(“グルジア・南オセチア自治州の周辺では、ロシア側の設ける鉄条網やフェンスによって「国境」の画定が進む。この破壊された住居の敷地は2分されていた”(遠藤良介撮影)【8月9日 産経】)
【ロシアとの関係改善を目指すイワニシビリ首相】
ロシアと同じ旧ソ連のグルジアが2008年8月に武力衝突を起こしてから8月8日で5年が経過しました。
この間、2012年10月のグルジア議会選挙で、ロシアとの関係改善を掲げる野党連合「グルジアの夢」が勝利し、イワニシビリ代表が首相に就任。
グルジアの政治権力はグルジア紛争を主導した反ロシアのサーカシビリ大統領から、ロシアとの関係改善を目指すイワニシビリ首相へ移行しています。
当然ながら、サーカシビリ大統領とイワニシビリ首相の間では、激しい権力闘争もあるようです。
****グルジア:大統領派幹部を次々摘発 首相派と対立深まる****
旧ソ連のグルジアで、サーカシビリ大統領派と、昨秋の議会選で勝利した反大統領のイワニシビリ現首相派の対立が深まっている。検察当局は、大統領派幹部を次々と摘発しており、欧米諸国は懸念を示している。
グルジア検察は21日、サーカシビリ派政党「統一国民運動」の書記長のメラビシビリ前首相を汚職容疑で逮捕した。昨年の議会選の際に社会保障基金520万ラリ(約3億円)を流用したほか、不動産を横領した疑い。大統領派の元保健・労働・社会保障相も基金を流用した疑いで逮捕された。
サーカシビリ大統領は逮捕について「政治的な決定でないという幻想を抱くことはできない」と述べ、現首相側が検察当局へ圧力をかけたと主張。イワニシビリ首相は「政治的な迫害ではない」と反論した。欧米諸国は昨秋以来続く、大統領派の元閣僚や軍高官の逮捕に懸念を示している。
グルジアではサーカシビリ氏が退任する今年10月に大統領選を行う予定。選挙後に施行する憲法改正で大統領職は象徴的な役割となるが、選挙はサーカシビリ、イワニシビリ両氏の権力争いとして注目されている。
首相が率いる与党連合「グルジアの夢」が今月中旬、マルグベラシビリ第1副首相・教育科学相を大統領候補として擁立するなど、選挙をめぐる動きも本格化している。【5月25日 毎日】
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一方、1月23日にロシアのプーチン大統領がモスクワ近郊で、グルジア正教会の最高指導者イリヤ2世(総主教)と会談、翌24日には、スイスで開かれた世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に出席したイワニシビリ首相が「ロシアとの関係を復興するために最善を尽くす」と言明し、メドベージェフ・ロシア首相と接触するなど、イワニシビリ首相のもとでロシア・グルジアの関係改善へ向けた交流・交渉が行われてきました。
そうした関係改善に向けた取り組みの成果として、グルジアの主要産品であるワインについて、5月にロシアが輸入再開を決定しました。
****ロシア、グルジアワイン輸入へ 7年ぶり、関係改善受け****
ロシアが、7年ぶりに旧ソ連のグルジアからワインを輸入する。2008年にロシアと軍事衝突したグルジアでは昨年の総選挙で野党が勝利。ロシアとの関係改善が進んでいることが背景にある。
21日のイタル・タス通信によると、ロシアの消費者保護当局が計90種類のワインなどの輸入を許可した。1カ月以内にも店頭に並ぶと見られている。
旧ソ連時代から広く親しまれていたグルジアワインの輸入をロシアが禁じたのは06年4月。衛生上の問題を理由にしていたが、親米反ロ路線を進めたサアカシュビリ大統領に対する事実上の制裁だった。欧州連合(EU)などはグルジアワインの輸入を続けていた。
昨年の総選挙後、ロシアとの関係改善を目指すイワニシビリ首相のもとで輸入再開に向けた交渉が進んでいた。【5月23日 朝日】
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【「今後10年のうちに問題が解決できるという幻想を抱いていない」】
しかしながら、ロシアとの関係改善を重視するイワニシビリ首相も親欧米路線を捨てたわけではなく、グルジア紛争の原因であり、ロシア・グルジア関係の根本問題である南オセチアとアブハジアの独立を容認している訳でもありませんので、両国関係の根本的改善は容易ではありません。
****グルジア紛争5年:ロシアとの関係改善遠く****
旧ソ連のロシアとグルジアが2008年8月に武力衝突を起こしてから8日で5年となる。国交を断絶した両国は、指導者が代わったこともあって、関係修復に向けた動きを見せ始めている。
だがグルジアからの独立承認を求める南オセチアとアブハジアの扱いを巡る両国の立場はかけ離れており、本格的な関係改善には、ほど遠い状況だ。
