孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ和平交渉  再開早々、イスラエルの入植活動発表で前途多難

2013-08-14 22:25:57 | パレスチナ

(8月14日 ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ラマラ 釈放されたパレスチナ人受刑者との再会を喜ぶ家族 “flickr”より By activestills http://www.flickr.com/photos/20409489@N00/9507331398/in/photolist-fu8yoS-ftQsdp-ftKMdK-ftTgnX-fuf96L-ftAZza-ftJ1Pd-ftyX7V

アメリカ:中東への影響力と威信をかけた取り組み
7月29日、イスラエルとパレスチナの和平に向けた直接交渉が3年ぶりにワシントンで行われましたが、互いの主張は多くの問題で対立したままで、妥協点が見いだせる可能性が非常に小さいことをすべての報道が一様に伝えています。

****中東和平、双方隔たり 直接交渉、3年ぶり再開****
約3年ぶりとなるイスラエルとパレスチナの和平に向けた直接交渉が29日、ワシントンで再開された。ケリー米国務長官の精力的な仲介で、双方は交渉の席についたが、対立点や課題は山積しており、交渉は難航が予想される。

オバマ大統領に仲介役を一任されたケリー氏は今年3月以降、計6回にわたりイスラエルやパレスチナ自治区を訪れ、ネタニヤフ首相や自治政府のアッバス議長の説得にあたった。

初回の協議にはイスラエルのリブニ法相、パレスチナ側の交渉責任者エラカート氏らが出席し、30日までの日程で今後9カ月間の交渉期間における大まかな作業計画を詰める見通しだ。

イスラエルは今回の交渉に先立ち、パレスチナが交渉再開の条件の一つとしてきたイスラエルの刑務所に収容されているパレスチナ人104人の釈放を決めた。

だが、イスラエルは国境の基礎となる境界の画定や、占領地ヨルダン川西岸でのユダヤ人入植活動凍結の2条件の受け入れについて、依然として拒否している。
ネタニヤフ首相率いる与党リクードは入植者を有力な支持基盤としている上、連立政権内にはパレスチナ国家樹立に反対する勢力もあり、両条件で譲歩すれば政権基盤が揺らぎかねないからだ。

一方のパレスチナ側も、これまで交渉再開の必須条件としてきた境界と入植問題について譲らない姿勢を堅持している。
イスラエルの占領政策に対するパレスチナ指導部の無策ぶりに市民の不満は高まっており、パレスチナ自治区内では昨年、反自治政府デモが起きた。パレスチナ側は「本格交渉に入る前の境界画定と入植活動凍結は必須」(自治政府筋)としており、妥協点を見いだして交渉を進められるのかは不透明だ。【7月31日 朝日】
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今回の交渉がとにもかくにも成立した背景には、就任後の6カ月で6度も中東入りするシャトル外交を展開し、「中東和平以外ほとんど何も関心を持っていない」(外交筋)と言われるほどのアメリカ・ケリー米国務長官の尋常ならざる執念があったことも各紙が伝えるところです。

ケリー国務長官だけでなく、オバマ大統領としても“アメリカの中東への影響力と威信”をかけた取り組みとなります。

****中東和平:交渉再開 オバマ大統領 政権の命運かけ****
イスラエルとパレスチナの和平交渉は30日、交渉再開で正式合意した。ケリー米国務長官が最優先で取り組んできた和平交渉が再び頓挫すれば、米国の中東への影響力と威信の低下は決定的だ。
オバマ政権は中東の混乱の根源ともいえる和平問題に政権の命運をかけて取り組み、中東戦略の抜本的立て直しを図る覚悟のようだ。

「今年初めの大統領の中東訪問が引き金になった」。カーニー米大統領報道官は30日、記者団に対し、今年3月のオバマ大統領のイスラエル・パレスチナ訪問が、交渉再開に向けた出発点になったとの考えを強調した。

1期目のオバマ政権は2010年9月に交渉再開を宣言したが、1カ月で頓挫。同盟国イスラエルとの信頼関係が不十分なまま仲介に臨んだ見通しの甘さが原因だった。

オバマ大統領はこの失敗を教訓とし、2期目最初の外遊でイスラエルを訪問。2国間の同盟関係を強調してイスラエル国民の信頼を得ることを優先し、この信頼を背にネタニヤフ政権に和平交渉での譲歩や妥協を促す戦略にかじを切った。

ただ、交渉の行方については悲観論が支配的で、30日の米紙ニューヨーク・タイムズは「米国務省は交渉チームと、失敗した時の計画を立てるチームの二つを持った方がいい」とする専門家の言葉を紹介した。

一方、米メリーランド大のシブリー・テルハミ教授は「中東和平を欠いた状態では、イスラエルはアラブと常に衝突し、米国は常に争いに巻き込まれる」との見解を米外交専門誌に発表し、中東和平を重視するオバマ外交は米国の国益に資すると分析した。

