孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スウェーデンNATO加盟  11日からのNATO首脳会議での結着に「期待」 水差すコーラン焼却

2023-07-10 23:41:28 | 欧州情勢

(ストックホルムで発生した反トルコデモ(2023.1.21)。NATO加盟問題を機にスウェーデンでは急速に反トルコ感情が高まっているが、その背景には反移民の機運の高まりもある。【7月4日 六辻彰二氏 YAHOO!ニュース】)

【スウェーデンのNATO加盟 協議のヤマ場に 注目されるトルコ・エルドアン大統領の対応】
周知のように、スウェーデンのNATO入りには全加盟国の批准が必要ですが、トルコとハンガリーがまだ手続きを終えていません。トルコは、テロ組織と見なす非合法組織クルド労働者党をスウェーデンが支援していると非難し、テロ対策への協力を加盟の条件としています。

この問題で取り上げられるのはもっぱらトルコ・エルドアン大統領の対応で、ハンガリーについてはあまり取り上げられることがありません。トルコにのように明確な反対理由があるようにも思えませんが、EU・NATOの異端児オルバン首相は乗り気でないよう。そのあたりは、トルコの話が長くならなければ最後に触れたいと思います。

いずれにしても、トルコとの話がまとまれば、オルバン首相一人が抵抗するということはなさそうにも思えます。
そこで、トルコの話。

11〜12日に行われるNATO首脳会議を控えて、トルコの対応がどうなるのか・・・一つのヤマ場にさしかかっています。(この記事をアップする頃には、何らかの方向性が出ているかも・・・)

****スウェーデンとトルコ首脳会談へ NATO加盟を協議、ヤマ場に****
トルコのエルドアン大統領とスウェーデンのクリステション首相は10日、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が開かれるリトアニア・ビリニュスで会談する。

トルコがスウェーデンのNATO加盟への反対を取り下げ、容認に転じるかどうかが焦点。注目の加盟協議はトップ会談という最大のヤマ場を迎えた。

NATOのストルテンベルグ事務総長も会談に参加。トルコが容認すれば、スウェーデンの加盟が事実上決まる。NATOの防衛力が強化され、ロシアに対する強力なメッセージとして11〜12日に行われる首脳会議への弾みとなる。一方で先送りとなれば、NATOの結束に打撃となる。【7月10日 共同】
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両国は6日にも外相レベルで会談していますが、トルコの合意を得られず、上記10日の首脳会談に持ちこしています。

****スウェーデン、トルコ説得できず NATO加盟 10日首脳会談に持ち越し****
スウェーデンは6日、北大西洋条約機構(NATO)加盟を巡り反対姿勢を貫くトルコを説得できずに終わった。11─12日にリトアニアで開催されるNATO首脳会議までの合意が期待されており、結果は両国が週明け10日に行う首脳会談に持ち越されることになった。

NATOのストルテンベルグ事務総長はNATO本部で両国の外相と会談後、スウェーデンの加盟は「手の届くところにある」という認識を示した。(後略)【7月7日 ロイター】
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トルコ・ハンガリーを除くNATO加盟国は、この7月のNATO首脳会議でスウェーデン加盟への合意を取り付けたいという期待があります。

****スウェーデン加盟実現に期待 NATO首脳会議で****
NATO=北大西洋条約機構のストルテンベルグ事務総長はスウェーデンについて、来週開かれるNATO首脳会議で「前向きな決定が下される可能性がある」と述べて、加盟実現に期待感を示しました。

ストルテンベルグ事務総長 「いよいよスウェーデンがNATOに加盟する時が来た。来週の首脳会議で前向きな決定が下される可能性がある」

ストルテンベルグ事務総長は6日、スウェーデンの外相と加盟に難色を示すトルコの外相と協議しました。

その後の記者会見で、ストルテンベルグ氏は「協議で良い進展があった」としたうえで、来週、リトアニアで開かれるNATO首脳会議で「前向きな決定が下される可能性がある」と述べて、加盟実現に期待感を示しました。

トルコはスウェーデンに対し、加盟承認の条件としてテロ対策への協力を求めていますが、トルコのフィダン外相は「スウェーデンは対テロ法をすぐに実行に移すべきだ」と話すなど、慎重姿勢を崩しませんでした。(後略)【7月7日 TBS NEWS DIG】
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アメリカも「期待」では同様で、トルコ・エルドアン大統領への働きかけを行っています。

