孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラク  社会不満を解消できないマリキ政権 激化する宗派対立

2013-08-29 22:15:40 | 中東情勢

(8月28日 バグダッド “flickr”より By Madhu babu pandi http://www.flickr.com/photos/93397882@N07/9611628067/in/photolist-fDm7ai)

【「中東の戦争に深入りするつもりはない」】
昨日ブログで取り上げたシリア情勢は依然緊迫した状況が続いていますが、米英仏などによる攻撃は遅れるかも・・・との観測が出ています。

****英議会、シリア軍事介入容認へ=野党に譲歩、攻撃には時間も****
英議会上下両院は29日緊急招集され、「シリアのアサド政権による化学兵器使用」を非難し、軍事介入を容認する政府提出の動議を審議、採択する。

動議は、実際に軍事行動を起こすには、シリアで活動中の国連化学兵器調査団の結果を国連安保理が検討した後で、再度下院での採決が必要としている。このため、週内にも攻撃が始まる可能性は小さくなった。

報道によれば、野党労働党が調査団の結果が出るまで軍事行動は行わないとの修正が認められなければ反対すると警告。政府側が修正に応じた。【8月29日 時事】 
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“国連化学兵器調査団の結果を国連安保理が検討した後で、再度下院での採決”・・・・調査が終わるのにまだ数日かかりそうですし、報告書がまとまるのにも時間を要します。安保理審議にロシア・中国がスムーズに応じるのかも不透明です。このとおりの手順を踏めば、相当に時間がかかりそうですが・・・。

米英仏は、化学兵器使用はアサド政権によるものと断定して、懲罰のための限定的攻撃を予定していますが(オバマ大統領は「まだ決定を下していない」とは発言しています)、本格的な軍事介入にはついては、「シリアでの終わりなき戦争に関わるつもりはない」(オバマ大統領)「中東の戦争に深入りするつもりはない」(キャメロン首相)と否定しています。

国内のシリア介入への支持が低いことや軍事的困難さなどもありますが、仮に軍事介入によって政権を覆しても、その後の安定した政権を確立することができないと、混乱の泥沼に引き込まれる・・・というイラク・アフガニスタンでの経験学習からでしょう。
しかも、政権崩壊後に力を持つ勢力には、各国がこれまで敵視しているイスラム過激派も含まれています。

イラクでは連日のテロ 宗派対立再燃が懸念
イラクでは、03年のイラク戦争後にイスラム教シーア派を主体とする政権とアルカイダ系のスンニ派過激派の宗派対立が激化し、06~07年には毎月1000人以上が命を落とす混乱となりました。
そうした混乱も一時ある程度おさまったかのように見え、10年8月から11年末には米軍もようやく泥沼から抜け出すことができました。

しかし、最近のイラクでは再び宗派間のテロの応酬で、宗派対立再燃が懸念されていることはこれまでも取り上げてきました。
(8月2日ブログ「イラク  更に悪化する治安状況 相次ぐテロ 刑務所襲撃も」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130802

その後も状況は変わりません。
今月に入ってからでも
6日“首都バグダッドでは車や道路脇に仕掛けられた爆弾がさく裂する事件が8カ所以上で発生し、少なくとも31人が死亡。この他、首都北方のバクバ近郊などで銃撃や爆弾攻撃があり、16人が命を落とした。”【8月7日 時事】

10日“バグダッドでは9カ所で爆弾がさく裂し、50人が犠牲になった。また、バグダッド北方のトゥズフルマトでは自動車を使った爆弾で10人が犠牲になった。”【11日 時事】

15日にもバグダッドで9件の爆発があり、24人が死亡。

25日“イラクの首都バグダッドなど各地で、爆弾テロや武装集団による襲撃事件が相次いで発生し、同国内務省筋によると少なくとも49人が死亡、100人以上が負傷した。”【26日 読売】

といった状況です。しかも、それぞれが9か所、10か所といった同時多発テロです。
更に、28日も。

****暴力相次ぐイラク、28日の死者68人に 宗派対立再燃の懸念****
イラクの首都バグダッド市内とその近郊で28日にイスラム教シーア派教徒が多い地区を中心に10か所以上で爆弾が爆発した事件で死亡が確認された人は、これまでに64人に上った。

