(憲法を根拠に人権擁護を訴える「新公民運動」を提唱し、拘束されている法学者・許志永氏 “flickr”より By Once upon a time http://www.flickr.com/photos/88925006@N00/9309854892/in/photolist-fbFrvw-fnxjmL-fqwzia-fhR9oJ-fpSMuD-9xjiwa)
【治安当局を動かすネット世論】
中国では耳を疑うような事件・出来事には事欠きませんが、最近目にした話題2件
****警官が赤ちゃんを路上に叩き付け重傷負わせる、中国****
中国河南省中部の林州市で先月、警官が生後7か月の女の赤ちゃんを両親から取り上げ、路上に叩き付けて頭蓋骨骨折の重傷を負わせた。当局はこの警官の男を取り調べている。国営紙の法制晩報が18日伝えた。
同紙によると、男はある夜に友人らと酒を飲み、その後カラオケバーに向かう途中で、赤ちゃんを抱いている男性と、そばにいる男性の妻を見かけた。この赤ちゃんがただの人形かどうかをめぐって友人らと賭けをした男は、赤ちゃんの顔を触り、その後父親から赤ちゃんを奪い取ると、高く持ち上げて勢いよく地面に叩き付けたという。
赤ちゃんは頭蓋骨を3か所骨折し、病院に搬送された。地元当局によると、今後北京(Beijing)で精密検査を受ける予定。
騒ぎを起こした当時に非番だった男は、紀律違反で15日間の禁足処分となったものの、それ以上の処罰は受けなかった。
17日に事の一部始終が中国のソーシャルメディアで激しい反発を引き起こすと、当局は対応を確約。林州市当局は「情状酌量をせず、法と紀律に従ってこの件に対処する」と明言した。
中国では先月、駐車しようとしていた男が、近くにいた子連れの母親に腹を立て、当時2歳だった子どもを路上に叩き付ける事件が起きたばかり。数日後に子どもが死亡したことから、中国のネットユーザーの間で怒りと悲しみの声が沸き起こった。【8月18日 AFP】
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****レイプ被害少女に手錠かけ精神科医へ連行 容疑者逮捕までの母の“戦い”****
中国広西チワン族自治区で3月、当時13歳だった女児が婦女暴行の被害に遭い、地元公安当局は今月13日、容疑者の25歳の男を逮捕した。
女児の母親は直後に男の住所を特定し、何度も被害を訴えたが逮捕されず、警察は反対に女児に手錠をかけて精神科医院に連行したという。「男の親類が警察関係者だからだ」とする母親の告発がネットで広まり、国営メディアを巻き込んだ報道の末、ようやく逮捕に至った。
チャットで知り合い
国営新華社通信(電子版)の12日の検証記事などによると、事件が発生したのは3月25日。自治区南部、陸川県に住む13歳の小学6年の女児が、母親と口論の末、家を飛び出した。父親は出稼ぎで長期不在。女児は2月にチャットで知り合ったアルバイトの25歳の男と公園で合流し、近くのホテルへ向かった。
母親が7月8日、自治区の高裁や高検に送ったとされる嘆願書によると、男はホテルで女児の服を強引に脱がせ、「お願い、私はまだ子供。13歳です。放して」と抵抗する女児を暴行。その後は心神喪失状態の女児に食事も与えず、一晩に計5回の暴行を加えたという。
翌日、帰宅した女児のチャットの履歴を見た母親が男の身元を特定。自宅を訪れたところ男は逃走して不在で、父親から「警察に知人がいるので、息子は刑務所に入らない」と言われたほか、男の親類を通じ「1万元(約16万円)を支払う」と示談を持ちかけられた。母親は応じず、3月28日に派出所に訴え出た。
拘束もすぐ保釈
男は4月4日に出頭。陸川県公安局(警察)は身柄を拘束し、10日に逮捕を請求したが、県検察が許諾せず、17日に保釈した。公安局は22日に再度、逮捕を請求したが、やはり許諾されなかった。
母親は29日まで保釈を知らされず激怒。警察は信用できないとして県検察に訴えたが、たらい回しにあった上、逮捕は認められず、村の幹部からも上級機関に直訴しないよう説得された。4月23日には、女児の精神状態が不安定なため警察に助けを求めたところ、「娘は手錠をかけられ精神科医院に連れ去られた」と主張している。
食い違う主張
中華人民共和国刑法第236条は、14歳未満の相手との性交渉は、同意の有無に関わらず「強姦」とみなすと規定。「犯情劣悪」な場合には、死刑を含む厳罰に処すとしている。
だが、今月12日の新華社の記事などによると、男は調べに対し、女児がチャットで「私は大人だ」と言っていたため、14歳未満だとは知らなかったと主張。さらに、「相手が望んだ」性交渉だったと暴行容疑も否認した。
また、県検察は、女児の戸籍は「1999年5月生まれ」だが、小学校の入学証明に「1998年5月生まれ」とあるため、事件当時、女児が14歳未満だったかどうかに疑いがあると指摘。証言の不一致もあり、証拠が不十分だと説明した。
