孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イギリス  悪化する経済 背景にEU離脱 TPP加盟でも穴埋めにならず

2023-07-18 22:25:23 | 欧州情勢

(【1月31日 日経】 最新の数字では「間違いだった」が57%で過去最高 「正しかった」は32%)

【インフレによる生活困窮 “英国民の7人に1人が昨年に貧困のため飢えに直面”】
いろんなものが値上がりしている、あるいは、値段は同じだけど中身が減っている・・・というのは、毎日のように実感しているところですが、先ほどのNHK・クローズアップ現代では、そうした物価上昇への対策として食費を節約した結果、健康を害するような事例が多く出ているという内容を放送していました。

****ルポ 食料品の値上がり 忍び寄る健康への影響****
相次ぐ物価高騰が家計を圧迫しています。ことし5月の消費者物価指数は、去年の同じ月より4.3%上昇し、約42年ぶりの高水準となり、1月から値上げが決まった品目は3万品目を超える見込みです。

一方で、その“しわ寄せ”を大きく受けている人たちがいます。生活困窮者や介護事業者、そして、持病のある人たちです。なんとか食費や電気代を節約しようとする中で、健康に影響が出たり、事業継続に支障が出たりしているのです。 物価高の陰で、いま起きている現実とは-。

活に困る人たちに忍び寄る“健康への影響”
山梨県南アルプス市にあるフードバンク山梨は、寄付で募った食料を生活に困る人たちに無償で提供しています。配るのはレトルトカレーや缶詰などの食料品、マスクや洗剤などの日用品です。

フードバンク山梨では、急速な物価高騰を受けて、ことし3月に「緊急食料支援」を実施し、その影響についてアンケートを行いました。すると、95%が「節約のために食費を削っている」(回答数97のうち)と答え、49%が「食事の回数を減らすことはある」(回答数98のうち)と回答したのです。

さらに、63%が「食事の内容に変化がある」(回答数98のうち)と答え、68世帯が「おかずが減った」、31世帯が「炭水化物だけの食事が増えた」と答えました。

食費にかけられる金額は33%が「月3万円未満」(回答数87のうち)とし、回答者の平均世帯人数の3人にあてはめると1人あたりの食費は1日333円以下でした。

理事長の米山けい子さんは「食事が、量的にも質的にも、非常に悪い状況の方が増えている。食べるものがないという方もかなりいる。健康に影響が出る人も増えてくるのではないか」といいます。

実際、どれだけ健康への影響が広がっているのか。先月、米山さんは「緊急食料支援」の現場で、利用者に聞き取り調査を行いました。すると、食費の節約で栄養が偏り、すでに健康への弊害が出ている人が少なくありませんでした。特に、深刻な影響が出ていたのはシングルマザーたちでした。

1人の子を育てる女性  「カレーの肉を減らしたり、じゃがいもでかさ増しをしたりしている。肉は、これまで1パックを2回使っていたのを3回にしている」

3人の子を育てる女性  「おなかを満たすことを重視して、量は減らさず、質を落としている。肉なしの麻婆豆腐、ご飯と肉を混ぜたハンバーグなどを作っている」
さらに、実際に体調を崩している人もいました。

4人の子を育てる女性  「子どもたちの食事を確保するため、昼ご飯などを減らしていて、かなり体重が落ちた。偏頭痛があったり、栄養不足で爪が欠けてしまったりする」

2人の子どもを育てる女性  「子どもがスポーツをしていてよく食べるので、自分の食事は簡単に済ませてしまう。貧血になり、医師に相談したら“食べないとだめだ”といわれた」

物価高が直撃することしの夏休み。米山さんは「学校給食で栄養バランスのとれた食事をとっていた子どもにとって、非常に厳しい夏になる。おなかを満たすための食事で、偏った栄養バランスになり、子どもたちの発達にも影響を及ぼすのではないかと危惧している」といいます。(後略)【7月18日 NHK】
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5月の物価上昇率が4.3%、それまではより低い数字の日本ですらこういう状況ですから、二桁の物価上昇が続いたイギリスで生活困窮者が出ても不思議ではないでしょう。

最近はようやく一桁にはなったようですが、“食料品や飲料を含む項目の伸び率が18.3%”と、依然として“高止まり”が続いています。

****イギリス消費者物価指数 前年同月比8.7%上昇 高止まり続く****
イギリスの先月の消費者物価指数の伸び率は、前の年の同じ月と比べて8.7%の上昇で前の月と変わらず、高止まりが続いています。

伸び率は2か月連続で10%を下回りました。
イギリス統計局の21日の発表によりますと、自動車燃料などの価格は下落したものの、サービス部門などでの値上がりが続いています。

