(ヨルダンのザアタリ難民キャンプ 約12万人が暮らす“都市”ですから、こうしたコンテナやテントの居住区だけでなく、賑やかな商店街などもあるようです。 “flickr”より By Leslie Delos Santos http://www.flickr.com/photos/74761228@N08/8977039462/in/photolist-eFgF5s-eFh3B5-eFaujc-dxpnZn-eq12gH-e38ZTn-dCKpQU-eHQ7Yi-ds6b6B-ds6aWc-ds5xuX-e391Ft-e3ogVU-dwTWXX-dsknU3-eFgA55-dJQ9EX-eFgY2S-eFazoR-efGXcF-dJQhDa-dJVJmY-dJQhLT-dJVAtA-dJVAsw-cLvYd7-dwZymW-dwTXzZ-dJVAso-e12gpz-e12gye-e17XdA-e17X6G-e17XaG-e12hak-e12gWn-e12gZB-e2oRN9-e2oRWy-e2oS1w-e2oRAu-euM3Sf-eFavdP-ew2LBM-eD9dTX-eFas6g-e12e6B-eFaVHg-eFgGY3-e17UN3-e12eti)
【政府軍攻勢で、政権側に強気と余裕も】
内戦が続くシリアでは、アサド政権政府軍はレバノンのシーア派武装組織ヒズボラのあ支援もあって攻勢を強めており、要衝クサイルに続いて、反政府勢力が1年以上にわたって主要な拠点としていた中部ホムスの相当部分を奪還しています。
中部ホムスはシリア北部と南部を結ぶ要衝で、アサド政権への抗議行動が始まった都市でもあり「革命の首都」とも呼ばれていますが、この地を政府軍が制圧すれば反政府勢力は南北に勢力を分断される形となります。
****シリア政府軍、ホムスの反体制派地区ハルディヤを奪還****
シリア政府は29日、中部ホムス(Homs)で反体制派の支配下にあったハルディヤを制圧したと発表した。
反体制派が「革命の首都」と呼ぶホムスは内戦の象徴となっている都市で、数か月にわたって激しい攻防戦が続いていた。政府軍にとっては、反体制派が重要拠点と位置づけていたホムスのババアムル地区を2012年3月に制圧して以来の大きな軍事的成果となった。
政府軍は6月、レバノンのイスラム教シーア派原理主義組織ヒズボラの強力な支援を受けて、ホムス県のクサイルを反体制派から奪還していた。クサイル奪還で意気上がる政府軍は引き続きヒズボラの支援を受け、1か月前からハルディヤに攻撃を加えていた。
シリア人権監視団によると、政府軍がハルディヤを奪還した日は早朝から、同地への攻撃が始まって以来「最も激しい戦闘」があったという。政府軍に包囲されたハルディヤ地区は毎日のように砲撃や空爆が加えられた上、封鎖によって武器だけでなく食料や医薬品も事欠く事態に陥っていた。
■反体制派、南北に分断される恐れも
ホムスは首都ダマスカスと、バッシャール・アサド大統領が属する少数派イスラム教アラウィ派が多い沿岸部の地域を結ぶ経路上にある。ホムス旧市街にある複数の地区は依然として反体制派が押さえているものの、政府軍側はこれらの地区も奪還する構えを見せている。
ホムスを拠点とする反体制活動家のマフムード・ロウズ氏はインターネットを介してAFPの取材に応じ、「ホムスが陥落すればシリア北部と南部が分断されてしまう」と懸念を示した。
ホムスを拠点にする反体制活動家のアブ・ラミ氏も、ハルディヤ陥落は政府軍の砲撃と空爆によるものと認め、同地区の9割が政府軍の支配下に入ったと語った。その一方でラミ氏は、反体制派はハルディヤを失ったがホムス全体を失ったわけではなく、戦いに負けてはいないと強調した。【7月30日 AFP】
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こうした攻勢で意気上がるアサド大統領は、あくまで武力で反政府勢力を鎮圧するとの強気の発言を行っています。
****「反体制派、鉄ついで叩きのめす」シリア大統領****
シリア国営テレビによると、同国のアサド大統領は4日、シリア各界の代表との会合で演説し、「戦場が、危機を解消することのできる唯一の場所だ」と述べ、シリア反体制派勢力との対話の可能性を否定し、徹底的な掃討作戦を行う考えを明らかにした。
大統領は、反体制派武装勢力は「テロ集団」だと断じた上で、「彼らが殺戮と破壊を行っている以上、鉄ついにより叩きのめす以外に方法はない」と、軍事作戦を正当化した。大統領の強気な発言の背景には、シリア内戦の戦況が、反体制派の内部分裂もあって政権側に有利に傾いていることがあるとみられる。
大統領はまた、シリアの経済低迷の原因は「治安情勢」にあるとし、「テロを根絶することで解決できる」と述べ、国民に軍事作戦への支持を訴えた。【8月5日 読売】
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また、化学兵器使用疑惑を巡る国連の調査についても、アサド政権はこれまで、調査地点をハンアルアサルだけと限定して、対象地点を広げることを求めていた国連の調査団の立ち入りを拒否してきましたが、北部アレッポ郊外ハンアルアサルを含む3カ所で行うことを了承し、国連の調査団が現地調査に入ることになりました。
この決定についても、“調査団の任務は化学兵器使用の有無を調べることに限られ、誰が使ったか特定することまでは求められていない。そのため、国連内では、アサド政権がこうした点を見越したうえで「軍事的に優勢となり、国連に協力する姿勢を見せる余裕が出てきたのでは」との見方もある。”【8月1日 毎日】と、政権側の“余裕”のあらわれと報じられています。
もっとも、北部にある政府軍の空爆の拠点だった空軍基地を反政府勢力側が制圧したとも報じられており【8月7日 NHK】、戦局はまだ流動的なようです。
また、政権側を支援しているヒズボラにも大きな犠牲が出ていると思われます。
イスラエルとの戦闘でならともかく、シリア内戦に加担することでの犠牲を、どこまでヒズボラが許容できるのかにも疑問があります。犠牲が拡大し、長期化するにつれ、レバノン・ヒズボラ内部で不満が高まることはないのでしょうか?