県公安局は、女児を精神科医院に連行したことについて、「家人が病院に連れて行くのを手伝おうとしたところ女児が抵抗したため、他人を傷つけないよう手錠を使用した」と釈明した。
逮捕の“代償”
司法当局の対応に不満を持った母親は、メディアやネットを通じて男の罪状や司法の怠慢を告発。今月に入り、新華社や各紙が相次いで取り上げるようになり、「被害者への手錠の使用は違法」「5回の行為は犯情劣悪だ」などと批判も出始めた。
こうした中、県公安局は「捜査で新たな証拠が得られた」と改めて逮捕を請求。県検察も「逮捕要件を満たす」と許諾し、13日の逮捕となった。ただ、「新たな証拠」の内容は明らかにされていない。
報道やネット世論の圧力が逮捕につながった形だが、その過程では、女児の住所や親類が提供したとされる顔写真、手錠をかけられた写真が出回ることになった。一部には加工されていないものもあり、女児の将来への影響が懸念される。「司法の公正」(嘆願書)を実現するために、女児と母親は大きな代償の支払いを余儀なくされた。【8月17日 msn産経】
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事件そのものは、中国に限らず日本でもありそうなものですが、中国の事件の共通するのは、治安当局が身内・関係者である容疑者の罪を適正に追及せず、ネット世論の高まりに押されて渋々逮捕へ動くというところです。
ただ、事件の概要は省きますが、中国人民解放軍に所属する国民的歌手の“不肖の息子”よる犯罪(障害、集団レイプ)と、やはりネット世論の批判が【8月10日 産経】(http://sankei.jp.msn.com/world/news/130810/chn13081007000001-n1.htm)で報じられていますが、この事件にはもっと“大物”の子弟が関与しているとの噂もあるそうです。
ネット世論にも、そうした政権中枢に迫るような力は期待できないという社会認識もあるようです。
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「富二代」(富裕層の子弟)による一連の事件は中国社会の激しい反応を引き起こしたが、そこには屈折した意識も垣間見える。
北京市に住む中国人の女子大学生は、「たかが歌手の息子が、何をやっても許されるなんておかしい。厳重に罰してほしい」と憤る半面、「もし本当の実力者の子弟による不祥事だったら、隠蔽されても仕方がない」とも話す。
中国の国内メディアは政府の統制を受けており、李氏の子による犯罪情報がここまで詳細に報道されているのは、政府公認とも言える。さきの女子大生が言うように、政権中枢の真の実力者の子弟による犯罪であれば、徹底的に隠密に処理された可能性が高い。少年は、沸騰する世論に対する一種のスケープゴートなのかもしれない。【8月10日 産経】
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【共産党は憲法の上に位置する】
中国が“法治”ではなく“人治”の国であることは、常に指摘されるところですが、法規範を超えた裁量・裁断には、治安当局との関係、経済的地位などが関与してきます。
この問題は、単に社会的な犯罪行為への対応などだけでなく、つきつめると国家の最高法規範である憲法と最高権力機関である共産党の関係にいきつきます。
****中国で台頭する反立憲主義****
クレアモント・マッケナ大学教授のMinxin Peiが、6月9日付WSJの論説で、北京では、共産党を憲法の支配の下に置くことを厳しく拒否する、反立憲主義が台頭しており、それは、新指導部の保守的傾向を示すものである、と指摘しています。
すなわち、中国の外の世界ではほとんど認識されていないが、中国のプロパガンダ機関は、5月半ば以来、立憲支配(constitutional rule)の概念に反対する、激しいキャンペーンを行っている。人民日報、解放軍報などの主要な公式の新聞のほとんどが、立憲支配の概念を、ブルジョワ的で破壊的であるとして、非難する長い記事を掲載している。
中国の文脈では、立憲支配というのは、共産党を既存の憲法の支配のもとに置くという以上のことを意味しないが、そのような控え目な提案でさえ、過激なものとみなされる。党のメッセージは明白である。すなわち、共産党は憲法の上に位置する、ということである。
こうしたキャンペーンを、新しい指導者を喜ばせようとする党職員による官僚的行動に過ぎない、と片づけるのは誤りである。
11月の党総書記就任以来、最も重要な公的演説の一つである、12月4日に行われた1982年憲法の30周年を記念する演説で、習は、「我々は、意識的に立憲主義の原理を守り、立憲主義の精神を促進し、憲法上の任務を果たさなければならない」と言っていた。プロパガンダ機関の中級の役人が、トップからの指示なしで、習の言葉に反するようなことができるとは考えられない。
