
(7月13日の襲撃で犠牲となった国連アフリカ連合ダルフール派遣団(UNAMID)のメンバーの棺 “flickr”より UNAMID http://www.flickr.com/photos/58538810@N03/9293979850/in/photolist-fah5pU-frtusp-fah5uo-f3j37o-f1HpVP-f2PpKh-f2z9UZ-f2z9TP-f1XxWJ-f3j2NQ)
【治安部隊内部の「意見の相違」】
スーダン西部のダルフールでは、非アラブ系農耕部族とアラブ系牧畜部族の対立を背景にして、国連が「世界最悪の人道危機」とも呼んだダルフール紛争が続いていますが、2013年2月10日、アラブ系のスーダン政府と非アラブ系反政府勢力「正義と平等運動」が、カタールの首都ドーハで停戦協定に調印しています。
しかしながら、ダルフールの治安状況が最近悪化していることについて、7月7日ブログ「ナイジェリア「ボコ・ハラム」によるテロ 牛泥棒による衝突 スーダン・ダルフールの今」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130707)で取り上げました。
****治安悪化のスーダン・ダルフール、州都の市街戦で住民困窮****
スーダン・ダルフール地方で、都市部の治安悪化により、貧困層のみならず富裕層の生活も脅かされる事態となっている。
スーダン第2の都市である南ダルフール州の州都ニャラでは3日~7日、市内で戦闘が発生し、暴動で市場が略奪・放火され、約20の店舗が破壊された。(中略)
貧困が深刻なダルフールでは、暴動被害に遭ったマルジャ市場に店を持つモハメドさんら商人たちは、エリート層の一員だった。しかし、そんな彼らも今は全てを失ってしまった。灰と化した市場で、店主たちは自分の店があった場所に座り込み、互いに同情し合っていた。
■州都の戦闘、原因は治安部隊の内紛
国営メディアが伝えた州当局の説明によれば、約30人が死傷した今回のニャラ市内での戦闘の原因は、治安部隊内部の「意見の相違」だったという。(中略)
ニャラ市での戦闘は、治安部隊が地元で有名な無法者1人を殺害したとされる事件がきっかけで始まった。殺害された人物は、治安部隊「中央警察予備隊(Central Reserve Police)」に所属していた。(中略)
■背景に政府系民兵組織の影、無力な警察
ダルフールで活動する中央警察予備隊の隊員たちは、2003年にアラブ系が支配するスーダン政府に非アラブ系武装勢力が反旗を翻したダルフール紛争で、反政府勢力を支持しているとみなした少数民族に対して数々の残虐行為を行い、世界を震撼(しんかん)させた民兵組織「ジャンジャウィード(Janjaweed)」の元構成員だ。ジャンジャウィードはスーダン政府の支援を受けていた。
ダルフールの治安を脅かす問題の内訳ではこのところ、部族間の抗争や誘拐、自動車強奪などの犯罪が増加傾向にあり、その多くで、政府とつながりのある民兵組織や治安部隊の関与が疑われている。
ダルフール地方を統括する「ダルフール地域機構」のエルティガニ・シーシ議長は6月、部族系民兵組織の暴力行為に対して治安当局が「力を誇示する」必要があると述べた。だが、少なくともマルジャ市場の略奪では、地元警察には武装集団に対抗する力はないということが証明された。ある店主の証言によれば、戦闘が激化すると市場を警備していた警察官らは撤退してしまい、最寄りの警察署も放火されたという。【7月14日 AFP】
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「世界最悪の人道危機」ダルフール紛争の中心にあった民兵組織「ジャンジャウィード」の元構成員が“中央警察予備隊”に変身しているということでは、治安悪化も想像に難くないところです。
国連アフリカ連合ダルフール派遣団(UNAMID)も攻撃対象となり犠牲者を出しています。
潘基文(パン・キムン)国連事務総長はこの攻撃に激怒しており、3週間で3度目となったUNAMIDへの攻撃を非難し、攻撃を行った者たちに裁きを受けさせるためスーダン政府が迅速に行動することを期待していると報じられています。
****スーダンの平和維持活動要員、武装集団に襲われ7人死亡****
スーダン・ダルフール(Darfur)地方で13日、国連アフリカ連合ダルフール派遣団(UNAMID)の車列が待ち伏せ攻撃を受け、タンザニア兵7人が死亡、17人が負傷した。UNAMIDが明らかにした。UNAMIDの5年間の活動の中で最悪の惨事となった。
待ち伏せ攻撃があったのは、南ダルフール州の州都ニャラの北にあるマナワシの平和維持部隊の基地の近く。UNAMIDによると攻撃現場の東約25キロにはUNAMIDの別の基地もある。スーダン西部の治安の悪化がさらに浮き彫りとなった。(後略)【7月14日 AFP】
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【変容し、複雑化する紛争 農地や資源をめぐる部族間のあらそい】
国連は、こうしたダルフールの治安悪化を危惧しています。
紛争の性格も、従来の“非アラブ系農耕部族とアラブ系牧畜部族の対立”という構図から、“農地や資源をめぐる部族間のあらそい”に変質・複雑化しているとのことです。
****ダルフール紛争開始から10年 増え続ける避難民***
スーダン西部のダルフール地方では新たな衝突が発生し、今年に入ってからすでに25万人が家を離れ避難を余儀なくされました。
開始から10年を迎えるダルフール紛争は最近になってまた激化しました。理由は、農地や資源をめぐる部族間のあらそいです。そのため、ここ数年で最大の数の人が避難をせざるを得なくなり、国連WFPの支援の必要性がますます高まっています。