このため、食料品や飲料を含む項目の伸び率が18.3%となるなど、生活に身近な品目で物価の高止まりが依然として続いています。

また、価格の変動が大きいエネルギーや食品などを除いた物価指数は7.1%の上昇と、1992年3月以来の高い水準となりました。

イギリスの中央銀行、イングランド銀行は12か月連続で利上げしていますが、物価目標の2%を大きく上回るインフレが続いていることから、さらなる利上げを検討することになりそうです。【6月21日 NHK】
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こうした状況で、“英国民の7人に1人に当たる約1130万人が昨年に貧困のため飢えに直面した”という、“先進国”としてはかなりショッキングな報告もなされています。

****飢え直面の英国民、昨年は7人に1人 脆弱な社会保障で=慈善団体****
英国民の7人に1人に当たる約1130万人が昨年に貧困のため飢えに直面したとする調査を、英フードバンク慈善団体トラッセル・トラストが28日公表した。社会保障制度の機能不全と、緩和の兆しが見えない生活費危機が原因とした。

英国の経済規模は世界6位だが、ほぼ全労働者の賃上げ幅がインフレ上昇に追いついておらず、1年以上にわたり圧力にさらされている。

トラッセル・トラストは全英1300カ所でフードバンクを運営し、3月までの1年間に過去最多の300万食を提供。これは前年から37%増加し、5年前の2倍を超える水準だという。

貧困による飢えが増加している背景について、同団体は「新型コロナウイルス禍や生活費危機にとどまらず、社会保障制度の脆弱性を露呈している」と指摘した。

英人口のうちフードバンクなどの配食支援を受けているのは7%だが、飢えに直面している人の71%は配食支援にアクセスした経験を持たないという。【6月28日 ロイター】
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【悪化するイギリス経済 高インフレで不動産バブル崩壊の危機も】
イギリス経済全般も高インフレのもとで、金利引上げからの景気後退という悪化が進行しています。

****イギリスは高インフレで不動産バブル崩壊の危機 国民の7人に1人が飢えに直面したという指摘も****
「英国経済はリセッション入りする」との警戒感
イングランド銀行(英国中央銀行)のアンドリュー・ベイリー総裁は7月9日、「インフレ目標を2%から引き上げる必要性はない」と述べた。

イングランド銀行は、英国のインフレを抑制する取り組みに苦戦している。6月の消費者物価指数(CPI)は8.7%と目標(2%)の4倍を超えており、主要7カ国(G7)で最も高い。

このため、イングランド銀行は6月、予想外の0.5ポイントの利上げを実施し、政策金利を5%に引き上げた。市場関係者の間では「政策金利が6.5%と25年ぶりの高水準にまで引き上げられ、これにより英国経済はリセッション(景気後退)入りする」との警戒感が広がっている。

リセッションを回避する観点から「インフレ目標を3%に変更し、政策金利の引き上げを小幅にとどめる」との提案が出ていた。だが、ベイリー総裁の発言は「目標を変更した場合は中央銀行の信頼性が損なわれる」ことを理由に、それを拒否した形だ。

「強欲インフレ」は政治問題化
ベイリー総裁が6日「一部の小売業者が顧客に対して過剰請求している証拠がある」と述べたように、英国では「強欲インフレ」も問題になっている。資源や穀物などの市況に関係なく、企業がインフレを口実に利益を求めて値上げに走る行為のことだ。

英フードバンク慈善団体「トラッセル・トラスト」が6月28日に公表した調査結果によれば、英国民の7人に1人に当たる約1130万人が昨年、生活費の高騰などが原因で飢えに直面したという。

強欲インフレで槍玉に挙がっている食品企業は「エネルギー高が続く状況下で価格転嫁が十分に出来なかったため、失った利ざやを補うために価格を引き上げている。適正な価格見直しだ」と主張している。しかし、「便乗値上げが横行している」との批判は高まるばかりだ。

すでに強欲インフレは政治問題化しており、競争・市場庁は5月中旬から、食品企業などが価格高騰により不当な利益を享受していないかの調査を実施している。

住宅ローン金利の高騰で、市場も借り手も厳しい状況に
賃上げ幅がインフレ上昇に追いつかず、英国民の生活は危機にさらされている。英国政府が6月30日に発表した統計によれば、インフレ調整後の1人あたり実質可処分所得は第1四半期に0.9%減少した。