****バイデン氏、スウェーデンのNATO加盟「できるだけ早く」とトルコ大統領に意向伝える****
米国のバイデン大統領とトルコのタイップ・エルドアン大統領は9日、電話で会談し、スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟問題について協議した。米ホワイトハウスによると、バイデン氏は「スウェーデンをできるだけ早くNATOに迎え入れたい」との意向を伝えた。

スウェーデンの加盟はトルコが議会批准を保留しているため実現していない。トルコ側の発表によると、エルドアン氏は、トルコがテロ組織とみなすクルド勢力が「デモを自由に続けている」ことを理由にスウェーデンへの不満を示した。両氏は11、12日にNATO首脳会議が開かれるリトアニアの首都ビリニュスで会談することで合意した。

米国のジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官は記者団に、電話会談が約45分間に及び、バイデン氏はトルコにF16戦闘機を売却する方針に変更はないと伝えたことを明らかにした。米議会ではトルコへのF16売却に反対論が出ている。【7月10日 読売】
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もちろん、表向きはスウェーデンのNATO加盟問題とアメリカのF16売却問題は別個の問題です。
「2カ国のNATO加盟とF-16の購入という2つの独立した問題を、それぞれ条件にすることは適切ではないしフェアではないでしょう」(トルコのメヴリュット・チャヴシュオール外務大臣)【2月21日 ARAB NEWS】

しかし、実際はトルコ側としては、スウェーデンのNATO加盟に同意するときは“見返り”を最大化し、「なるべく高く売りつけよう」としているのは間違いないでしょう。

一方、エルドアン大統領からは、スウェーデンのNATO加盟問題とトルコのEU加盟問題を絡める発言も。

****トルコ大統領、EU加盟を要求 スウェーデンNATO加盟巡り****
トルコのエルドアン大統領は10日、同国の議会がスウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟を承認する前に、欧州連合(EU)はトルコのEU加盟に道を開くべきだと述べた。

リトアニアで開催されるNATO首脳会議への出発を控えた大統領は、スウェーデンの加盟は昨夏の首脳会議で合意した内容の履行にかかっているとし、トルコの譲歩を期待すべきでないと述べた。

ウクライナとロシアの戦争が終結すれば、ウクライナのNATO加盟プロセスも容易になるだろうと指摘した。

エルドアン大統領は、17日に失効するウクライナ産穀物を黒海経由で輸出する合意について、延長についてロシアのプーチン大統領と協議する方針を示した。またプーチン大統領は8月にもトルコを訪問するとの見通しを示した。【7月10日 ロイター】
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トルコの長年の悲願にもかかわらず、トルコの人権状況などを問題視するEU側によって後回しにされ、後から加盟を申請した国に追い越されることにもなっています。

EU側の本音としては、難民問題で防波堤となるトルコとの決裂は避けたいものの、イスラム主義を強めるトルコ加盟を認める意思はまったくないでしょう。

エルドアン大統領もそうしたEU側対応に憤慨し、2017年当時にすでに「EU加盟はもはや必要ない」と開き直る事態にもなっており、現実的交渉議題からは外されています。

*****難航するEU加盟 トルコ大統領「もはや必要ない」*****
トルコのエルドアン大統領は(2017年10月)1日、難航するEUへの加盟交渉について「我々から交渉を打ち切るつもりはない」としたうえで、「もはやEUの一員になる必要はない」と述べ、加盟断念もやむなしとの考えを示しました。

トルコはEUの前身であるEEC(欧州経済共同体)の時代から加盟を希望し、EUへの加盟交渉は2005年から続いています。しかし、人権問題などを理由にEU側は難色を示していて、交渉は遅々として進んでいません。

近年、トルコはEU側と距離を置く一方で、ロシアやイランとの関係を強化しています。

難民流入問題で防波堤としての役割を担うトルコと、それに依存するEU側とで関係が悪化すれば地域の安全保障にも悪影響を及ぼす恐れがあります。【2017年10月1日 テレ朝news】
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エルドアン大統領としてもEU加盟問題が今前進するとは思っていないでしょう。そうした因縁の問題を改めて持ちだしたのは、“ハードルを高くするため”あるいは“嫌がらせ”でしょう。

【「期待」に水を差すコーラン焼却問題】
スウェーデン、ストルテンベルグNATO事務総長やバイデン大統領の「7月のNATO首脳会議で・・・」という期待に水を差す形になったのが、スウェーデンでのコーラン焼却問題。