国連WFPスーダン事務所長のアドナン・カーンは、「現在の状況はダルフール地方の食糧状況を脅かすものであり、非常に懸念しています。通常であれば、今は苗を植えたり農作業に精を出したりする時期なのですが、農家の人たちはそうすることができずにいます。村から避難し、隣国チャドの難民キャンプにまで逃げた人も大勢いるのです。」と述べました。
ダルフールの紛争の性質は変容しつつあり、ますます複雑化しています。ダルフール地方ほぼ全域で以前よりも多くのグループが紛争に巻き込まれています。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR) によれば、スーダン国内に避難している25万人以外に、およそ3万人のスーダン人がこの2,3か月間で国境を越え、隣国チャドに逃れました。(後略)【7月23日 国連WFPニュース 】
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前出の7月に起きたニャラでの戦闘は、“治安部隊内部の「意見の相違」”と評されていますが、政府・治安部隊による事態の制御ができなくなっている状況もうかがえます。
****ダルフール部族間紛争、100人が死亡 アラブ系同士****
スーダン西部ダルフール地方で10日、アラブ系部族同士の衝突があり、約100人が死亡した。AFP通信が伝えた。
衝突があったのは、東ダルフール州のアディラ近郊。部族間の戦闘が今年に入り激化しており、5カ月間で30万人が家を追われているという。
ダルフール地方では、2003年に黒人住民がアラブ系の中央政府に蜂起して紛争が泥沼化した。政府が支援するアラブ系民兵による住民の殺害も相次ぐ。死者は30万人に上り、最悪の人道危機と呼ばれる。
近年は反政府勢力が細かく分裂しているほか、アラブ系部族間での衝突も相次いでいる。【8月11日 朝日】
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今回の衝突の原因はよくわかりませんが、“今年1月以降は、金鉱の支配をめぐるアラブ系部族同士の衝突が相次ぎ、多数の死傷者が出ている。”【8月11日 共同】とも報じられています。
****ダルフールで部族間の衝突、100人死亡 スーダン****
治安が悪化しているスーダン・ダルフール地方で11日、100人が死亡した前日の暴動に続き、対立関係にあるアラブ系同士の部族が再び衝突し、一帯は混乱状態に陥っている。
10日に始まった戦闘は、リゼイガト人とマアリア人によるもので、ダルフール南東部のアディラ地域で起きた。
匿名で取材に答えたあるリゼイガト人は、11日に入って「(衝突は)多くの地域に広がっている」と語った。また、マアリア人の住民も戦闘が起きているのは確かだと語り、ダルフール最大の都市ニャラのある医師はAFPに対し、負傷したマアリア人が搬送されて来ていると語った。
正確な死者数は定かでないがリゼイガトの人々は、10日の戦闘で味方側に30人、マアリア人側に70人の死者が出たと話している。
今年に入り、ダルフール地方ではさまざまな部族間で衝突や戦闘が相次いでいる。国連アフリカ連合ダルフール派遣団(UNAMID)によれば、5月までに推計30万人が居住地からの避難を余儀なくされている。
ただし、これまでそうした衝突が起きていたのは主にダルフール北部と西部で、東部では比較的、暴動はなかった。ダルフール地方では約10年前に、アラブ系のエリートたちが国の権力と富を独占していると考える非アラブ系の民族が反乱を開始した。
観測筋は、最近のダルフール情勢について、ここ10年の衝突における力関係の変化を反映したものであると指摘。またスーダン政府と軍に支援されていたアラブ系民兵組織「ジャンジャウィード(Janjaweed)」に対する政府の制御が効かなくなっていると付け加えた。これまで部族間の衝突は、土地や水、鉱物といった資源をめぐって起こってきた。
状況の変化を受け、国連安全保障理事会は前月、全力で衝突の抑止に務めていないとの批判を受けているUNAMIDについての見直しを求めた。【8月12日 AFP】
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【国連PKOの見直し】
「国連アフリカ連合ダルフール派遣団(UNAMID)」は国連とアフリカ連合が共同で行っている平和維持活動で、その経緯については、
“ダルフール紛争においては2004年よりアフリカ連合による平和維持軍であるアフリカ連合ダルフール派遣団(AMIS)が派遣されていた。AMISは7,000名以上の規模となったが、実効的な成果は少なかった。
2006年には国際連合安全保障理事会決議1706により、国際連合スーダン派遣団(UNMIS)をダルフールにも展開することが決議されたが、スーダンの反対により展開はなされなかった。
2007年には資金面の問題によりAMISの活動が困難になりつつあり、アフリカ連合は国際社会に支援を求めた。これに応えて、2007年7月31日に安保理決議1769が採択され、国連とアフリカ連合合同の平和維持活動・国際連合アフリカ連合ダルフール派遣団(UNAMID)が編制されることとなった。”【ウィキペディア】とのことです。
アフリカ中部コンゴ民主共和国で国連平和維持活動(PKO)を展開している国連コンゴ安定化派遣団は「武装解除のために、武力行使を含む必要なあらゆる措置をとる」と、ソマリア以来の“平和の強制執行”を行うことが決定しています。
ダルフールにおいても、政府によるジャンジャウィード制御が効かず、部族間の衝突が激化するような事態であれば、国連PKOによる同様の措置が求められます。
ただ、スーダン・バシル大統領はそうした国際社会による介入を認めないのでは・・・とも推察されます。
その間にも、犠牲者・避難民が増大し続けます。