、著名な政治ブログ「トーキング・ポインツ・メモ」は当時、「過去30年間で最も支持が得られないアメリカの軍事行動」と指摘した。イラク戦争(03年)の開戦当時の支持率は76%、アフガニスタン紛争(01年)の支持率は90%だった。
過去をさかのぼって見てみると、NATO(北大西洋条約機構)が軍事介入したコソボ紛争(99年)直前の世論調査では国民の支持は46%だったが、当時は「生ぬるい」と評された。
さらに父ジョージ・ブッシュ大統領によるソマリア派兵「希望の回復」作戦(92年)では、81%が大統領は「正しい行動をしている」と答え、グレナダ侵攻(83年)は開戦当時、53%の国民が支持していた。イラク戦争やベトナム戦争への反対が最も高まったときでさえ、支持率は30%前後にとどまっていた。
もちろん、いざとなればアメリカ人の気持にも変化が訪れるだろう。実際に米軍による攻撃が始まり、国民は愛国心から軍事行動を支持すべきだとの考えが広がれば、シリア介入を後押しする声も高まると思われる。
イラク戦争当時も戦争を支持する意見は、介入までの数カ月にわたって外交関係が壊れるにつれ、52〜59%だったものが70%ほどに上昇している。だが、それでもシリア介入が現実的になった時点でのこの数字は、あまりに低いと言わざるを得ない。
シリアの場合、たとえ介入への支持が5倍になったとしても、その数字は45%にしかならない。決して支持が高かったとは言えないリビア介入と同程度だ。ドナルド・ラムズフェルド元国防長官はかつて、「君たちは国民とともに戦争に行くんだ」と語った。だが、今回はその言葉が当てはまらないかもしれない。【8月27日 Newsweek】
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