孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スーダン内戦  エジプトが和平仲介に 蘇るダルフールの悪夢

2023-07-14 23:14:30 | アフリカ

(スーダン・ハサヒサで、避難民の収容所となっている中学校に張られたテントやシェルターの外に座る男性(2023年7月10日撮影)【7月13日 AFP】)

【「本格的な内戦」突入の恐れ・・・・すでに死者3000人、避難者300万人】
正規軍と準軍事組織「即応支援部隊」(RSF)との戦闘が続くアフリカ・スーダンですが、別に皮肉ではなく、下記記事には少し驚きました。
“「本格的な内戦」突入の恐れ”・・・「えっ、まだ内戦じゃなかったの? これから更に本格化するの?」って。

****スーダン、「本格的な内戦」突入の恐れ 国連事務総長****
国連のアントニオ・グテレス事務総長は9日、スーダンで住宅地区が空爆され、20人以上の民間人が死亡したのを受け、「本格的な内戦」に発展する恐れがあると警鐘を鳴らした。

スーダンでは正規軍と準軍事組織「即応支援部隊」との戦闘が3か月近く続いており、これまでの死者は約3000人に上る。

保健省は、首都ハルツームの対岸にあるオムドゥルマンが8日に空爆され、民間人22人が死亡し、多数の負傷者が出ていると明らかにした。 RSF側は31人が死亡したとしている。

ファルハン・ハク国連事務総長副報道官によると、グテーレス氏はオムドゥルマンへの空爆を非難。「今なお続いている紛争が本格的な内戦に発展し、地域全体が不安定化する可能性を非常に憂慮している」と語ったという。 【7月10日 AFP】
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“これまでの死者は約3000人に上る”に加えて、300万人超の避難民が発生しています。

****スーダン紛争、避難者が300万人突破=国際移住機関****
 国際移住機関(IOM)は11日夜、約3カ月に及んでいるスーダン国軍と民兵組織「即応支援部隊(RSF)」の戦闘で発生した避難者が300万人を突破したとの推計を公表した。240万人以上が国内で避難、73万人以上が国外に避難しているという。

4月15日の紛争開始以来、大半の市民が紛争中心地となっている首都ハルツームか、民族を標的とする暴力が増加しているダルフールから避難しているという。

国連当局者らは、地域や国際的な仲介努力が失敗しており、スーダンが内戦に陥る恐れがあると指摘している。

国連スーダン特使のフォルカー・ペルテス氏はベルギーで、「この戦闘はすぐには終わらない」と発言。休戦協定がこれまで何度も破られ、「基本的には(休戦期間が)両勢力の立て直しに利用されている」と述べた。【7月13日 ロイター】
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【内戦を長期化させる周辺国・関係国の支援・関与】
どこの内戦でも同じですが、内戦を激化・長期化させるのが周辺国・関係国の軍事支援・関与です。

****軍事衝突のスーダン 米中露の利害錯綜****
正規軍と準軍事組織の軍事衝突が起きたアフリカ北東部スーダンは、地下資源が豊富な戦略上の要衝だ。周辺国のほか米中露3カ国も浸透を図ってきたが利害は錯綜(さくそう)しており、混迷が深まる一因になりかねない。

割れる中東の大国
スーダンでは15日、ブルハン氏が主導する軍と、ダガロ司令官率いる準軍事組織「即応支援部隊」(RSF)の戦闘が始まった。

軍を支援するのはシーシー大統領が統治する北隣のエジプトだ。シーシー氏自身も軍出身で、エジプト、スーダン両軍はしばしば演習を行うなど関係が深い。

ロイター通信は20日、スーダンにいたエジプト軍兵士約180人が空路で本国に脱出し、RSFが拘束した兵士27人の身柄を在スーダンのエジプト大使館に引き渡したと報じた。エジプト軍が水面下で活動していた可能性をうかがわせる。

これに対し、サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)はRSFに肩入れしているようだ。両国が介入したイエメン内戦にRSFは兵を送って支援し、関係を深めた。

スーダンでは、バシル独裁政権が支配した約30年間でイスラム色が強まり、軍関係者に、その傾向が残っているとされる。一方のRSFは、イスラム過激派を敵視するサウジなどと立場が近いという側面がある。

親米のサウジとエジプトはともに反米のイランと関係改善を図るなど、中東で広がる融和の機運を担ってきたが、スーダンでは利害が割れたとの見方が多い。

露の侵略の資金源か
スーダンをめぐっては大国の思惑も絡み合い、過去に米露が火花を散らした経緯もある。
米国は1993年、バシル政権が国際テロ組織アルカーイダのビンラーディン容疑者らをかくまったとして、テロ支援国家に指定した。この機に乗じて政権と蜜月関係を築いたのがロシアだった。