****スウェーデン、NATO加盟へ視界不良 トルコが聖典焼却で硬化****
北欧スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟がなお難航している。同国の「対テロ協力」を承認の条件にする加盟国トルコが、スウェーデンで最近起きたトルコへの抗議デモを受け態度を硬化させたためだ。スウェーデンやNATOは11日のNATO首脳会議開幕までの加盟合意を目指すが先行きは不透明だ。(中略)

トルコがスウェーデンの加盟を拒むのは、トルコの非合法組織「クルド労働者党」(PKK)やそれに連なる「テロリスト」を支援しているとみるためだ。スウェーデンにはクルド系住民が多く暮らし、トルコのエルドアン大統領への抗議デモも頻発。そのためトルコ側はテロ対策の強化を求めていた。

スウェーデンはトルコの要望を受け6月1日、新たな反テロ法を施行した。過激派組織を支援などした個人に最高禁錮8年、テロ組織の指導者に終身刑を科す内容で、ビルストロム外相は「トルコの懸念を和らげるだろう」と歩み寄りを期待した。

エルドアン氏も5月末に大統領再選を果たし、態度を軟化させやすくなったとの見方もあった。

だが、法施行後もスウェーデンの首都ストックホルムではエルドアン氏への抗議デモが発生し、6月28日にはモスク(イスラム教礼拝所)前で男がイスラム教の聖典コーランを焼却。エルドアン氏は「テロリストのデモを許すなら、友好関係は決して築けない」と反発を強めた。(中略)

一方、東欧の加盟国ハンガリーもスウェーデン加盟の批准を保留中。欧州連合(EU)内で強権政治を批判されるハンガリーのオルバン首相は、スウェーデンがハンガリーの民主主義の健全性に関し「噓」を広めていると批判。

ハンガリーは経済的なつながりが強いトルコを重視しているともされ、ハンガリーのシーヤールトー外相は「トルコの姿勢に変化があれば(加盟の)手続きを遅らせない」と述べている。【7月5日 産経】
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ハンガリー・オルバン首相が重視しているのは、トルコというより、ロシアのプーチン大統領との関係ではないでしょうか。

それはともかく、コーランに火を付けたのはイラクから数年前に逃れてきた難民の男性。

****モスク前でのコーラン焼却デモを許可 スウェーデン警察****
スウェーデン警察はイスラム教の犠牲祭(イード・アル・アドハ)の3連休初日に当たる28日、首都ストックホルムの主要モスク(礼拝所)の前でイスラム教の聖典コーランを燃やすデモを許可したと発表した。

焼却に伴う治安上のリスクが懸念されるものの「現行法下で(デモ)申請の却下を正当化できる性質のものではない」としている。

スウェーデンでは今年1月にトルコ大使館の前でコーランが焼かれたことをきっかけに、数週間にわたる抗議デモが発生。スウェーデン製品のボイコットが呼び掛けられたり、トルコ政府の態度硬化で北大西洋条約機構加盟プロセスのさらなる停滞が生じたりした。

警察はその後の2月、治安上のリスクを理由に、トルコ大使館とイラク大使館の前で計画されていた個人と団体による二つのコーラン焼却デモを禁止した。しかし控訴裁判所は2週間前、この決定を退けた。

28日のデモを申請したのは、2月に個人によるデモを却下されたサルワン・モミカ氏で、申請書には「ストックホルムの大モスクの前で抗議し、コーランに関する自分の意見を表明したい。コーランを破って燃やす」と記している。

警察は28日、全国から警官を動員し、警備を強化すると発表。AFP特派員によると未明にはすでに数台のパトカーがモスク付近に駐車していた。

スウェーデンの政治家たちはコーラン焼却を批判はしているが、表現の自由の権利も断固擁護している。 【6月28日 AFP】
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「表現の自由」ということでは、禁止することもできない・・・悩ましいところ。
コーラン焼却事件に対するスウェーデン首相の姿勢は「合法だからといって、必ずしも適切だとは限らない」というもの。

****スウェーデン首相「他者侮辱する必要ない」 コーラン焼却デモ受け****
スウェーデンのウルフ・クリステション首相は6月30日、首都ストックホルムの主要モスク(イスラム礼拝所)前で行われたイスラム教の聖典コーランを燃やす抗議活動から距離を置く見解を示した。この抗議活動はイスラム世界の一部から反発を受けている。

