孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア内戦  クルド人と反体制派アルカイダ系武装組織の衝突が激化

2013-08-19 22:17:54 | 中東情勢

(国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が公開した、シリアからイラク北部のクルド人自治区に逃れてきたシリアのクルド人たち(2013年8月15日撮影、2013年8月18日公開)【8月19日 AFP】http://www.afpbb.com/article/war-unrest/2962495/11211913)

シリア国内でクルド人とイスラム原理主義者との戦闘が激化
内戦が続くシリアには北部を中心に400~600万人といわれるグルド人が暮らしています。

クルド人は、シリアだけでなくこの地域の国境をまたがってトルコ、イラク、イランなどに分布しており、独自の国家を持たない世界最大の民族集団であること、イラクでは自治政府を形成し、マリキ中央政権と緊張関係にもあること、トルコでは長年の反政府武力闘争を行ってきたクルディスタン労働者党(PKK)が闘争を停止しイラクへ段階的撤退をしていることなど、これまでもたびたび取り上げてきました。

“国家を持たない世界最大の民族集団である”だけに、クルド人の動向は現在の国境線の変更、新たな混乱・戦闘にもつながりかねない要素をはらんでいます。

シリアではアルカイダ系のイスラム過激派とクルド人の間の戦闘が激化し、多数の難民がイラクに向かっています。

****シリアのクルド人が大挙してイラクに流入、激化する戦闘逃れ****
内戦状態のシリアからここ数日、クルド人たちが大挙して隣国イラクに避難していると、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が18日、明らかにした。

国連(UN)によると国境を越えてイラクに避難してきたクルド人難民の数は、15日以降だけで既に1万5000人以上に上っているという。シリア国内でクルド人とイスラム原理主義者との戦闘が激化していることから、人数は今後さらに増える見込みだ。

これまでイラクに流入するシリア難民の数は他の近隣諸国に比べて少なかったが、急激な難民の増加で、現地の国連難民高等弁務官事務所は対応に追われている。

イラク北部のクルド人自治区に逃げてきた難民のほとんどは、女性や子ども、高齢者だ。

自治区の首府アルビルの西方に建設中のQuru Gusik難民キャンプでは数千人を受け入れているが、基本的な支援が足りておらず、残る難民たちは近くのスレイマニヤへと移されることになっている。

■シリア北部でアルカイダ系組織とクルド人が戦闘
シリア北部と北東部では昨年、バッシャール・アサド大統領の政府軍が撤退し、以降多数派を形成するクルド人の自治下にあった。
ところが、国際テロ組織アルカイダと関係のある武装組織がイラクのイスラム原理主義グループとの連携を強めるためにこの地域に注目し、地域のクルド人民兵との間で死者を出す戦闘が続いていた。

5人の子どもを連れて避難してきたアブドルカリムさんは、「シリア北部は戦争状態にあり、略奪などが起きている」と話し、「ひとかけらも食べ物を見つけられなかったので、子どもたちと逃げてきた」と続けた。

シリア北東部カミシュリから逃げてきたというファドヘルさんも、「紛争が始まって、人々が首を切られたり殺されたりしている。それに仕事もない」と語った。

イラク・クルド民主党(KDP)のマスード・バルザニ議長は今月初め、シリアのクルド人を守るために介入する可能性に言及し、内戦が周辺国へ拡大する新たな兆候を示していた。

シリア内戦によって国外に逃れた難民は現在190万人を超える。多くはレバノン、ヨルダン、トルコに避難している。
国連によればイラク国内には、最近の大規模流入以前の数字で約15万5000人のシリア難民がおり、その多くはクルド人だという。【8月19日 AFP】
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アサド政権と反体制派の内戦が続くシリア国内において、第3勢力としてのクルド人の立ち位置は微妙なものがあります。実際、これまでアレッポの攻防では、アサド政権側についたことも、反体制派側に組したこともあります。

クルド人は長年少数民族として政権から迫害を受けてきた歴史がありますが、その迫害に加担してきたという点ではスンニ派アラブ人と主体とする反体制派も同列であり、反体制派への不信感もあります。