交渉期限は来年4月末までの「9カ月間」とされたが、オバマ政権が来年11月初旬に行われる中間選挙を念頭に、選挙前に外交的成果を上げることを意識した可能性もある。【7月31日 毎日】
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エジプトでは、アメリカなどによる和解仲介も失敗し、軍主導の暫定政権によるはモルシ元大統領の復権を求めるイスラム同胞団の抗議行動の強制排除が始まり、多数の犠牲者が出ていると報じられています。
膠着するシリア内戦では、反政府勢力を支持しているアメリカですが、反政府勢力内のイスラム過激派の存在もあって、武器支援などに踏み切れない状況が続いています。そうしたなかでアサド政権側の軍事的優位も報じられています。

パレスチナで成果を出せなければ、“アメリカの中東への影響力と威信”は、これまでになく低いものとなります。

****中東和平交渉再開 シャトル外交の裏事情****
2010年秋から中断していたイスラエルとパレスチナ自治政府による中東和平交渉がワシントンで再開され、7月30日には双方があらゆる議題を対象にした本格的な交渉を始めることで合意した。
ジョン・ケリー米国務長官(69)は2月の就任以降、6度も中東入りするシャトル外交を展開。パレスチナに経済支援を約束するなどして交渉の場に引き込み、成果を挙げた。

中東情勢をめぐっては、シリアやエジプトなどでの混乱が続いているほか、パレスチナを国家として承認する動きも進んでいる。オバマ政権には、こうした動きによってイスラエルとパレスチナの関係がさらに複雑になるという懸念があり、早期の事態の打開を目指したい考えだ。(中略)

 ■「久々の成果」実現
その過程で米国は5月、欧州連合(EU)などとともにパレスチナに対する3年間で40億ドル(約4000億円)の経済支援策を打ち出した。また交渉再開直前の7月28日には、イスラエルから、拘束していた104人のパレスチナ人の釈放決定という妥協を引き出すことに成功。こうした米国の外交努力が「中東外交における久々の成果」を実現させたかたちだ。

オバマ政権が中東和平への努力を加速させた背景には、クリントン前国務長官時代には目立った成果を上げられなかったという実態がある。

オバマ政権は1期目の前半はアフガニスタンとイラクでの戦争の終結に注力。後半からは経済発展が進み、中国の存在感が拡大しているアジアを重視する路線に転じた。しかし中東では10年末にチュニジアから始まった「アラブの春」がエジプトやシリアにも波及し、各国の政情が不安定化。イスラエルとパレスチナの和平交渉も停滞し、12年11月にはイスラエルがガザ地区を空爆する事態に発展した。

 ■方向性は白紙のまま
こうした事態を前に、米国には中東和平交渉の中断が長引けば、「和平に逆らう勢力が入ってくる」という懸念を抱いている。ガザ地区を支配するイスラム原理主義組織ハマスの活動が活発化するなどして、和平交渉がさらに難しくなるというわけだ。

またケリー氏のシャトル外交を後押しした要素のひとつには、国際社会に国家としての承認を求めるパレスチナの動きもある。
パレスチナは昨年11月の国連総会で、従来の「オブザーバー組織」から「オブザーバー国家」に格上げされた。米国やイスラエルは「現状変更は和平交渉の妨げになる」と反発。今後も他の国際機関で同様の動きが進めば、「イスラエルとパレスチナの間の摩擦が強まる」(米政府高官)とみていた。

ただ、双方は交渉再開には合意したが、個別の議題の方向性については白紙のまま。双方の内部には交渉再開自体に反対する勢力も依然として多く残っており、今後の協議の難航は確実だ。
ケリー氏は30日の会見で「妥協とは何かを諦めることではない。全ての関係者が平和から利益を得るということだ」と述べて歩み寄りを求めたが、双方の指導者がどこまで妥協に踏み出せるかどうかは、まだまだ不透明だ。【8月10日 産経】
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イスラエル:パレスチナ人受刑者26人釈放 反対派懐柔のため入植活動承認
現地では、交渉再開に向けた唯一の前向きな動きである、イスラエルのパレスチナ人受刑者釈放の第1弾が実施されています。

****イスラエル、パレスチナ人受刑者26人釈放へ**** 
イスラエル政府は11日、エルサレムで14日に開かれるパレスチナとの和平交渉を前に、釈放を約束していたパレスチナ人受刑者104人のうち最初の26人を予定通り13日に釈放すると発表した。
政府発表に続いて同日、イスラエル刑務局が26人について氏名、罪名、逮捕の年月日、被害者の氏名などを公表した。

パレスチナ側は3年ぶりの和平交渉再開の前提条件として、パレスチナ人受刑者の釈放などを要求していた。前月末、米ワシントンで行われた第1回直接協議の後の今月4日にイスラエル側は、1993年のオスロ合意以前に収監した104人を、和平交渉の進展を見ながら4段階に分けて釈放する方針を示し、このうち最初の26人を次回協議までに釈放すると発表していた。  

これを受けてツィピ・リブニ法相、モシェ・ヤアロン国防相、イスラエルの治安機関シンベト元長官のヤコブ・ペリ科学技術相の3閣僚からなる専門委員会が最初の選定に入り、イスラエル首相府は11日夜、今回釈放される26人を決定したと発表した。