中道右派のクリステション氏は「どんな結果を招くのか予測は難しいが、反省すべき人は大勢いると思う」「これは重大な安全保障上の問題だ。他者を侮辱する必要はない」と述べた。

イラク出身のサルワン・モミカ氏は6月28日、警察から事前に抗議活動の許可を得た上で、ストックホルム最大のモスク前でコーランを踏み付け、火を付けた。

警察が抗議活動を許可していたことについて、クリステション氏は「合法だからといって、必ずしも適切だとは限らない」と主張した。(後略)【7月1日 AFP】
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もっとも、控訴裁判所判断は政府の意向を受けたもので、こうしたコーラン焼却を認めたスウェーデン側の状況の背景には、スウェーデン政府・社会の右傾化があるとの指摘も。

“トルコ政府の神経をあえて逆なでするようなスウェーデンの対応は、昨年9月の選挙で保守派政権が発足したことに起因する。その中心にあるスウェーデン民主党は大戦期のナチスに起源をもち、移民排斥や同性婚反対を主張する、いわゆる極右政党だ。”【7月4日 六辻彰二氏 YAHOO!ニュース】

“スウェーデンで今年1月に行われた世論調査では、約8割の回答者が「たとえNATO加盟が遅れても安易にトルコと妥協すべきでない」と応えた。つまり、スウェーデンでは党派を超えて反トルコ感情が強くなっているとみてよい。”【同上】

当然ながら、エルドアン大統領は態度を硬化させています。

****スウェーデンのNATO加盟努力、抗議活動で台無し=トルコ大統領****
トルコのエルドアン大統領は、同国がテロリストとみなす組織の支持者による抗議活動がスウェーデンで続いていることが、スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟に向けた取り組みを台無しにしているという認識を示した。

トルコ大統領府によると、エルドアン大統領はオランダのルッテ首相との電話会談で「スウェーデンは反テロ法の改革など、正しい方向に向けた措置を講じている」と指摘しつつも、トルコがテロリスト組織とみなすクルド労働者党(PKK)の支持者が引き続き「テロ行為を称賛するデモを自由に組織しており、スウェーデンが講じた措置を無効にしている」と述べた。

11━12日にリトアニアで開催されるNATO首脳会談までにスウェーデンのNATO加盟に向けた道筋をつけることが期待されていたものの、トルコが首脳会議前に反対を取り下げるかどうかについてはなお不透明感が漂う。【7月6日 ロイター】
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上記のような“不透明感が漂う”中で行われる、10日のスウェーデンとトルコ首脳会談、11日からのNATO首脳会議・・・・どういう結論になるでしょうか。

【NATO首脳会議ではウクライナ加盟問題、日本連絡事務所開設問題も議題に】
なお、NATOに関しては、ウクライナがロシアとの戦争終了後の加盟を希望しており、今回の首脳会議で加盟時期に関する道筋を示すように求めています。

このウクライナ加盟に関しては、トルコ・エルドアン大統領はゼレンスキー大統領との会談で支持を表明しています。
一方、バイデン大統領は「まだNATO加盟の準備ができていないと思う」と「時期尚早」との考えを示しています。

NATO首脳会議では、フランス・マクロン大統領が反対しているNATOの日本連絡事務所開設問題も議題になる予定です。

****仏、NATO日本事務所に反対 マクロン氏、事務総長に伝達****
フランス大統領府は7日、北大西洋条約機構(NATO)が検討している日本連絡事務所の開設について、マクロン大統領がNATOのストルテンベルグ事務総長に反対の意向を伝えたと明らかにした。フランスが反対し続ければ開設が難しくなる。

日本事務所開設については、リトアニア・ビリニュスで11日から開かれるNATO首脳会議でも議論されるとみられる。

フランス大統領府当局者は7日、首脳会議を前に記者団に対し「NATOは『北大西洋』条約機構の略だ。条約の条文には北大西洋という地理的範囲が明記されており、こうした原則的な理由から賛成していない」と指摘した。【7月8日 共同】
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日本連絡事務所の開設には、中国の軍事的な台頭を念頭に、NATOと日本などアジア太平洋地域との連携を強める狙いがありますが、マクロン大統領は中国を過度に刺激し、緊張が高まるのを懸念しているとみらています。
実現には加盟国全部の賛成が必要ですので、フランスが反対する限り実現しません。

ということで、スウェーデン加盟問題を始め、注目される議題が多いNATO首脳会議です。
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