また、“アサド政権はトルコ内で反政府独立闘争を行ってきたクルド人組織クルディスタン労働者党(PKK)を援助してきました。シリアのクルド人の中で唯一自前の武装組織、人民保護部隊(YPG)を擁し最大の勢力を持つ民主連合党(PYD)はそのPKKの支部である”【5月9日 hemojiの放言ブログ 】(http://blogs.yahoo.co.jp/winterfall_obm/archive/2013/05/09)という、アサド政権につながる組織関係もあるようです。

そのため、“シリア北部と北東部では昨年、バッシャール・アサド大統領の政府軍が撤退し、以降多数派を形成するクルド人の自治下にあった”というように、政権側もクルド人に委ねる形をとってきました。

バルザニ議長:軍事的介入も辞さず
しかし、ここにきて、アサド政権の支配が及んでいないこの北部地域に目を付けた反体制派の一翼を担うアルカイダ系武装組織とクルド人の間で戦闘が激化しています。

【8月10日 Russia Today】(http://rt.com/news/iraq-kurds-syria-defend-342/)によれば、“月曜日(8月5日でしょうか)トルコ国境近いTal Abyadの町をアルカイダとつながる反体制派ヌスラ戦線が攻撃し、クルド人住民の120人の 子供たち と 330人の 女性 が殺害された”との未確認情報があるそうです。

関係者によれば、「アルカイダ兵士と他の反体制派勢力は村を包囲した。 彼らは一軒一軒、すべての家に入りこんきた。 そして、男性がいれば殺し、女性と子供たちは人質として連れて行った」とのことです。
ロシアの外務省も7月の声明で、この北部地域におけるアルカイダ武装勢力とクルド人住民の対立があることを明らかにしています。

こうした事態を受けて、前出【8月19日 AFP】にもある、イラク・クルド民主党(KDP)のマスード・バルザニ議長の発言となっています。

バルザニ議長は「アルカイダのテロリストが、民間集団を攻撃しており、罪のないクルド族の女性と子供たちを虐殺している」との報告の調査を指示し、「報告が本当で、罪のないクルド人の市民 、女性 と子供たちが殺人とテロリズムの脅威の下にいるのならば 、イラクのクルディスタン地域は女性と子供たちと罪のない一般人を守るべくすべての能力を行使するであろう」と、軍事的介入も辞さない意向を明らかにしています。

クルド人勢力が反体制派内過激派との対決を鮮明にすれば、現在でも政権側優位が伝えられるシリア内戦の情勢は、更に政権側に有利に動くことが考えられます。

ただ、クルド人勢力と緊張関係にあるトルコ、イラク政府の対応などは不透明です。

内紛続く反体制派
なお、シリア反体制派内のアルカイダ系過激派の存在は、欧米諸国の反体制派支援を抑制する原因となっていますが、反体制派内においても主流派「自由シリア軍」との衝突も報じられています。

****シリア反体制派内紛 主流VSイスラム過激派、交戦も****
内戦が続くシリアの反体制派武装組織で、主流派の「自由シリア軍」と、イスラム過激派系勢力が“仲間割れ”し、戦闘に発展するケースが相次いでいる。
背景には、戦況がアサド政権優位に傾く中、反体制派内の主導権や支配地域での縄張りをめぐる争いが激化している事情があるとみられる。

フランス通信(AFP)がシリアの在外人権団体の話として伝えたところによると、反体制派が支配する北部イドリブ県で13日、国際テロ組織アルカーイダに近い「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」の部隊が、自由シリア軍の武器庫から銃器を奪おうとして同軍と交戦になった。

11日にはISIS部隊が自由シリア軍の部隊司令官を射殺。その前には数十人が死亡する戦闘も発生、緊張はかつてなく高まっている。

両者を含む反体制派の諸部隊は、政権打倒の目的こそ共有しているものの、指揮系統はバラバラで、反体制派の制圧下にある北部地域ではむしろ、縄張りを争うライバルだ。各部隊はそれぞれの支配地に検問所を設置、それが部隊間のいさかいの種や物流の妨げになっているとも指摘される。

反体制派はここ数カ月、政権側の攻勢で戦線縮小を余儀なくされている。それに伴い各部隊が軍閥化することも予想され、軋轢(あつれき)が広がる可能性もある。【7月16日 産経】
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コメント (1)
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