しかし、軍とRSFによる2019年のクーデターでバシル政権が崩壊し、情勢が一変。米国は20年、スーダンに対するテロ支援国指定を解除し、関係改善を模索していた。

一方のロシアは巻き返しに躍起だ。RSFと親密な関係を築き、昨年2月にはダガロ氏が訪露したほか、今年2月にはスーダンの紅海沿岸に海軍基地を建設する合意を結んだ。紅海はインド洋と地中海を結ぶ海上輸送の大動脈で、米中も沿岸のジブチに基地を有する。アフリカへの影響力強化を目指すロシアの意欲が透けてみえる。

米CNNテレビは20日、露民間軍事会社ワグネルがリビアやシリアを経由し、RSFに武器を供給していると報じた。ワグネルはRSFが採掘利権を握る金を獲得し、ウクライナ侵略の資金を捻出しているともささやかれている。

中国も権益死守に腐心
アフリカに巨額の投資を行ってきた中国はスーダンとも関係を深めてきたが、最近は意欲が衰えていたといわれる。
香港の英字紙、サウスチャイナ・モーニング・ポスト(電子版)は18日付で、11年に南部スーダンが「南スーダン」として独立したことに伴い、油田地帯の採掘権も移ったことが主な理由だと指摘した。

同紙は中国・アフリカ関係に詳しい米ジョージ・ワシントン大のデビッド・シン教授が「中国はビジネスと商圏を守る上で(軍事衝突を)懸念している」と述べたとし、アフリカの紛争の調停役を務めようと計画していた中国にとり、「スーダン情勢は明らかに(状況を)複雑にした」との見方を示したと伝えた。【4月21日 産経】
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なお、上記記事でリビアを介したロシア・ワグネルのRSF支援があげられていますが、リビア自体が内戦(状態)で二つに割れており、ロシア・ワグネルが関与しているのはリビアの東部ベンガジを拠点とするハフタル将軍率いる軍事組織「リビア国民軍」です。

“米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は4月20日、隣国リビアの東部ベンガジを拠点とする軍事組織「リビア国民軍」が17日にRSFに対し、航空機による弾薬提供を行ったと報じた。国民軍を率いるハフタル将軍とRSFのモハメド・ハムダン・ダガロ司令官はともにロシアやサウジアラビアなどとの関係が深いという共通点がある。”【4月23日 読売】

【エジプトが和平仲介に乗り出す】
“本格的内戦突入”への歯止めをかけるものとして期待を抱かさせる数少ない(と言うか、“唯一の”と言うべきか)ものが、スーダンの隣国で影響力が大きいエジプトの仲介です。

****スーダン近隣国、13日にエジプトで首脳会議 戦闘停止を協議へ****
エジプトは9日、正規軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の戦闘が続くスーダンの近隣諸国による首脳会議を首都カイロで13日に開催し、4月15日に始まった戦闘を終結させる方法を協議すると発表した。

スーダン正規軍の最も重要な同盟国とみられるエジプトと、RSFと密接な関係にあるアラブ首長国連邦(UAE)はこれまで、どちらも戦闘に表立った介入はしてこなかった。

両国は米国とサウジアラビアが仲介した停戦交渉にも関与していない。交渉は先月に決裂した。

エジプト大統領府は声明で、スーダンの戦闘を平和的に解決するための「効果的なメカニズム」を近隣諸国と策定することが会議の目的と説明した。

スーダンの代表団は10日にエチオピアの首都アディスアベバで準備協議を開く見込み。4年前のバシル元大統領の失脚後に正規軍とRSFと権力を共有した文民政党の代表が含まれる。(後略)【7月10日 ロイター】
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これまでのところは上記記事にもあるように、エジプトはスーダン政府(正規軍)を支援していると見られています。

ただ、スーダンの混乱の長期化は、難民の大量流入によるエジプト国内の不安定化や、エジプトにとって死活的に重要なナイル川水資源利用への危険など、エジプトにとっても重大な不利益をもたらします。

****エジプトが待望のスーダン和平仲介の試み****
3か月以上を要してついにエジプトは隣国スーダンにおける危機を終わらせるための有効な枠組みの模索を試みる重要な提案を始めた。9日、エジプト大統領は今週カイロでスーダンの近隣諸国の首脳会談を開催し、敵対し合うスーダンの軍閥間の紛争集結の方法を話し合うと発表した。