むしろ、この反自由主義運動は、よく練られた計画の一部であるように見える。5月13日に出されたとされる共産党指令は、次の7つ、すなわち、普遍的価値、報道の自由、市民社会、公民権、歴史上の党の誤り、縁故的資本主義、司法の独立、について議論することを禁止した。これは、習の「中国の夢」の考えを乗っ取って、そのエッセンスを一党支配の継続と解釈するものであるように見える。
自由、および、制限された政府という考えについて、これほど激しく反発することは、それ自体、非常に悪いニュースと解釈すべきである。それが、少なくとも、最高指導部のメンバーたちの中にある、保守的な傾向を反映していることは、ほぼ確実である。党の立憲主義との戦いは、新指導部が求めている方向を示すものである。
今年のはじめ、習は、広東で、ソ連崩壊を振り返る内部向けの演説を行い、ソ連の崩壊は、政治エリートがイデオロギー的信念と個人的勇気を欠いたことが原因である、と言ったと伝えられている。
中国の新指導部は、経済的あるいは行政的改革を、共産党支配を維持することと矛盾しない範囲では許容するかもしれないが、党の政治的独占を危うくするような、如何なるイニシアテブも許さないであろう。
本質的には、これは、新小平主義モデルである。それは、民主主義を拒否しつつ、資本主義を首尾一貫して明確に取り入れた、小平のビジョンと一致している。
新小平主義者にとって、最大の危険は、勝つことのできない戦いをしているということである。小平が今日生きていたとしても、一党支配の永続を確実なものにできたかどうかは疑わしい。中国社会は、今や、経済的繁栄だけではなく、政治的権利や、個人の尊厳を、強く望んでいる。
新小平主義者は、党にとって、事態を悪化させる可能性がある。党が、既存の憲法の実施を通じて一党独裁国家を改革しようという、最も穏健な政治改革へのアプローチを軽蔑し拒否することは、体制はあまりにも自己保身に汲々としているので、変革の可能性は、革命以外にない、という過激な見方を呼び起こす、と論じています。【7月11日 WEDGE】
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【「新公民運動」を支えるネットの発達】
こうした反立憲主義台頭という政治事情を背景に、“習近平 政権が、憲法を根拠に人権擁護を訴える「新公民運動」への弾圧姿勢を強めている”とも報じられています。
****「新公民運動」中国が弾圧、ネットで抗議拡大****
中国の 習近平 ( シージンピン )政権が、憲法を根拠に人権擁護を訴える「新公民運動」への弾圧姿勢を強めている。
中国共産党の一党独裁を揺さぶる横断的な民主化要求に発展する可能性があるためで、当局は同運動を提唱した法学者・許志永氏(40)を7月半ばに拘束するなど、関係者を相次ぎ摘発している。一方、許氏の釈放を求めるインターネット署名は3000人を超え、抗議の声も広がっている。
◆高まる権利意識
許氏の釈放を求める活動を続けるジャーナリストの笑蜀氏(51)によると、習政権が本格始動した今春以降、当局による拘束者は100人を突破。13日には、許氏を支援する人権活動家の孫徳勝氏が、理由を告げられることなく広東省広州の街頭から連行され、所在不明となった。
最高人民検察院(最高検)が6月、治安維持に関する通知を出し、「国家政権の転覆を目的とした違法集会は断固として攻撃する」と宣言。人権活動家らへの拘束や逮捕が加速した。
8月初め、2日間軟禁されたという笑氏は、「当局は許氏を支持する一般市民まで拘束し、分断を図っている。運動の拡大を恐れている証左だ」と指摘する。
笑氏らによると、許氏の釈放を求めるネット上の署名運動に対し、当局は賛同者への脅迫、書き込みの即時削除などを行っているが、笑氏は「妨害にもかかわらず、1か月足らずで3000もの署名が集まるのは驚きだ」と話した。
許氏とともに運動を推進してきた投資家・王功権氏(51)は「改革開放による経済成長で、中間層を中心に権利意識が高まっている。加えて、要求が具体的だからこそ幅広い層の共感を得られる」と支持拡大を分析。格差や腐敗の問題が一向に解決されず、不公平感が広がる一方、ネットの発達で「人々が縦横に重層的につながっている」(王氏)状況が背景にある。【8月17日 読売】
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中国共産党がこれまで同様に社会矛盾を隠蔽し、権利意識の高まり抑え込めるかどうか、あるいはそうした一党支配体制を改革できるかどうか・・・それは、ネットの発達、ネット世論の広がりにかかってかかっているようです。