殺人で逮捕された受刑者が最も多く、さらに殺人の共犯が5人、誘拐殺人が1人という。26人のうち14人はガザ地区へ、12人はヨルダン川西岸へ移送される。うち10人が今後6か月~3年以内に釈放される予定だった受刑者だと委員会は述べた。

一方、被害者の遺族らが釈放の中止を求めて、最高裁に訴える動きも見込まれている。【8月12日 AFP】
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パレスチナ側は“パレスチナ自治区ラマラの自治政府庁舎前に集まった出迎えの家族ら数百人を前に自治政府のアッバス議長は演説し「(イスラエルの)刑務所に残る人々(服役囚)を我々は見捨てない」と強調、さらなる釈放実現に尽力すると約束した。”【8月14日 毎日】とのことです。

しかし、イスラエル国内ではユダヤ人殺害などの罪に問われた服役囚の釈放には反対の声が根強く、連立政権に参加している極右政党「ユダヤの家」などからは、「和平のために囚人を野に放つのは、ガソリンで火を消そうとするようなものだ」といった反対意見が出ています。

こうした反対派をなだめる見返り策として、イスラエルが占領する東エルサレムやヨルダン川西岸のユダヤ人入植住宅地約1200戸分の入札を実施することが明らかにされています。

****中東和平:イスラエル、1200戸入植発表 交渉前に****
イスラエル政府は11日、ヨルダン川西岸と東エルサレムにユダヤ人入植住宅約1200戸を建設する入札を行うと発表した。

イスラエルとパレスチナによる中東和平交渉が再開し、14日には実質的な初協議が予定されているタイミングだけに、パレスチナ側は強く反発。イスラエルの連立政権内には、近く実施予定のパレスチナ人服役囚釈放を批判する声が根強く、ネタニヤフ首相はこうした右派勢力に考慮したものとみられる。(中略)

イスラエルの連立政権内の右派政党幹部らはこの釈放方針を批判し、連立離脱も辞さない姿勢を示していた。このため釈放が正式決定した際、首相との間で、連立残留の見返りに、入植住宅建設を新規承認する協議が進んでいるとの指摘があった。【8月12日 毎日】
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【「入植拡大は交渉を崩壊させかねない」】
当然ながら、これまで入植活動の凍結を交渉再開の前提条件としていたパレスチナ側は激しく反発しています。

****イスラエル、入植活動の推進鮮明に=パレスチナ「交渉崩壊も」と警告****
イスラエル内務省は13日までに、占領地東エルサレムのユダヤ人入植地ギロで約900戸の住宅建設計画を進めることを承認した。イスラエル政府は11日にも、東エルサレムやヨルダン川西岸の入植住宅約1200戸分の入札を発表したばかり。

14日の中東和平交渉を前に、入植活動を推進する姿勢を鮮明にしたことを受け、パレスチナは猛反発している。
パレスチナ解放機構(PLO)のアベドラボ事務局長はAFP通信に「入植拡大は交渉を崩壊させかねない」と警告した。パレスチナは和平交渉参加の前提条件から入植活動の凍結を下ろしたとみられているが、入植活動に反対する姿勢は変えていない。【8月13日 時事】
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今回交渉では“入植活動の凍結”を事前確認せずに交渉を始めたパレスチナ側としては、開始早々の入植活動推進では立場がありません。

一方、イスラエル側には、連立極右政党だけでなく、与党リクードでも対パレスチナ強硬派が勢いを増しているという事情があります。

****イスラエル与党リクード、党内要職に強硬派****
イスラエルの与党リクードの党内組織要職を選ぶ選挙が6月30日から7月1日未明にかけて投開票され、複数の重要ポストに強硬派が選出された。今後、パレスチナ自治政府との譲歩が困難になる恐れがある。

党の中央委員会のトップには、パレスチナとイスラエルの2国家共存に強く反対しているダニー・ダノン副国防相が選出された。
また、党イデオロギーの骨子を作成する部門の責任者には、強硬派のZeev Elkin副外相が選ばれた。

リクードの党首には、ベンヤミン・ネタニヤフ首相がとどまるが、ダノン氏とエルキン氏の要職獲得により、党内での影響力は弱まることになる。

ダノン副国防相は最近、ネタニヤフ政権はパレスチナ国家建設に真剣ではないと語り騒動となっていた。ダノン氏はパレスチナ国家の是非を問う投票を行えば、リクード出身閣僚だけでなく、連立与党の他党出身閣僚も含め、大半の閣僚が反対票を投じるとの考えを述べている。【7月1日 AFP】
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交渉開始早々の険悪な状況に、ケリー米国務長官は、イスラエルのネタニヤフ首相やパレスチナ自治政府のアッバス議長と電話で協議をしている模様です。

日本時間では明日になる14日には、エルサレムで2回目の、実質的には初協議が予定されています。
その後、ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区エリコで、3回目の交渉を行う予定とされていますが、交渉の成果はもちろん、交渉が続けられるかどうかも危ぶまれる状況です。
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