木曜日の首脳会談は他の地域的および国際的な取り組みと協調しつつ、近隣諸国とともに紛争の平和的解決のための「効果的な仕組みづくり」を目的とするとエジプト大統領府は述べた。この会議にはエジプト、リビア、チャド、中央アフリカ共和国、南スーダン、エチオピア、エリトリアの国および政府の首脳が参加予定だ。

この発表と同時に、スーダンは「本格的な内戦」の瀬戸際にあるとの国連による警告がなされた。このことは地域の指導者や国際社会にとって驚きではないだろう。

スーダン国軍と即応支援部隊(RSF)の民兵の間の暴力行為の勃発によって深刻な人道危機が引き起こされ、首都ハルツームとオムドゥルマンでは数百万人が難民となり数百人が死亡、病院を含む主要な都市施設が破壊され、二都市の大部分で電気と水の供給が断たれている。

さらに双方ともに決定的な軍事的勝利を収めることに失敗したために、紛争が長期化し 、長期間の停戦合意や政治プロセスの開始の試みも頓挫している。(中略)

スーダンの近隣諸国や8つの国からなる政府間開発機構(IGAD)を含むその他の仲介者は、少なくとも公式には、敵対する両者のいずれも支持せず平等に扱っている。米国は明確にそうしており、軍に対してもRSFに対しても制裁を課すと脅しをかけている。

しかしその裏では、一部の仲介者は贔屓をしており、外国の当事者が実際にダガロ将軍を支援しているとの主張が存在する。そう主張する人々の中にはアル・ブルハン将軍本人(正規軍トップ)もいる。(中略)

「スーダンの安定はより良い安全保障協力をもたらすものであり、このことはエジプトそのものの安定にとってきわめて重要である。」 オサマ・アル・シャリフ氏(アンマンに拠点を置くジャーナリスト兼政治評論家)

不安材料は、スーダンに最も近い諸国が双方に紛争を終わらせて、今年前半に合意された枠組み協定に立ち戻らせる方法を見つけない限り、広大な国土すべてに内戦が広がるのは時間の問題であるということだ。

すでにダルフールでは残虐行為がなされたとの証拠が無数にあり、コルドファン州と青ナイル州でも民族間、部族間の緊張が高まっている。過去の内戦にかかわり、2020年のジュバ和平合意に調印した反政府勢力は、武器を取って戦争を再開すると脅している。一部には分離主義を目論むものもいる。

このため、特にエジプトの介入が重要となる。

エジプトにとって、スーダンでの紛争はすでに不安をもたらす要因となっている。何万ものスーダン人がエジプトに避難しており、当局はこの流れを食い止めるためにビザの規制に追われている。しかしさらに重要なことは、エジプトは戦略的、歴史的、文化的、経済的にスーダンとのつながりを持っていることだ。このことは長きにわたってエジプトの安定と国家安全保障の土台とみなされてきた。

ハルツームの権力が崩壊すれば、数百万人がエジプトになだれ込む恐れがある。両国ともナイル川流域に膨大な人口を抱えているからだ。エジプトのスーダンとの国境線は長く、そのために治安が最大の関心となっている。

スーダンが不安定になると国境を超えた犯罪、武器や物品の密輸、さらには過激派組織の浸透の増加にさえつながりかねない。スーダンの安定はより良い安全保障協力をもたらすものであり、このことはエジプトそのものの安定にとってきわめて重要である。

歴史的に、両国は特に貿易、投資、エネルギー関連で強い経済的つながりを持っている。スーダンのナイル川は極めて重要な水路でありエネルギー源であるため、両国にとって不可欠なものだ。エジプトはほぼ完全に水資源をナイル川に依存しており、水需要の90%近くがナイル川から来ている。

スーダンにおける紛争はナイル川の流れを崩壊させる可能性があり、エジプトの水の安全保障と農業部門に脅威をもたらしかねない。このこともまた、大エチオピア・ルネサンスダム計画を巡るエチオピア政府との論争の解決を模索するエジプト政府にとって、不安材料となるだろう。

地政学的に、スーダンが不安定であることによって権力の空白地帯が生まれる可能性があり、それによって地域の他の団体が影響力を増し、エジプトの利益に対立する可能性がある。アフリカでの関係回復に重点を置いているイスラエルがスーダンの混乱から利益を得る可能性をエジプトが懸念していないとは考えられない。

エジプトの提案が開始されるのは遅かったかもしれないが、今日では両者に交渉を促し、彼らの国を崩壊から救う手立てを見つけるための最も可能性の高い希望となっている。【7月12日 ARAB NEWS】
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その“待望の”エジプトによる和平仲介がどうなったのか?
今のところこの件に関する報道は多くありませんが、下記のような合意声明が出されています。