【『楽しきわが家(Home! Sweet Home!)』】
2年半にわたる戦闘で死者が10万人を突破するというように、内戦が激化・長期化するなかで、膨大な数の住民が長期の難民生活を強いられており、「今世紀最悪の人道危機」とも呼ばれ始めています。
****シリア難民、避けられぬ定住化=12万人超の最大キャンプ―ヨルダン****
シリア内戦の出口が見えない中、周辺国への難民は増加の一途をたどり、年末には345万人に達すると見込まれている。
国連による各国への資金拠出要請額は約52億ドル(約5000億円)と人道支援で過去最高に達し、既に「今世紀最悪の人道危機」と呼ばれ始めた。帰還のめどが立たない難民はキャンプでの定住化を余儀なくされている。
シリアと国境を接するヨルダンのザアタリには最大のシリア難民キャンプがある。
砂漠地帯に2012年7月につくられ、大通りが南北2.5キロ、東西5キロに延び、見渡す限りにテントや仮設住宅が並ぶ。
現地で活動する日本のNGO「JEN(ジェン)」の佐々木弘志氏(27)は「今は気温が40度を超える。砂嵐が来れば、10メートル先も見えない」厳しい環境だと語る。それでも12万人以上が暮らし、ヨルダン国内で5番目の規模の「都市」に膨れ上がった。
国連機関や人道援助団体の尽力で、キャンプ内のインフラは徐々に確保されてきた。トイレや医療拠点が設けられ、ヨルダン人教師による小中学生向け授業も定着。サッカー場や子供の遊戯スペースも充実した。
佐々木氏によれば、キャンプ住民の自治組織も立ち上がり、シリアで配管工だった人がトイレの詰まりを直すなど、それぞれの経験を生かした活動が広がりつつある。
佐々木氏は「住民主導で(キャンプの運営に)取り組んでもらうことで、シリアに帰った時の復興に役立ててもらえれば」と願う。だが、シリア内戦は国際社会の調停努力も実を結ばず、終結の兆しはない。
キャンプでは毎週50人前後の子供が生まれており、難民の帰る場所がないまま、町として恒久化するのではないかという見方も出始めている。【8月8日 時事】
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難民キャンプとは言っても生活の場ですから、長期化するにつれて、そこでは様々な営みが行われ、次第に「都市化」しています。
また、その運営費用も膨大で、1年前にできたばかりの前出のザアタリ難民キャンプだけでも、1日当たりの運営費は約100万ドル(約1億円)に上るそうです。
****「都市化」するシリア難民キャンプ、国連への電気代請求は月5000万円****
空から見下ろした中東ヨルダンの砂漠の真っただ中に、整然と広がる移動式住宅やテントの「街並み」──内戦状態のシリアから逃れてきた人々が暮らすザータリ難民キャンプは、急速に小さな都市と化しつつある。
この難民キャンプが開設されたのは、わずか1年前。何か月も続く内戦に傷つき、命からがら祖国を脱出してきた大量のシリア難民を保護するという悪夢のような使命に、ヨルダンは直面した。
現在、このキャンプにはよりどころを無くした11万5000人が暮らす。夜になれば国境の向こう側から砲弾の音が響き渡るが、それでもシリア難民たちはくじけることなく、再び立ち上がって自活していく決意を固めている。
■「楽しきわが家」再生
難民テントの多くは、プラスチックとアルミニウムでできたコンテナ住宅に置き換えられつつある。設置費用は1戸当たり2500ドル(約25万円)。既に1万6500戸が完成し、近く3万戸に達する見込みだ。
「まさしく『楽しきわが家(Home! Sweet Home!)』です」。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の現地責任者、キリアン・クラインシュミット氏は18日、現地視察に訪れたジョン・ケリー米国務長官を上空から案内しながら、英国民謡の題名を口にした。その言葉に皮肉な響きはみじんもなかった。
クラインシュミット氏が語ったのは、ありのままの事実だ。28か月に及んでいるシリア内戦に全く終わりが見えない中、難民キャンプではあきらめて長引くキャンプ生活を受け入れ、崩壊した生活を自ら立て直そうとする住民が増えているのだ。