さらに貯蓄も、統計を開始した1987年以降で初めて減少した。金利上昇に伴い、家計が住宅ローンの返済を加速したことが主な要因だ。第1四半期の住宅ローンの返済額は52億ポンド(約9500億円)と、四半期ベースで最多となった。

イングランド銀行の利上げによる住宅ローン金利の高騰で、多くの借り手が厳しい状況に追い込まれている。イングランド銀行によれば、今年5月の2年固定の住宅ローン金利は1年前に比べ2.1%上昇して4.73%だった。借り換えを迎える住宅所有者の負担は極めて重い。

利払い負担の増加が足枷となって住宅購入需要が冷え込んだせいで、英国の住宅市場はスランプに陥っている。英住宅金融企業ネーションワイドが6月30日に発表した6月の住宅価格は、前年に比べて3.5%下落。2009年以来の大幅な落ち込みだ。

S&Pグローバルが7月6日に発表した6月の英建設業購買担当者景気指数(PMI)は48.9と5カ月ぶりの低水準となった。中でも住宅建設は極度の不振に陥っており、過去14年余り(新型コロナの流行初期の2カ月間を除く)で最大の落ち込みを記録した。

住宅市場の不調は金融機関の経営にも悪影響を及ぼしている。住宅ローン需要が減少する中、金融機関は少ないパイを奪い合う状況だ。預金金利が上昇しているにもかかわらず、顧客に対して競争力のある低い金利を提供せざるを得ない。

商業用不動産市場の大幅な悪化…住宅市場以上の問題か
業績悪化につながる可能性が懸念されている英金融機関にとって、政府の介入も頭痛の種になっている。英国政府が6月23日に発表した、住宅ローンの返済支援策 だ。

最初の支払い滞納から1年間は担保物件の差し押さえを猶予したり、固定金利の契約期間が終わっても最大6カ月間は同じ条件で継続できたりする内容だが、金融機関の業績に下押し圧力がかかることは間違いない。

住宅市場以上に問題を抱えているのは、商業用不動産市場だろう。住宅に比べて借入比率が高い商業用不動産市場は、金利上昇によって大幅な悪化にあえいでいる。新型コロナのパンデミック以降、在宅勤務が定着したことも災いした。

「欧州の商業用不動産の価値は今後40%下落するリスクがある」という恐ろしい予測(5月11日付ZeroHedge)が出ている現在、筆者は「英国の商業用不動産が最も大きな打撃を受けるのではないか」と危惧している。(中略)英国の大都市のオフィス需要が急速に冷え込んでいるからだ。

過去を振り返れば、不動産バブル崩壊後に金融危機が起きたケースが多い。インフレに苦しむ英国が金融危機を起こさないことを祈るばかりだ。【7月14日 藤和彦氏 デイリー新潮】
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【英経済悪化をもたらしたEU離脱 「EU離脱は間違いだった」57%で過去最高】
こうした経済不調の理由としてあげられているのがEU離脱の悪影響です。

****英国、EU離脱が失敗 欧州の病人に****
【経済着眼】保守党政権の支持率低迷 来年の総選挙で政権交代が濃厚

英国ではスナク政権の支持率は一時、13%まで落ち込んだが、足許でも2割台に低迷している。保守党の支持率も野党労働党に25ポイントの大幅リードを許している。  言うまでもなく、景気の低迷、記録的なインフレの高進などの経済悪化から一般国民が「生計費危機」(Cost of Living Crisis)に陥っているためだ。(中略)

欧米諸国の中でも英国のインフレがもっとも高水準に達してその後も高止まりするとみられる理由は諸説あるようだ。もっとも一般的なのは、先行きの不透明性が強くて新規設備投資が沈滞しているため、いわゆる生産性が低下を続けていることだ。  そのうえ公共部門やサービス業を中心に労働需給が逼迫していて、その生産性を上回る賃金上昇が続き物価を押し上げている、との見立てだ。  

この根本的な原因は2016年に国民投票でEU離脱を決めて2020年2月に正式に離脱したことに求められる。  シェアが5割を越える最大の貿易相手であるEUとの貿易は、有識者が懸念したように減少をたどった。

もちろん、英国はEUと離脱後も自由貿易協定(FTA)を締結してEUの一員であったときと同じく関税はかからない。  しかし、原産地規則で日本の自動車メーカーが日本から輸入した自動車部品を使って英国の工場で組み立てた場合、日本からの部品輸入比率が大きければ場合によっては10%程度の関税がかかる。  ホンダ、フォードなど日本や米国の自動車メーカーが英国を去っていったのもやむなしであろう。