グルジア紛争時の大統領だったメドベージェフ露首相は4日放映されたインタビューで、グルジアのサーカシビリ大統領による南オセチアへの攻撃指示が紛争の引き金になった点を指摘。「(グルジアの)一部指導者の決定的な過ちだった。国民同士は敵でない」と強調した。昨秋の議会選で勝利し実権を握ったグルジアのイワニシビリ首相が対露関係の改善に取り組んでいることも評価した。
イワニシビリ首相も7月末、将来的にロシアを訪れ首脳会談を実現させたい意向を改めて表明した。
ロシアはグルジアとの関係が悪化した06年から同国産のワイン輸入を禁じていたが、イワニシビリ内閣の発足を受け、7月から流通を再開させた。
グルジア政府も、ロシア南西部ソチで14年2月に開く冬季五輪への選手団の派遣を確約した。両国は昨年末から高官協議を開いており、直行便の運航や査証簡素化なども検討していく方針だ。
一方、ロシアはグルジアとの国交回復について、「現実を受け入れることが条件」(メドベージェフ首相)と主張し、南オセチアとアブハジアの独立承認を要求。
グルジア側が、これを受け入れる余地はなく、政府首脳部も「今後10年のうちに問題が解決できるという幻想を抱いていない」(アラサニア国防相)と厳しい認識を示している。【8月6日 毎日】
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南オセチア、アブハジアにはロシアが軍事的にも関与を強めており、南オセチアなどの独立承認を撤回するつもりは全くありません。
****基地建設、959億円支援****
紛争後、ロシアは独立を承認した南オセチア、アブハジアの両地域に軍の基地を建設し、それぞれに数千人規模の部隊が駐留。南オセチアには08~12年で328億ルーブル(約959億円)もの「復興資金」がロシアから投じられ、政権の傀儡(かいらい)化も進んでいる。
12年4月の「大統領選」では、ロシアとの併合を訴えた旧ソ連国家保安委員会(KGB)の元地元幹部、チビロフ氏が「当選」した。【8月9日 産経】
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グルジアの再統合相は、南オセチアの現状について、「ロシアは今、南オセチア周縁に鉄条網を張り「占領ライン」を引いている。(南オセチアの主要民族)オセット人が外に出るのを阻止するためのもので『ベルリンの壁』にも似ていよう」と語っています。
また、「“戦略的忍耐”をもって、欧州接近と民主主義の路線を歩まなければならない」とも語っています。
****グルジア再統合相インタビュー 露との領土問題「戦略的忍耐」で****
グルジアの領土保全を担当するザカレイシビリ再統合相(55)が9日までに産経新聞のインタビューに応じ、ロシアが2008年のグルジア紛争後に独立を承認した少数民族地域、南オセチア自治州とアブハジア自治共和国をめぐる状況について語った。発言要旨は次の通り。
ロシアと他の数カ国が2地域の独立を承認したことは紛争の重大な結果だ。ただ、両地域が存立するにはロシアにつくかグルジアにつくかの二者択一しかない。グルジアがより民主的で経済的にも発展し、魅力のある国になれば、状況は変わると確信している。
特に、他のグルジア領に囲まれた南オセチアはカフカス山脈を貫くトンネルによってしか外界と接触できず、(地理的にも)不自然な存在というほかない。しかも、そのトンネルは欧州連合(EU)ではなく、ロシアで最も問題の多い北カフカス地方につながっているのだ。
ロシアは今、南オセチア周縁に鉄条網を張り「占領ライン」を引いている。(南オセチアの主要民族)オセット人が外に出るのを阻止するためのもので『ベルリンの壁』にも似ていよう。グルジアには汚職がなく、医療や教育の水準も高いことにオセット人は気づき始めている。私たちは、鉄条網を通り抜けてこちら側に来る国民を拒まない。
南オセチアの州都ツヒンバリから(ロシアの最寄りの都市)ウラジカフカスまで車で丸1日かかるが、グルジアの首都トビリシまでは40分。占領された領土(北方領土)を海に囲まれている日本より私たちの方が(統合政策は)容易だ。「戦略的忍耐」をもって、欧州接近と民主主義の路線を歩まなければならない。
全く快くないとはいえロシアは隣人であり、対露関係は改善せねばならない。ただ、ロシアも南オセチアとアブハジアの独立承認でどれだけ損をしているかを考えた方がよい。ロシアはまた、グルジアがいずれはEUと北大西洋条約機構(NATO)に加盟するということを理解すべきだ。その時、グルジアがロシアに友好的でその利益を考慮する国であるか否かは極めて重要な問題だろう。【8月10日 産経】
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『ベルリンの壁』云々はあくまでもグルジア側の見解ですが、「戦略的忍耐」の必要性は指摘のとおりでしょう。