■根っからの商人たちが築いた新たな暮らし
ザータリ難民キャンプに暮らす人々の多くは、ヨルダンと国境を接するシリア南部ダルアー県から逃れてきた。シリア軍と反体制派の武力衝突へと激化していったバッシャール・アサド政権に対する2011年3月の蜂起の発端となった地だ。
「ダルアーの人々は、根っからの商人だ。ほとんど何でも取り引きするので驚かされる」と、クラインシュミット氏は報道陣に説明した。仮設住宅の前庭は泥よけのためにセメントで固められ、小さいながらも「家の象徴」として噴水まで造ってある家も見られる。
商才に長けた難民たちは、キャンプの電気網を「拝借」してキャンプ内のわずかな舗装道路に立ち並ぶ約3000軒の店舗や、580軒の料理店や屋台に電気を引いており、クラインシュミット氏の下に届く電気代は毎月50万ドル(約5000万円)に上る。
これらの通りはパリの大通りにちなんで「シャンゼリゼ」と呼ばれている。難民たちはここで喫茶や買い物を楽しみつつ、仮設住宅に付けるエアコンの値引き交渉さえしている。
仮設住宅の多くには既に衛星放送用のパラボラアンテナが取り付けられている。タクシーも10台あり、高値を吹っかけては人々を乗せてキャンプ内を走り回っている。取り引きに使われる現金は、難民が持参してきたものもあるが、それよりも湾岸諸国か欧米で働く親戚からの送金が多い。
キャンプ内で仕事を探して回る人たちも多く、その中には子供たちの姿もある。闇取引が問題になっており、持ち物は何でも売りに出される。コンテナ住宅でさえ「また貸し」されたり、転売されたりと、UNHCRが許可していない方法で使用されている。
「街」には病院が3つ、学校も数か所ある。食料配給所は本部の他にパンのみを配るセンターもあり、1日に計5000個のパンを配給している。サッカー場や、滑り台やブランコのある公園も合わせて5か所ある。「約6万人いる子どもたちを飽きさせないことが大事」だとクラインシュミット氏は言う。
だが、学校に通うべき年齢の子ども3万人のうち、授業を再開できているのは5000人だけだ。
■難民キャンプではなく「一時的な街」
キャンプ開設当初の数か月は、世界から見放されたと絶望し憤った難民たちが支援職員らに石を投げつけることも少なくなかった。現在も緊迫感は残るが、新たな理解が広がっていると思うとクラインシュミット氏は語る。
「私が管理しているのは難民キャンプではなく、一時的な街だ。だから、ここは落ち着きつつある。私たちは対話を始め、将来の展望を描き始めている。完全な絶望から人々を脱け出させる手助けもできている」
しかし、この考えは、既に人口のかなりの部分をパレスチナ難民が占めているヨルダン政府の方針とはそぐわない。
ヨルダンのナーセル・ジュデ外相は「わが国としては、キャンプが閉鎖され、全ての難民がそれぞれの自宅や暮らしに戻ることを祝う日を常に待ち望んでいる」と述べている。
ザータリ難民キャンプだけでも、1日当たりの運営費は約100万ドル(約1億円)に上る。【7月22日 AFP】
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国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の統計によると、同機関に登録されているパレスチナ難民の42%にあたる約196万人(2009年6月)をヨルダンが受け入れています。
ヨルダンは、パレスチナ難民の多くに国籍を与え、様々な支援・保護を行ってはいますが、その負担は大きく、新たな難民受け入れを拒否しています。
もちろん、UNRWAからヨルダンへの予算配分(全予算の約20%)はありますが、不足分として年間4億ドルをヨルダン政府が拠出していると言われています。
また、経済的な負担だけでなく、ヨルダンへの帰属意識がない難民を多数抱えることは社会的にも大きな問題となっています。
こうした状況で更にシリア難民を受け入れ続けることは、ヨルダンにとっては耐え難い負担となってきます。
シリア内戦を終結させることに、国際社会は今までのところは大きな力を示すことができずにいます。せめて難民問題の経済的負担ぐらいはカバーすべきところでしょう。