ブレグジット後の先行き不安から製造業、非製造業を問わず、大胆な新規投資意欲もしぼんでしまい、生産性の低下に拍車をかけた。  また関税を逃れられたとしても通関手続きに多くの手間と時間を掛けねばならない。EUから新鮮な果物、野菜を輸入するような場合、鮮度が落ちて輸入が事実上止まってしまうことも起きている。  

金融街シティーの競争力はEU離脱後も大きく落ちないと楽観する声が当初は多かった。しかし、証券取引ではパリ、アムステルダム証券取引所の急成長でロンドンの地盤低下は明らかになっている。  

ブレグジット求める人々がもっとも大きく主張したのは、ポーランド、ハンガリーなど東欧諸国を中心とした移民が増え続けてイギリス人の雇用機会を奪ってしまう、だから労働力の自由な移動を前提とするEUから抜け出して移民をシャットアウトしてしまえ、との声であった。  

確かにその通りになって、多くの東欧諸国の移民は帰国してしまい、母国で就労機会を得た。  その代わりに東欧からの移民が務めていたNHS(国民健康保険サービス)の看護士やケアマネージャーなどの穴が埋まらなくなった。移民が多かったトラックの運転手など輸送部門の人員不足も埋まらない。  ロンドンのホテルのフロントで数多く見かけた勤勉なコンシェルジュやボーイなども多くは東欧から来た移民であった。  

人手不足で公共部門やサービス業の賃金が上昇して、それがさらに物価を押し上げるという悪循環に陥っている。イングランド銀行が心配しているのはこのような賃金=物価の悪循環がさらに強まることである。FRBと違ってイングランド銀行に利下げ観測が全く出てこない。 (後略)【6月5日 俵一郎氏 (国際金融専門家) NewsSocra】
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“2016年の国民投票で「離脱」賛成を投じた人たちもその行動を悔いるようになった、ということだ。経済の低迷、物価の上昇を目のあたりにして「ブレグジットを通じて英国が貧しくなってしまった」と体感するようになった人が増えたためだ。【同上】

****「ブレグジットは間違い」の割合57%、過去最高を更新=ユーガブ****
英調査会社ユーガブが今月実施した調査によると、英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)は「間違いだった」と考えている人の割合が57%となり過去最高を更新した。「正しかった」は32%だった。ユーガブが18日に調査結果を発表した。

EU再加盟の是非を問う国民投票が今、実施された場合にどうするかを尋ねたところ、再加盟を「支持する」としたのは55%と半数を超え、「支持しない」は31%だった。2021年1月に行った調査は「支持する」が49%、「支持しない」が37%で、今回は再加盟支持がやや増えた。

ブレグジットの現時点での受け止め方については、「どちらかと言えば失敗だった」と捉えている人は63%、「どちらかと言えば成功だった」は12%、「どちらでもない」は18%だった。

調査は2000人余りを対象に実施した。【7月18日 ロイター】
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【TPP加盟でも、EU離脱の穴埋めならず】
イギリスは16日、環太平洋経済連携協定(TPP)に正式加盟しました。スナク政権はEU離脱後の外交構想「グローバル・ブリテン」の中でインド太平洋地域への関与拡大を掲げてきた成果と強調していますが、EU離脱による経済的な損失を埋め合わせるには不十分との見方がもっぱらです。

****英、EU離脱の成果誇示 TPP加入、経済効果に疑問も*****
(中略)「EU離脱後の自由がもたらす真の経済的利益だ」。TPP参加国による3月31日の合意後、スナク英首相は声明を発表し、EU離脱が無ければTPP加入は実現しなかったと訴えた。

2年弱の交渉を経て巨大経済圏に加わることで「英国は今や世界経済において新たな雇用や成長、革新のチャンスをつかむ絶好の位置に就けた」と強調した。

英政府によると、世界6位の経済規模を持つ英国がTPPに入れば、参加国の国内総生産(GDP)の合計は世界全体の12%から15%に高まる

英国にとっては食品や自動車など物品の輸出関税が減免されるほか、金融関連などサービス部門の市場拡大にもつながると期待されている。

ただ、TPP加入が英国経済に与える効果は限定的との見方もある。英国はブルネイとマレーシアを除く全てのTPP参加国と自由貿易協定を締結済みで、英政府の試算では10年後のGDP押し上げ効果はわずか0.08%にすぎない。

一方、予算責任局(OBR)によると、EU離脱は英国のGDPを長期的に4%程度押し下げる見通しだ。欧州国際政治経済研究所のデビッド・ヘニグ氏は「政府の宣伝は過剰だ」とし、EUとの関係改善の方が「はるかにメリットが大きい」と指摘している。【4月3日 時事】
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