****エジプト:エチオピアとの首脳会談、スーダン近隣諸国首脳会議の主催****
(中略)また13日、今年4月より戦闘が続くスーダン情勢の安定化に向け、近隣諸国による首脳会議がカイロで開催された。スーダンでは、スーダン軍と準軍事組織「迅速支援部隊(RSF)」間の武力衝突により、治安状況が急速に悪化している。

同会議には、主催国エジプトのほか、リビア、チャド、南スーダン、エチオピア、エリトリア、中央アフリカ共和国が参加した。会議後、シーシー大統領は全参加国が合意した最終声明を発表した。概要は、以下のとおりである。

武力主体に対して即時停戦の呼びかけ。
あらゆるスーダン国外からの干渉を終わらせる必要性の確認。
近隣諸国の安全保障に深刻な影響を及ぼしうるスーダン国内の分断を防止すること。
スーダンの国内避難民や、戦闘を逃れて近隣諸国に流入する難民への対処。
食糧及び医療物資の不足への早期対応。
情勢安定化に向けた政治的解決の必要性の確認。
スーダンでの包括的な国民対話の呼びかけ。
近隣諸国の外相級会合をチャドで開催すること。【7月14日 中東調査会】
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声明内容は“お題目”であり、問題はこれをいかに実効あるものにしていくかであり、エジプトなど関係国がどれだけ本気で取り組むかです。

【蘇るダルフールの悪夢】
事態は悪化しています。冒頭のグテレス国連事務総長の懸念が現実のものともなっています。

****スーダン 87人が殺害され集団墓地に埋められる 国連「民族間紛争に変容」****
武力衝突の続くスーダンで少なくとも87人が殺害され、集団墓地に埋められたと国連が発表しました。民兵組織が殺害に関与しているとしています。

国連の人権高等弁務官事務所は13日、信頼する情報筋の話としてスーダンの西ダルフール州で住民ら少なくとも87人が殺害され、集団墓地に埋められたと発表しました。

埋められた住民の多くがマサリット族とみられ、アラブ系民兵組織の「即応支援部隊」などが殺害に関わったということです。

国連は声明で「民間人の殺害を最も強い言葉で非難する。徹底的な調査が行われなければならない」としています。

この地域では、これまでも「ダルフール紛争」という名で知られる非アラブ系住民の虐殺が起きていて、「即応支援部隊」の前身組織が非難を受けていました。 国連は「衝突が民族間、部族間の紛争に変容しつつある」と指摘しています。(後略)【7月13日 テレ朝news】
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RSF「即応支援部隊」の前身組織は「ダルフール紛争」で非アラブ系住民の虐殺・ジェノサイドを行ったアラブ系民兵組織(ジャンジャウィード)であり、史上最悪の人道危機と呼ばれた“ダルフールの悪夢”が再現することが強く懸念されます。

スーダン西部のダルフール地方では、2003年からスーダン政府軍とアラブ系住民による反政府武装組織を出した非アラブ系住民への集団虐殺が始まり、2008年頃まで続きました。600万の人口のうちおよそ45万人が殺害されたり餓死したとされ、200万人が難民となりました。

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殺戮は朝早く起こることが多い。何百人ものジャンジャウィード(「武装した騎手」という意味の民兵集団)が馬やラクダに乗って、村々を襲いに来る。顔中に巻いたターバンからは目だけがのぞいている。

たいていの場合、まずスーダン空軍が戦闘機や対地攻撃用のヘリコプターで村を空爆し、村人を大量殺害する。爆撃をまぬがれた村人は逃げまどい、必死になって隠れる場所を探す。

そこに政府軍兵士の支援を受けたジャンジャウィードが現れ、村の男性と少年を駆り集め、村から連れ出す。運がよければ射殺されるだけだが、ほとんどの場合まず拷問にかけられる。ときにはずらりと鎖につながれ、生きたまま焼き殺される。頭を切り落とされ、頭部を井戸に投げ込まれることもある。生き残った村人に、汚染された井戸水を飲ませるためだ。……
かろうじて生き延びても、飢えに苦しみながら難民キャンプまでの長い旅を歩き続けなければならない。だがその難民キャンプも、故郷の村より安全というわけではない。

多くのキャンプでは、食料も収容施設も医療施設も不足している。さらに女性や少女が薪を拾いにキャンプから出ると、ジャンジャウィードに襲撃され、レイプされる危険性がある。恐怖に陥れようと、待ち伏せているのだ。<ジェーン・スプリンガー/築地誠子訳『一冊でわかる虐殺ジェノサイド』2010 原書房 p.2-3>【世界史の窓】
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