さらに北部のキルクークとモスルの2都市でも4人が死亡し、この日にイラク全土で起きた暴力事件による死者は68人、負傷者は200人以上になった。最も多くの死者を出したのはバグダッドとその周辺地域で起きた事件で、朝のラッシュアワーに同時多発攻撃とみられる自動車爆弾攻撃や自爆攻撃が相次いで発生した。

ある地域では、怒った住民たちが犯人と疑われる人物を殺害し、遺体を焼いた。イラクではこのところ暴力事件が急増し、今年に入ってから3700人以上が死亡していることから、2006~07年に多数の死者を出した全面的な宗教対立が再燃しつつあるのではないかと懸念されている。【8月29日 AFP】
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まひ状態のマリキ政権
テロ活動の中核には、アルカイダ系のスンニ派組織「イラク・レバント(地中海東部沿岸地方)・イスラム国(ISIL)」が挙げられています。
内戦が続くシリアの反体制派からの同組織への武器流入も指摘されています。

****イラク:テロ頻発…過激派、反政府機運に乗じ****
イラクでイスラム教シーア派とスンニ派との宗派抗争が激化している。テロなどによる7月の市民の死者は1000人に迫り、過去5年で最悪となった。
国際テロ組織アルカイダ系のスンニ派組織「イラク・レバント(地中海東部沿岸地方)・イスラム国(ISIL)」の活動が活発化しており、治安情勢は悪化の一途だ。

非政府組織「イラク・ボディー・カウント」によると、テロや抗争による7月の市民の死者は968人に上り、月間の死者としては過去5年間で最多。7月21日には首都バグダッド郊外のアブグレイブ刑務所が武装勢力に襲撃され、アルカイダ幹部ら500人超が脱獄した。8月も連日、レストランや商店など一般市民が集まる場所を狙った爆弾テロが続いている。

刑務所の襲撃や一部の爆弾テロはISILが犯行声明を出した。ISILはイスラム教に基づく新国家建設を目指している。シーア派国家のイランを敵視し、シーア派が多い地域などで無差別テロを繰り返しているとみられる。

イラクでは2003年のフセイン前政権崩壊後、治安が不安定な状態が続いている。マリキ首相は軍や治安機関の中枢を自らの宗派シーア派で固め、スンニ派の反発を生んだ。
物価高や失業問題も改善できず、スンニ派住民は昨年12月から反政府デモを活発化。ISILは両派の対立に乗じて攻勢を強めている格好だ。

さらに隣国シリアでは、シーア派に近いアラウィ派主体の政権と、スンニ派主体の反体制派の宗派抗争がイラクに飛び火し、武器や過激派の流入が治安悪化に拍車をかける構図だ。

ISILはシリアでも活動し、イラク国境から反体制派に武器や戦闘員を送り込んでいるとみられる。スンニ派国家であるサウジアラビアやカタールがシリア反体制派に供与した武器や資金が、ISILに流れている可能性も指摘される。【8月20日 毎日】
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機能まひ状態のマリキ政権の無策が混乱の背景にあるとも言われています。

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各国の外交筋や専門家らはイラク政府に対し、武装勢力に戦闘員を勧誘し攻撃させる余地を与えているのはスンニ派の不満だとして、そうした不満に広範に対処するよう呼び掛けているが、ヌーリ・マリキ首相は治安部隊による対武装勢力作戦を断固進めると宣言している。

最近では、治安部隊が武装勢力の訓練キャンプと爆弾製造所を壊滅し、数十人を殺害、戦闘員数百人を逮捕したと発表している。しかし、イラク政府は治安問題への対処だけでなく、電気や清潔な飲料水の供給といったインフラの提供もできていない。汚職もまん延している上、さらに政争によって政権はまひ状態で、この数年間、重要法案が可決した例はほぼ皆無だ。【8月28日 AFP】
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“(爆弾テロのあった)シャアブ地区に住む18歳のマルワさんは「私たちは貧しいのに持っていたものもすべて無くなり、家は崩れてしまった。政治家は地位を争ってばかりで、私たちの面倒などみてくれない。爆発のせいで皆がホームレスになるのに。誰が補償してくれるの」と怒りをぶつけた”【同上】
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